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『剣も鎧も重すぎる! ~異世界で使えるのは笑顔と口先だけでした~』  作者: -eto-
第一章《夜棘と、住処を追われた魔物たち編》

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空を飛べない俺に、空の魔物が道を教えてくれました

 岩壁の上にある巣では、三羽の幼い蒼雷鷲が不安そうに鳴いていた。


 そのすぐ下では、黒い杭から伸びた《夜棘》が岩肌を這い、少しずつ巣へ近づいている。


「黒い杭を止めれば、《夜棘》も止まる可能性があります」


 ノアが地面へ落ちた四本の杭を見る。


「でも一本ずつやってたら間に合わないよ」


 ミミナが巣を見上げる。


「なら先に巣を守る」


 リリアが即座に言った。


「私が登ります」


 ほぼ垂直の岩壁を見上げる。


「本気?」


「登れる場所はあります」


 ただ、それでは時間がかかる。


 そこで俺は蒼雷鷲を見た。


「力を貸してくれないか」


 巣と《夜棘》を指し、それからリリアを示す。


「この人を上まで運んでくれ」


「ユウト」


 リリアが驚いた顔をする。


「落とされてもリリアなら何とかするだろ」


「そこは信用と言っていいのでしょうか」


「最大限の信用」


「雑ですね」


 蒼雷鷲が低く鳴き、リリアの前で翼を下げた。


「……乗れということでしょうか」


「たぶん」


 リリアが慎重に背へ乗ると、巨大な翼が広がった。


 一度羽ばたいただけで砂と枯れ葉が舞い上がり、そのまま白銀の聖騎士と青い巨大な鷲が空へ飛び上がる。


「……格好いい」


 思わず声が出た。


「すごい!」


 ミミナも完全に見入っている。


「ユウト!」


 上空からリリアの声が飛んできた。


「巣の右側から《夜棘》が伸びています!」


「ミミナ!」


「見えてる! 成長を遅らせる!」


 淡い光が岩壁へ届き、《夜棘》の動きが鈍くなる。


「ノア、下の杭は?」


「四本同時に停止はできません。ただ、濁った魔力を弱めることなら」


「無理しない範囲で頼む!」


 金色の光が地面を覆う。


 その間に蒼雷鷲は巣へ接近し、リリアが背から岩場へ飛び移った。


「無茶するなぁ……」


 リリアは岩壁へ剣を突き立てながら、巣へ迫る《夜棘》を切断していく。


 ところが突然、地上の黒い杭が強く光った。


「ユウト、下がって!」


 《夜棘》が俺達の足元から噴き出す。


 俺は慌てて後ろへ転がった。


 戦うことはできない。


「ノアを狙ってる!」


「私を?」


「浄化の光に集まってる!」


「なら一度止めます!」


 ノアが魔法を切ると、《夜棘》の勢いが弱まった。


「ミミナ、手前の《夜棘》だけ軽くできないか?」


「やってみる!」


「対象は前方の《夜棘》、効果は重量軽減、強さ二割、時間二十秒!」


 黒紫色の茎がわずかに浮いた瞬間、空から青白い雷が落ちた。


 蒼雷鷲だった。


 電撃が浮いた《夜棘》を直撃し、一気に黒く焼け焦げる。


「スゴ!そういう使い方できるの!?」


 ミミナ自身が驚いている。


「もう一回!」


「やる!」


 今度はミミナが軽くした《夜棘》へ、蒼雷鷲が自分から雷を落とす。


 一撃、二撃と道が開き、ノアが再び《浄化》を始めた。


「リリア、最後の一本!」


「はい!」


 上ではリリアが巣へ迫る最後の《夜棘》を切断する。


「巣は大丈夫です!」


「よし、今度は杭だ!」


 そこからは全員の動きが早かった。


 ミミナが最も強い杭への魔力流入を絞り、ノアが内部の濁りを浄化し、蒼雷鷲が伸びてくる《夜棘》へ雷を落とす。


 上空から戻ったリリアが、最後に杭の術式だけを正確に切断した。


