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『剣も鎧も重すぎる! ~異世界で使えるのは笑顔と口先だけでした~』  作者: -eto-
第一章《夜棘と、住処を追われた魔物たち編》

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町を襲うはずの魔物が、門の前で全員止まりました

 ルーヴェルが見え始めた頃には、太陽はすでに西へ傾いていた。


 山の麓へ沿うように広がった町は、リベルタより小さいものの、石造りの建物と木造の宿が密集し、その奥には鉱山へ続く道が伸びている。街道沿いには旅商人向けの店や食堂も多く、本来なら夕方の今頃が一番賑わっているはずだった。


 ところが、俺達が近づくにつれて雰囲気がおかしいことに気づいた。


「門が閉まってる」


 ミミナが足を止める。


 町の入口では衛兵達が慌ただしく木製の柵を運び、城壁代わりの石塀の上には弓を持った人間まで並んでいた。街道から町へ入ろうとしていた商人達も中へ急かされ、宿の前に出ていた看板まで片づけられている。


「何か来るんでしょうか」


 ノアが周囲を確認した直後、町の中から鐘が鳴った。


 一度、二度ではない。短い間隔で何度も打ち鳴らされ、その音に合わせて人々の動きがさらに速くなる。


 リリアが近くの衛兵へ駆け寄った。


「聖騎士です。何が起きていますか?」


 白と青の鎧を見た衛兵は、驚きながらもすぐに答えた。


「北の森から魔物の群れです! 偵察では五十以上、まだ増えている可能性があります!」


「種類は?」


「角鹿、フォレストウルフ、ホーンラビット……他にも混じっているそうです。こんな組み合わせで群れるなんて見たことがありません!」


 俺達四人は顔を見合わせた。


 見たことならある。


 灰耳に案内された泉だ。


 本来なら一緒に行動しない魔物達が、同じ何かから逃げている。


「どの方向から?」


 俺が尋ねる。


 衛兵は俺を一度見たあと、山の北西を指した。


「旧鉱山道です」


 第二試験場から荷車の跡が伸びていた方向と重なる。


 偶然かもしれないが、胸の奥で嫌な感覚が強くなった。


「《夜棘》は確認されていますか?」


 ノアが尋ねると、衛兵は首を振った。


「聞いていません。ただ、魔物の群れが町へ向かっている。それだけで十分危険です」


 それは正しい。


 だからこそ、確認しなければならない。


「リリア、少し外から見たい」


「私もそう思います」


 俺達は門へ入らず、街道脇の高くなった場所まで移動した。


          ◇


 最初に見えたのは、森から飛び出してくるホーンラビットだった。


 一頭ではない。十、二十と続き、その後ろからフォレストウルフや鹿型の魔物が姿を現す。


「本当に多い……」


 ミミナが息を呑む。


 五十どころではないかもしれない。


 さらに森の奥から、大きな影が現れた。


 鹿に似た魔物だった。


 肩の高さだけでも俺より高く、白銀に近い毛並みを持っている。頭から伸びる二本の巨大な角は枝分かれし、夕日の光を受けて淡く輝いていた。


「知ってる?」


 俺が尋ねると、セイルが答える。


「《白角鹿(はっかくじか)》だ。群れを作る種だが、ここまで大型の個体は珍しい」


 白角鹿は群れの先頭に出ると、町へ向かって走った。


 石塀の上で弓が一斉に構えられる。


「射つな!」


 自分でも驚くくらい大きな声が出た。


 当然、町の衛兵には届かない。


「リリア!」


「行きます!」


 彼女が駆け出す。


 俺達も後を追ったが、速度が違いすぎる。リリアはあっという間に町の門前まで到達し、弓を構える衛兵達へ聖騎士団の身分を示していた。


 それでも群れは止まらない。


 白角鹿が門まで百メートルほどに迫った。


 五十メートル。


 三十メートル。


「止めないと!」


 ミミナが杖を握る。


 俺も同じことを考えかけた。


 ところが。


 白角鹿が突然、前脚を地面へ突き立てた。


 土を削りながら速度を落とし、町の門から二十メートルほど離れた場所で完全に止まる。


 後ろを走っていた魔物達も、次々と足を止めた。


 ホーンラビット。


 フォレストウルフ。


 鹿型の魔物。


 小型の猪までいる。


 それだけの数がいるのに、誰一頭として町へ突っ込まない。


「……襲う気がない?」


 俺が呟く。


 白角鹿は門を見ていなかった。


 何度も森の方を振り返っている。


 その仕草を見た瞬間、リベルタでの出来事を思い出した。


「逃げてる」


「私もそう見えます」


 ノアが隣へ来る。


「でも、何で止まったの?」


 ミミナが尋ねる。


 理由はすぐ分かった。


 白角鹿が前脚を動かすと、その足元の土から黒紫色の芽が顔を出した。


 《夜棘》だ。


 一本だけではない。


