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『剣も鎧も重すぎる! ~異世界で使えるのは笑顔と口先だけでした~』  作者: -eto-
第一章《夜棘と、住処を追われた魔物たち編》

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剣では救えないので、四人と一匹で鉱山を支えることにしました

 鉱殻獣の背中には、崩れ落ちた岩盤の重みがまともにかかっていた。


 四本の脚は震え、鉱石のように硬いはずの背中にはいくつもの亀裂が走っている。それでも魔物は動こうとせず、自分の下にいる三人の鉱夫を守り続けていた。


「あと一人は?」


 俺が尋ねると、鉱夫の一人が奥を指した。


「向こうだ。崩れた時に別の通路へ飛ばされた。声は聞こえてたけど、さっきから返事がない」


「リリア」


「確認します」


 リリアが動こうとした瞬間、天井から小石が落ちた。


 鉱殻獣の脚が沈む。


「待って!」


 ミミナが叫ぶ。


「これ以上揺らしたら危ない!」


 リリアが足を止めた。


 問題は単純ではない。


 三人を引きずり出せば終わりではない。岩盤の下には複数の支柱が折れており、鉱殻獣が離れた瞬間、坑道そのものが崩れる可能性がある。


「ミミナ、岩盤を軽くできる?」


 俺が尋ねる。


 彼女は天井を見上げ、すぐには答えなかった。


 以前なら「できる!」と勢いよく言ったかもしれない。


 今は違う。


「岩だけならできる。でも範囲が広いし、急に軽くすると支え方が変わって別の場所が落ちるかもしれない」


「どのくらいなら安全そう?」


「一割から始めたい。それでも様子を見ながら」


「分かった」


 ノアは鉱殻獣を見ていた。


「治療も必要です。ただ、今ここで痛みだけを取り除くと、患者が動いてしまう可能性があります」


「患者って言うんだ」


「患者ですから」


 ノアにとっては種族など本当に関係ないらしい。


「じゃあ、まず重さを減らす。鉱夫達を出して、それから鉱殻獣を助ける」


「もう一人は?」


 リリアが尋ねる。


 迷う。


 先に探したい。


 でも、今この場所を放置することもできない。


 その時だった。


 鉱殻獣が低く鳴いた。


 視線が坑道の奥へ向く。


 もう一度。


 明らかに何かを気にしている。


「まだ生きてる?」


 俺が奥を指す。


 鉱殻獣の頭が少し動いた。


 偶然かもしれない。


 でも。


「リリア、もう一人を探して」


「ここは?」


「俺達でやる」


「ですが…」


「戦うわけじゃない!ミミナとノアもいる」


 リリアは俺達三人を見たあと、鉱殻獣を見る。


「分かりました。ただし、危険を感じたらすぐ戻ってください」


「それは俺の台詞だろ?」


「では、お互いに」


 少しだけ笑ってから、リリアは奥へ向かった。


          ◇


「ミミナ、頼んだぞ!?」


「わかった!」


 杖を両手で握る。


「対象は上部岩盤。効果は重量軽減、強さ一割、時間三十秒」


 青白い光が岩盤を包んだ。


 低い軋みが坑道全体へ響く。


 怖い。


 天井が音を立てるたびに心臓が跳ねる。


「どう?」


「安定してる。鉱殻獣にかかってる負担も少し減ったと思う」


 確かに、震えていた脚がわずかに落ち着いた。


「鉱夫さん、一人ずつ動ける?」


「やってみる!」


 一人目が這うようにして出てくる。


 ノアが手を伸ばし、安全な場所まで引く。


 二人目。


 ここまでは順調だった。


 三人目が動き始めた瞬間、岩盤の左側が沈んだ。


「ミミナ!」


「分かってる!」


 光が強くなる。


「二割に上げる!」


「急だけどいけるか?」


「まかせて!」


 ミミナが自分で判断した。


 岩盤が少し浮き、三人目の鉱夫が転がるように外へ出てくる。


「全員出たぞ!」


 俺が叫んだ。


 だが、鉱殻獣は動かない。


 動けないのだ。


 安全になったから立ち去らないのではない。


