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『剣も鎧も重すぎる! ~異世界で使えるのは笑顔と口先だけでした~』  作者: -eto-
第一章《夜棘と、住処を追われた魔物たち編》

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E級になったのに、俺のステータスは何も強くなってません

「神崎ユウトさんをF級からE級へ昇級とします」


 もう一度聞いても、やっぱり俺のことらしい。


 職員から新しい冒険者登録証を渡される。


 見た目は以前のものとほとんど変わらないが、階級の欄だけは確かにEへ変わっていた。


「……上がった」


 自分で口にして、ようやく実感が湧いてくる。


「おめでとう、ユウト!」


 最初に声を上げたのはミミナだった。


 満面の笑みでこちらへ身を乗り出してくる。


「ありがとう」


「お祝いしよう!」


「まだ何も受け取ってないうちから?」


「こういうのは気持ちが大事なの!」


 ミミナらしい。


 ただ、今日はそれを止める気になれなかった。


「そうだな。あとで何か食べに行こう」


「本当!?」


「今日は俺が出すよ」


 その瞬間だけ、ノアの視線がこちらへ向いた。


「個人費なら問題ありません」


「今日はそれでいい」


 帳簿を出される前に答えると、ノアはわずかに口元を緩めた。


「昇級、おめでとうございます」


「ありがとう、ノア」


「ただし、階級が上がっても浪費が許されるわけではありません」


「分かってるよ」


 いつもなら少し長めに返すところだが、今日はその言葉すら妙に安心する。


 最後にリリアを見る。


 彼女はいつもの落ち着いた表情で俺を見ていた。


「おめでとうございます、ユウト」


「ありがとう」


「冒険者になった頃より、ずいぶん頼もしくなりました」


「ステータスはほぼ変わってないけどな」


「それは関係ありません」


 即答だった。


「少なくとも私は、今のユウトを頼りにしています」


 胸の奥に、少しだけ熱いものが広がる。


「そういうの真正面から言われると困るんだけど」


「なぜです?」


「照れるから」


 リリアは一瞬だけ目を丸くし、それ以上は何も言わなかった。


 代わりに少しだけ笑った。


          ◇


 念のため、ギルドに置かれている測定具でステータスも確認した。


 結果はほぼ予想通りだった。


 筋力E。


 体力E。


 敏捷D。


 魔力F。


 知力C。


 運C。


「……何も変わってないな」


 俺は表示を見つめる。


「冒険者ランクと能力値は別ですから」


 職員が申し訳なさそうに説明する。


「分かってはいたんだけどね」


 せっかく昇級したのだから、筋力くらいDになっていてもよかった気がする。


 隣でミミナが首を傾げる。


「でもユウト、《複数縁結合》は前より使えるようになってるよね?」


「たぶん」


「だったら強くなってるんじゃない?」


「俺自身が強くなった感じは一切しないけど」


 短剣を振れば相変わらず頼りないし、リリアの剣なんて持てる気すらしない。


「それでいいのではありませんか?」


 ノアが言う。


「ユウトが突然前衛になった場合、私達の役割分担が崩れます」


「もう少し言い方なかった?」


「合理的だと思います」


「ノアらしいけどさ」


 少しだけ笑った。


 以前なら、自分の弱さを確認すると落ち込んでいたかもしれない。


 今は違う。


 俺にできないことは三人がやってくれる。


 その代わり、三人だけでは難しいことを俺が考える。


 それでここまで来た。


 なら、無理に剣を持てるようになる必要もないのかもしれない。


「ユウト」


 ミミナがこちらを見る。


「何?」


「E級になったら、もっと難しい依頼も受けられるんだよね?」


「たぶん」


「楽しみだね」


 俺は少し考える。


「怖い方が先に来るな」


「私は楽しみ!」


「そこは変わらないな」


 ミミナの笑顔を見ていると、こっちまで少し楽しみになってくるから不思議だった。


          ◇


 その日の夕方、俺達四人は宿の食堂に集まった。


 豪華な宴会というほどではない。


 いつもより少しだけ高い料理と、ミミナが楽しみにしていた焼き菓子がテーブルに並んでいる。


「改めて、ユウトのE級昇級に」


 ノアが飲み物の入った杯を持つ。


「乾杯でいいのか?」


「こういう時はそうするものでは?」


「ノアが言うと会計締めみたいに聞こえる」


「では、ユウトが言ってください」


 全員がこちらを見る。


 急に任されると困る。


 俺は杯を持ち上げ、少し考えた。


