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『剣も鎧も重すぎる! ~異世界で使えるのは笑顔と口先だけでした~』  作者: -eto-
第一章《夜棘と、住処を追われた魔物たち編》

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鉱殻獣が「掘るな」と言った場所を調べたら、先に掘った人間がいました

 翌朝。


 三日間の試掘、その初日。


 親方が選んだ鉱夫は六人だけだった。


 必要以上に人数を増やせば、それだけ振動も騒音も大きくなる。まずは小さく始めるという昨日の約束を、親方はきちんと守っていた。


 俺達四人も同行する。


 もっとも、俺の役目は掘ることではない。


「っっっっっくぁ………持てないです」


 渡されたつるはしを両手で持ち上げ、俺は満面の笑みで返した。


「知ってたけど」


 ミミナが笑っている。


「笑うなよ!念のため確認しただけだよ」


「何をです?」


「……昨日より筋力が増えてないかなって」


 ノアが俺の腕を見る。


「増える要素がありましたか?」


「ありませんでした」


「では当然の結果ですね」


「くっ…悲しいけど言い返せない」


 リリアは少し離れたところで剣帯を直していたが、こちらを見て小さく笑っている。


 こういうところを見ると、最初に会った頃より随分表情が柔らかくなった。


「ユウトには別の役割があります」


「そう、それ」


 今日は俺が鉱殻獣の様子を見る。


 リリアは安全確保。


 ミミナは採掘時の補助付与。


 ノアは怪我や魔力異常への対応。


 そして鉱夫達が実際に測量と試掘を行う。


 昨日までなら、魔物と一緒に鉱山の作業をするなんて笑い話だったはずだ。


          ◇


 最初に調べることになったのは、昨日鉱殻獣が鉱脈を示した場所ではない。


 逆だった。


 鉱殻獣が俺達を止めた区域。


「本当にこっちから見るのか?」


 一人の若い鉱夫が親方へ尋ねる。


「ああ」


「鉱石がある方じゃなく?」


「掘らない場所を先に決める」


 親方は短く答えた。


「境界が分からなきゃ、安心して掘れる場所も決められん」


 俺は少し感心した。


 昨日まで「鉱脈を諦めるつもりはない」と言っていた人だ。


 考えが変わったわけではない。


 町のために鉱石を採りたい気持ちは今も同じなのだろう。


 でも、鉱殻獣の事情まで含めて安全な方法を探そうとしている。


 それだけで十分大きな変化だ。


 問題の場所へ近づくと、昨日の鉱殻獣がついてきた。


 三十歩ほど手前で止まる。


「やっぱり来ない」


 ミミナが小声で言う。


 さらに俺達が進むと、鉱殻獣が低い声を上げた。


「昨日と同じですね」


 リリアが周囲へ目を走らせる。


 見た目に異常はない。


 ただの岩場。


 《夜棘》も見当たらない。


「ガロンさん」


 俺が振り返る。


「ここ、何か変?」


「地面だけ見ても分からんな」


 ガロンは膝をつき、小さな金属棒を地面へ打ち込んだ。


 別の鉱夫が測量器具のようなものを組み立てる。


「軽く叩くぞ。ミミナちゃん、地面には何も付与しないでくれ」


「了解!」


 ミミナが素直に下がった。


 ガロンが棒を叩く。


 乾いた音が地面へ響いた。


 一度。


 二度。


 三度。


 親方の眉が寄る。


「空洞か?」


「たぶんな。かなり下だ」


「地下洞窟?」


「それだけなら、鉱殻獣がここまで嫌がる理由にはならん」


 さらに位置を変えて調べていく。


 すると、一人の鉱夫が突然手を止めた。


「親方」


「どうした?」


「ここ、前に掘られてます」


「何?」


 全員が集まる。


 俺には普通の地面にしか見えなかった。


 鉱夫は岩の隙間を指差す。


「自然に割れたんじゃない。道具の跡があります」


 ガロンも確認し、表情を変えた。


「本当だ。古くはないな」


「いつくらい?」


 俺が尋ねる。


「正確にはわからん。ただ、何年も前って感じじゃない。雨に当たる場所でもないし……数か月以内かもしれん」


 数か月。


 嫌な言葉だった。


 黒い杭の件が一瞬頭をよぎる。


「黒い杭の関係者とは限らないよな」


「はい」


 ノアがすぐ答える。


「盗掘や無許可の試掘という可能性もあります。痕跡だけで結びつけるべきではありません」


「だよな」


 最近、何でも黒い杭に見えてくる。


 それは危険だ。


 事実と推測は分けなければならない。


「入口を探そう」


 親方が言う。


「ただし掘り広げるな。今ある痕跡だけ見る」


 鉱夫達が岩肌を調べていく。


 しばらくすると、蔦と小石で隠された細い亀裂が見つかった。


 人一人が横向きなら通れそうな幅だ。


「わざと隠してある」


 リリアが目を細める。


「自然に塞がったのではありません」


「誰かが入ったってことか」


 俺が中を覗こうとすると、襟元を掴まれた。


「ぐえっ」


「先に私が確認します」


 リリアだった。


「俺、別に入ろうとは」


「上半身が半分入っていました」


「ちょっと見ただ…」


「それを入ろうとしていると言います!」


 食い気味に来た。


 反論できなかった。


 リリアが先に中を確認し、安全だと判断してから、俺達も続く。


 亀裂の先には狭い横穴があった。


 採掘坑と呼ぶには小さすぎる。


 四つん這いになるほどではないが、大人一人がようやく通れる幅しかない。


「鉱石を運び出す道じゃないな」


 ガロンが壁に触れず観察する。