 もう脚に力が残っていない。


「ノア!」


「分かっています」


 彼女が近づく。


 鉱殻獣の傷へ手をかざした。


「少し楽にします。ただし、まだ立たなくて大丈夫です」


 柔らかな金色の光が広がる。


 鉱殻獣が目を閉じた。


 その時、胸の奥がわずかに温かくなった。


『対象を検出しました』


「やっぱり」


 以前出会った鉱殻獣とは別の個体だ。


 でも《縁》は反応している。


 俺は魔物の顔が見える位置まで移動した。


「もう人間は出たよ」


 言葉が通じるとは思っていない。


「ありがとう」


 それだけは言いたかった。


 鉱殻獣がゆっくり目を開く。


 黒い瞳がこちらを見た。


 その瞬間、坑道の奥から轟音が響いた。


「ユウト!」


 リリアの声だ。


 続いて、何かが岩へぶつかる音。


「何が――」


「リリアの方!」


 ミミナが叫ぶ。


 俺達が振り返る。


 暗闇の中から、リリアが後退してきた。


 その腕には気を失った鉱夫が抱えられている。


「見つけた!」


 安心する暇はなかった。


 彼女の後ろ。


 暗い坑道を埋めるように、黒紫色の《夜棘》が伸びてくる。


「こんな奥まで……!」


 ノアが立ち上がる。


 ただの《夜棘》ではない。


 根同士が絡み合い、太い一本の蔓のようになっており、壁や支柱を巻き込みながらこちらへ迫っている。


「切ってもすぐ伸びます!」


 リリアが鉱夫を安全な場所へ下ろし、剣を構える。


「鉱山の崩落はこれが原因?」


 ミミナが青ざめる。


「可能性はある。でも今は止める方が先だ!」


 逃げることもできる。


 三人の鉱夫と、今助けた一人を連れて坑道から出る。


 でも。


 俺は横を見る。


 鉱殻獣がまだ岩盤を支えている。


 こいつを置いていけば、今度こそ潰れる。


「ユウト」


 リリアがこちらを見た。


 言わなくても分かっている顔だった。


「置いていかないんですね」


「ああ」


「そう言うと思いました」


 剣を構え直す。


「なら、私が止めます」


 格好いいじゃないか。


 でも今度は、リリアだけに背負わせない。


「四人でやろう」


 ミミナとノアも頷く。


          ◇


 《夜棘》が迫る。


 リリアが最前線へ出た。


「《蒼月》!」


 青白い剣閃が太い蔓を切り裂く。


 だが切断面から細い根が何本も伸び、床を這う。


「ミミナ、根をまとめられる?」


「固定だけだと多すぎる。でも、軽くして浮かせれば一本に寄せられるかも!」


「やって!」


「対象は前方の《夜棘》! 重量軽減、強さ二割、時間二十秒!」


 黒紫色の根が床から浮き上がる。


 絡まり合い、一か所へ集まった。


「ノア!」


「《浄化》!」


 金色の光が根を包む。


 《夜棘》の動きが鈍る。


「リリア、今!」


 青い剣閃。


 今度はまとめて切断された。


「まだ来ます!」


 奥から次の《夜棘》が伸びる。


 きりがない。


「根元が別にある」


 俺は奥を見る。


 ここで枝だけ切り続けても終わらない。


 ただ、奥へ進むには鉱殻獣を置いていくことになる。


「どうする……」


 考えていると、胸の奥が熱くなった。


 鉱殻獣だ。


 さっきより強い。


 振り返ると、魔物がゆっくり立ち上がろうとしていた。


「まだ無理だ!」


 俺が止めても、鉱殻獣は立つ。


 背中で岩盤を支えながら、一歩。


 もう一歩。


「何してるんだ?」


 鉱殻獣が頭を下げる。


 角のない額を、折れた支柱へ押しつける。


 そして横へずらした。


 岩盤の下に、新しい隙間ができる。


「……支柱を立てろってこと?」


 鉱夫の一人が気づいた。


「予備の支柱がある! 外から持ってくれば、この岩盤を固定できる!」


「本当に?」


「ああ! こいつが少し持ち上げてくれればいける!」


 鉱殻獣は理解している。


 自分がここに残らなくてもいい方法を。


「ミミナ!」