 一つ、二つと停止させ、四本目の紫色の光が消える頃には空が夕焼けに染まっていた。


「終わった?」


 ミミナとノアが確認する。


「止まってる」


「新しい供給もありません」


 ようやく全員の肩から力が抜けた。


 蒼雷鷲も地上へ降り、その背からリリアが降りてくる。


「どうでした?」


「どうでしたって……めちゃくちゃ格好よかった」


 そのまま答える。


 リリアは少し固まり、やがて小さく目を逸らした。


「……ありがとうございます」


 今日は撤回しない。


 本当に格好よかった。


          ◇


 三羽の幼鳥が親鳥の羽毛へ潜り込むように寄り添っている。


「守れてよかったな」


 そう呟いた瞬間、胸の奥が再び温かくなった。


『《縁》が深まりました』


 同時に、一瞬だけ不思議な感覚が流れ込む。


 青空。


 風。


 遠くに見える山。


「……え?」


「どうしました?」


「今、空から見たみたいな……」


 意識を向け直しても、もう何も見えない。


「まだ分からないから保留だな」


「それがよいでしょう」


 リリアが頷いた。


 しばらくすると蒼雷鷲が巣から飛び立ち、山の向こうへ消えた。


 ところが数分後、また戻ってくる。


「早いな」


 蒼雷鷲は俺達の上を一度旋回し、そのまま北東へ飛んだあと、また戻ってきた。


「……ついて来い?」


「今度は空からですか」


「俺、空飛べないんだけど」


 当然そんな事情など気にせず、蒼雷鷲は再び北東へ向かっていく。


 俺達は歩いて追うことになった。


          ◇


 蒼雷鷲は見失わない距離で何度も旋回し、進む方向を教えてくれた。


 やがて山の反対側へ出ると、一本の街道が見えた。


 その脇には、さっき横転していた荷車とは幅の違う新しい車輪の跡が続いている。


「別の荷車だな」


 オスカーがしゃがみ込む。


「黒い杭を積み替えた?」


「可能性はあります」


 ノアが答える。


 街道の先には、小さな町が見えていた。


 セイルが地図を確認する。


「ルーヴェルだ」


「どんな町?」


「鉱山と宿場で栄えた町だ。王都から北東へ向かう商人がよく使う」


 蒼雷鷲が、その町の上空を一度だけ旋回した。


「間に合うかもしれない」


 これまで俺達は、《夜棘》が増えてから、魔物が逃げてから、誰かが傷ついてから追いかけてきた。


 でも今回は、まだ何も起きてなさそうだ。


「急ごう」


 リリアが頷き、ミミナも杖を握り直す。


 俺は最後に空を見上げた。


「ありがとう!」


 蒼雷鷲は返事をしなかったが、大きな青い翼を一度だけ広げ、そのまま山へ戻っていった。


 灰耳が地上から道を教えてくれた。


 蒼雷鷲は空から続きを教えてくれた。


 異世界へ来たばかりの俺には、何もなかった。


 今は、人間だけではない。


 俺を助けてくれる《縁》が、少しずつ世界の中へ増え始めている。


          ――第四十八話 終

最後までお読みいただきありがとうございます!


今回は蒼雷鷲とユウト達が、本格的に共闘しました。


リリアは蒼雷鷲の背に乗って空へ。


ミミナは《夜棘》を軽くし、

蒼雷鷲の雷撃が通りやすい状況を作る。


ノアは黒い杭を浄化し、

ユウトは全員の動きをつなぐ。


人間だけではなく、魔物まで含めて一つの目的へ向かう。


《縁》という能力を、この作品ならではの「強さ」として描きました。


さらにユウトと蒼雷鷲の《縁》も深まります。


そして蒼雷鷲が空から教えてくれた先には、ルーヴェルという宿場町がありました。


まだ《夜棘》による異変は確認されていません。


つまり今度こそ――


何かが起こる前に、間に合うかもしれません。


第49話へ続きます!


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