「何かを調べるために掘った感じだ」


 十数メートル進んだところで、道は行き止まりになった。


 そこに、小さな穴がいくつも開けられている。


「これ何?」


 ミミナが尋ねた。


 親方の顔が険しくなる。


「試料採取だ」


「試料?」


「岩の中の鉱石や魔力の状態を調べる時に、こうやって細く抜くことがある」


 ノアが一つの穴へ顔を近づける。


「魔力の残滓があります」


「危険?」


「今すぐ危険というほどではありません。ただ……」


 彼女は目を閉じ、慎重に確認する。


「自然の魔力だけではない気がします」


 全員が黙った。


「まだ確証はないんだよな?」


 俺が念を押す。


「はい。断定はできません」


「分かった」


 それでいい。


 分からないものを、憶測で決めつけるのは危険だ。


「もう一つ気になる」


 ガロンが奥の壁を指した。


 そこだけ岩が少し黒ずんでいる。


 《夜棘》ではない。


 少なくとも、俺が今まで見たものとは違う。


 そこへ近づこうとした時だった。


 外から鉱殻獣の声が響いた。


 低く、強い。


「鳴いてる」


「戻りましょう」


 リリアが即座に判断する。


「まだ何も起きてないよ?」


 ミミナが尋ねる。


「だからです」


 リリアは迷わなかった。


「危険が見えてからでは遅い場合があります」


「賛成だ」


 俺はすぐ引き返した。


 外へ出ると、鉱殻獣がさっきより落ち着きを失っていた。


 地面を前脚で掻き、何度もこちらを見る。


 ノアが少し離れたところから魔物の身体を確認する。


「怪我ではありません」


「じゃあ、この場所が嫌なんだ」


 俺が横穴を振り返った時だった。


 足元に微かな振動が走った。


「……今、揺れた?」


「はい」


 リリアが剣へ手をかける。


 もう一度。


 今度ははっきり分かった。


 地下からだった。


 鉱殻獣が大きく鳴き、俺の服を鼻先で押した。


「分かった、離れる!」


 全員でその場から距離を取る。


 数十秒後。


 さっきまで俺達がいた岩場の一部が、音を立てて沈んだ。


「うそ……」


 ミミナが目を丸くする。


 穴が開いたわけではない。


 地面が数十センチほど落ち込んだだけだった。


 だが、もしあの横穴をさらに掘り広げていたらどうなっていたか。


 考えたくない。


「地盤が薄い」


 親方が顔を青くする。


「下に大きな空洞があるんだ」


「鉱殻獣はそれを知ってた?」


「可能性は高いな」


 ガロンが答えた。


「こいつらは地下で暮らしてる。地面の振動に、人間よりずっと敏感なのかもしれん」


 鉱殻獣は俺達が安全な位置まで下がったことを確認すると、ようやく落ち着いた。


 俺はその横顔を見る。


「……掘るなって、そういう意味だったのか」


 胸の奥で《縁》が微かに温かくなる。


『《縁》が深まりました』


 久しぶりに、あの感覚がはっきり届いた。


 こいつは人間に鉱石を渡した。


 掘れる場所を示した。


 そして危険な場所には近づくなと教えた。


 ただ住処を守りたいだけじゃない。


 少なくとも今は、人間まで危険から遠ざけようとしている。


「親方」


「ああ」


 親方は鉱殻獣を見たまま答えた。


「認めるしかないな」


「何を?」


「こいつらの方が、この山については俺達より詳しい」


 鉱夫にとっては、かなり重い言葉なのだと思う。


 ガロンも何も茶化さなかった。


「今日の試掘は?」


 一人が尋ねる。


 親方は少し考えたあと、首を横に振る。


「まず地盤を調べ直す。掘るのはその後だ」


「でも予定が――」


「死人が出たら元も子もない」


 きっぱり言い切った。


 誰も反論しなかった。


          ◇


 町へ戻る前。


 俺はもう一度、隠されていた横穴を見た。


 誰かが先にここへ来ている。


 何のためかは分からない。


 黒い杭と関係があるかも分からない。


 けど、まずはこの山で、人間と鉱殻獣が一緒に暮らせる形を作る事が先決だ。


 だが……この場所を調べた誰かがいたこと、鉱殻獣がこの場所だけを強く恐れていることは頭の片隅に置いておこう。


「ユウト、帰りますよ」


 リリアに呼ばれ、俺は横穴から視線を外した。


「今行くよ」


 歩き始めた俺の横を、鉱殻獣がゆっくり通り過ぎる。


 少し先で一度だけ振り返り、それから安全な道を選ぶように歩き出した。


 昨日までは、俺達が魔物を守る方法を考えていた。


 今日分かったのは、その逆もあり得るということだった。


 人間が山を教えるのではなく。


 この山で生きてきた魔物から、人間が教わる。


 そんな関係だって、あっていい。


          ――第五十六話 終

最後までお読みいただきありがとうございます!


三日間の試掘が始まりました。


ところが最初に調べたのは、

鉱殻獣が「掘ってほしい場所」ではなく、


「絶対に近づいてほしくない場所」。


そこには、

誰かが以前に掘った痕跡が残されていました。


ただし現時点では、


黒い杭と関係があるのか、

単なる無許可の調査なのか、


まだ分かりません。


そして鉱殻獣が止めていた本当の理由は、

地下に大きな空洞があり、

地盤が非常に危険だったからでした。


人間が魔物を守るだけではなく、

魔物もまた人間を守る。


少しずつ、

ルーヴェルで新しい関係が始まっています。


次回、第57話へ続きます!


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