「俺一人だったら、たぶんF級のままだったと思う」


「いきなり暗くない?」


 ミミナが心配そうに見る。


「最後まで聞きなさい」


 少し笑って続ける。


「リリアが戦ってくれて、ミミナが魔法を使って、ノアが治してくれて、それで俺は…何とか生きてる」


 笑ってる三人の顔を見る。


「だから俺の昇級っていうより、四人で取ったE級だと思ってる」


 ミミナの表情がゆっくり変わった。


 ノアは何も言わない。


 リリアも静かに聞いている。


「これからもっと危ないこともあると思う。でも、必ず四人で帰ってきたい」


 言ってから、少し照れくさくなった。


「……以上」


「短いですね」


 ノアが言った。


「恥ずかしいんだよ」


 するとリリアが杯を少し高く上げた。


「では、これからも四人で帰ってくるために」


「それいい!」


 ミミナも続く。


 ノアも小さく頷いた。


「異論ありません」


 四つの杯が静かに触れ合った。


 大きな音ではない。


 それでも、妙に心に残った。


          ◇


 翌朝。


 俺達がギルドへ入ると、昨日までとは少しだけ周囲の反応が違った。


「あいつだろ。東門で魔物を逃がした交渉士」


「E級になったって聞いたぞ」


「本当に戦えないらしい」


 余計なお世話だ。


 ただ、以前のように「弱そうな新人を見る目」ではなくなっていた。


 それが少しだけ嬉しい。


「ユウトさん」


 受付職員に呼ばれる。


「お話があります」


「依頼?」


「依頼というより、指名に近いものです」


 俺達は顔を見合わせた。


「誰から?」


「聖騎士団です」


 リリアの表情が変わる。


「王都から?」


「はい」


 職員が封書を差し出した。


 今度の封には、以前と同じ聖騎士団の紋章が押されている。


 リリアが開き、内容を読む。


 俺はその横顔を見ながら待った。


 やがて彼女が顔を上げる。


「何て?」


「リベルタ周辺で得られた情報と、魔物を討伐せず誘導した方法について、直接報告を求めています」


「直接って……」


「王都へ来てほしい、という意味です」


 思考が止まった。


「俺達も?」


「はい」


 ミミナの目が輝く。


「王都!」


 ノアはすでに別のところを気にしている。


「移動費と宿泊費は支給されるのでしょうか」


「そこ?」


「重要です」


 リリアは手紙の下まで読み、もう一度確認した。


「必要経費は聖騎士団側が負担する、とあります」


「それなら問題ありません」


「判断早いな」


 俺は手紙を見る。


 王都。


 冒険者になったばかりの頃なら、自分には縁のない場所だと思っていた。


 それが今度は、俺達四人が呼ばれている。


「よし!断れる?」


 俺が尋ねる。


 「なんで!?」


 ミミナが驚きの表情を浮かべる。


 リリアが少し考えた。


「形式上は依頼ですので、可能でしょう」


「そっか」


 少し安心する。


「ただ…断るとあとが面倒にはなるかもですが」


 リリアが怖いことを言う。


 「そうなの?」


 なんてことだ。


 行きたくないわけではない。


 ただ、王都という言葉だけで面倒な予感がする。


 俺の直感がそう告げている。


「ユウト」


 リリアがこちらを見る。


「私が案内します」


 悩みのタネが増えた!


「……王都までの道は分かる…かな?」


 リリアの表情が止まる。


 数秒後。


「街道を進めば着くはずです」


「地図は俺が持つ!」


 それだけは即決した。


 E級になった翌日。


 次の目的地が決まった。


 王都だ。


          ――第三十話 終

最後までお読みいただきありがとうございます!


ついに第30話です!


そしてユウトは、F級からE級へ昇級。


ですが――


筋力E。

体力E。

魔力F。


ステータスはほぼ変わっていません。


ユウト自身が突然強くなる物語ではなく、

仲間との《縁》や判断力、交渉力が少しずつ認められていく。


この作品らしい形で、主人公を一歩前へ進めました。


そして4人で交わした、


「これからも四人で帰ってくる」


という約束。


ここまでの冒険を通して、4人は少しずつ「たまたま組んだ仲間」から、本当のパーティへ変わってきています。


さらに聖騎士団から届いた指名依頼。


次の目的地は――王都。


リベルタで始まった物語は、ここから少しずつ世界を広げていきます。


第31話へ続きます!


ここまで読んでくださった皆さま、本当にありがとうございます。


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