「岩盤をもう少し軽くする!」


「ノアは鉱殻獣を頼む!」


「任せてください!」


「リリア!」


「《夜棘》は通しません!」


 俺は鉱夫達を見る。


「すぐに支柱をお願いします!」


 全員が動いた。


 戦える俺はいない。


 でも、できることはある。


 人間。


 魔物。


 仲間。


 全員の役割を一つにつなぐ。


 鉱夫達が新しい支柱を運び込み、ミミナが岩盤の重量を調整し、ノアが鉱殻獣の脚を治療する。その間、リリアは一本でも《夜棘》を通さないよう前線で剣を振り続けた。


「一本目入った!」


「二本目!」


 支柱が増えるたび、鉱殻獣へかかる重みが減っていく。


「もう少し!」


 俺が叫ぶ。


 最後の支柱が入った。


「ミミナ、ゆっくり戻して!」


「分かってる!」


 軽くしていた岩盤の重さを少しずつ戻す。


 木材が軋む。


 全員が息を止めた。


 「……立ってる」


 鉱夫が呟く。


 鉱殻獣がゆっくり岩盤の下から出る。


 崩れない。


「成功だ!」


 歓声が坑道へ響いた。


 俺も思わず拳を握った。


 その瞬間。


『《縁》が深まりました』


 胸の奥へ、穏やかな熱が広がった。


 鉱殻獣が俺を見ている。


「お前も帰れるぞ」


 俺が笑う。


 魔物は低く鳴いた。


          ◇


 残っていた《夜棘》は、鉱夫達を外へ避難させたあとで処理した。


 奥へ伸びていた根の大半は、崩落で生まれた亀裂から入り込んでいたらしく、今回は無理に先へ追わないことにした。坑道そのものが不安定であり、原因調査よりまず安全確保が優先だった。


 外へ出た時には、夕方になっていた。


 鉱殻獣が姿を見せると、坑口で待っていた冒険者達が一斉に武器へ手をかけた。


「待って!」


 俺が前へ出る。


「こいつは敵じゃない!」


「だが、中にいた魔物だろ!」


「中にいたから助かった!」


 救出された鉱夫達が、俺より先に叫んだ。


「こいつが天井を支えてくれたんだ!」


「こいつがいなかったら俺達は全員死んでた!」


 武器が少しずつ下がる。


 鉱殻獣は人間達を見回し、低く鼻を鳴らした。


 それから俺の横を通り、山の方へ歩き出す。


 誰も止めなかった。


「ユウト」


 ミミナが隣へ来る。


「何?」


「今度は鹿のお兄ちゃんじゃなくて、鉱殻獣のお兄ちゃんになるかもね」


「称号が増えていくのやめてくれない?」


 リリアが笑う。


 ノアまで小さく頷いていた。


「町ごとに一つ増えるのであれば、王都へ戻る頃にはかなり長い肩書きになりますね」


「まったくだ」


 四人で笑った。


 鉱殻獣は一度だけ立ち止まり、こちらを振り返ったあと、夕暮れの山へ消えていった。


 助けた。


 助けられた。


 どちらが先だったのかは、もうどうでもよかった。


 たぶん《縁》って、そういうものなのだと思う。


          ――第五十二話 終

最後までお読みいただきありがとうございます!


今回は久しぶりに《鉱殻獣》が登場しました。


ただし、以前出会った個体とは別の鉱殻獣です。


崩れた鉱山の中で、

人間を襲っていたのではなく、

自分の体を使って天井を支え、鉱夫達を守っていました。


そして今回は、


リリアが《夜棘》を食い止め、

ミミナが岩盤の重さを調整し、

ノアが傷ついた鉱殻獣を治療し、

鉱夫達が支柱を運ぶ。


ユウトは、その全員の役割をつなぎました。


さらに鉱殻獣自身も、

人間達と一緒に鉱山を支えます。


「人間が魔物を助ける」


だけでも、


「魔物が人間を助ける」


だけでもありません。


お互いに助ける。


そんな《縁》を描きました。


ユウト自身の戦闘力は変わっていません。


それでも、

一人ではできないことを、

みんなでできる形へ変えていく。


この作品の主人公らしい強さを、これからも育てていきます。


次回、第53話へ続きます!


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