 町の外周に沿うように、次々と地面から芽が伸び始める。


「町と魔物の間に……」


 ノアの表情が変わった。


 魔物達は森から《夜棘》に追われてきた。


 その先には人間の町がある。


 さらに町の目前でも《夜棘》が生え始めた。


 前にも後ろにも進めない。


 白角鹿が再び大きく鳴いた。


 後ろの群れがざわめくが、それでも前へ出ない。


「抑えてるんだ」


 俺は白角鹿を見る。


 自分だけなら町へ突っ込める。


 でも、そうすれば人間と戦いになることを分かっているのかもしれない。


「ユウト!」


 リリアが門から戻ってくる。


「衛兵達は討伐命令を待っています。時間がありません」


「何分くらい?」


「分かりません。ですが《夜棘》が増えれば、魔物が耐えられなくなる可能性があります」


 俺は周囲を見る。


 町。


 魔物。


 《夜棘》。


 どれか一つを守るだけなら簡単なのかもしれない。


 魔物を殺せば町は守れる。


 町を開ければ魔物は助かるかもしれないが、人間が危険になる。


 だったら。


「第三の道を作ろう」


 三人が俺を見る。


「町にも入れない。森にも戻せない。なら、別の方向へ逃がす」


 町の東側には、鉱山からの荷物を運ぶための広い道がある。


 その先は開けた草地だ。


「リリア、東側の柵を開けてもらえる?」


「交渉します」


「ミミナは町側へ来ないように誘導できるものを作れるか?」


「匂いだけじゃ種類が多すぎる。でも光ならできると思う。町側を嫌がるくらい明るくして、東だけ暗く残す」


「頼む」


「ノアは《夜棘》に触れた個体がいたら治療」


「分かりました」


「俺は白角鹿のところへ行く」


 三人の顔が同時に変わった。


「ユウト」


 リリアの声が低い。


「何?」


「一人では行かせません」


「でも鎧を着たリリアが近くにいたら警戒されるかも」


「それでもです」


 譲る気がない顔だった。


 俺は少し考えて諦める。


「分かった。途中まで一緒に来て」


「はい」


 こういう時に止めてくれる相手がいるのは、たぶん悪いことじゃない。


          ◇


 白角鹿まで十メートルほどの場所で、リリアには止まってもらった。


 俺は短剣を外し、地面へ置く。


 魔物の群れが一斉にこちらを見る。


 正直、怖い。


 フォレストウルフだけでも普通に怖いのに、その後ろには巨大な猪までいる。


 それでも歩いた。


「そっちへ行きたいわけじゃないんだろ?」


 言葉が分かるとは思っていない。


 白角鹿は動かない。


「俺達も、お前達と戦いたいわけじゃない」


 一歩。


 もう一歩。


「東側を開ける。そっちなら町を通らずに抜けられる」


 俺は東を指す。


 白角鹿の耳が動いた。


 胸の奥がわずかに温かくなる。


『対象を検出しました』


 来た。


 ただ、まだ《縁》が結ばれたわけではない。


「信じろって言うのは無理だよな」


 俺は苦笑する。


「俺だって、初対面の鹿に同じこと言われても信じないと思う」


 白角鹿がゆっくり顔を上げる。


 金色の瞳が俺を捉える。


 その時、地面が大きく揺れた。


「ユウト、下がって!」


 ミミナの叫びが響く。


 町の東側。


 地面を突き破るように、巨大な《夜棘》が一気に伸び上がった。


 一本ではない。


 東へ逃がそうとしていた道を塞ぐように、黒紫色の茎が何十本も絡み合う。


「そんな……!」


 ミミナが言葉を失う。


 俺達が選ぼうとした逃げ道まで、塞がれた。


 そして森の奥から、さらに大きな音が聞こえた。


 木が倒れる。


 土が抉れる。


 何か巨大なものが、こちらへ近づいている。


 白角鹿が初めて俺から目を離し、森へ向かって角を低く構えた。


 後ろにいた魔物達も一斉に怯える。


 こいつらは、《夜棘》だけから逃げてきたんじゃない。


 森の奥に、想像もつかない何かがいる……


          ――第四十九話 終

最後までお読みいただきありがとうございます!


今回はルーヴェルへ到着するところから始まりました。


町へ押し寄せる大量の魔物。


普通なら「襲撃」と判断されてもおかしくありません。


しかし、魔物達は門の目前で自分達から止まりました。


先頭にいる大型の《白角鹿》も、町を襲おうとしているのではなく、後ろから迫る何かから群れを守ろうとしています。


そして町と魔物の間にも《夜棘》が出現。


森へ戻れず、

町へも入れず、

さらにユウト達が作ろうとした逃げ道まで塞がれてしまいました。


今回も「魔物が来た=敵」ではありません。


そして森の奥からは、魔物達が本当に恐れている何かが近づいています。


次回、第50話。


ユウト達は町と魔物、その両方を守るために戦います!


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