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『剣も鎧も重すぎる! ~異世界で使えるのは笑顔と口先だけでした~』  作者: -eto-
第一章《夜棘と、住処を追われた魔物たち編》

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19/83

魔物の群れが来たので、まず討伐を止めます

 東門へ着いた時には、すでに何人もの冒険者と衛兵が城壁の上へ集まっていた。


 門は固く閉ざされ、弓を持った衛兵達は街道の先へ矢を向けている。俺達が階段を駆け上がると、暗い草原の向こうから地響きのような音が近づいてきた。


「見えた!」


 ミミナが城壁から身を乗り出しかけ、すぐリリアに肩をつかまれる。


「危ないので、そこから先へ出ないでください」


「ちょっと見るだけ!」


「落ちてからでは遅いです」


「リリアにそれ言われると、すごく説得力あるな」


「どういう意味です?」


「道では迷っても、人が落ちそうな場所はちゃんと分かるんだなって」


「ユウト?」


「褒めてる。たぶん」


 こんな時でも睨まれたので、俺は素直に街道へ視線を戻した。


 月明かりの下を、大量の小さな影がこちらへ向かっている。その先頭を走っているのは、小型魔物とは明らかに体格が違う三つの大きな影だった。


 近づくにつれて、その輪郭に見覚えが出てくる。


「……あれ、キングホーンじゃないか?」


「三体もいますね」


 リリアの声が低くなる。


 三体のキングホーンの後ろには、数え切れないほどのホーンラビットが続いている。


 以前、牧場で一体のキングホーンを相手にした時ですら結構な騒ぎになった。


 それが三体。


 しかも後ろには、おそらく三十体以上のホーンラビットがいる。


「前に一体でもかなり大変だったよね?」


 ミミナが俺を見る。


「言うな。嫌な記憶が戻る」


「ユウト、飛んだもんね」


「誰のせいだと思ってる?」


「私!」


「元気よく認めるな」


 隣でノアが小さく息を吐いた。


「昔話をする余裕があるなら、現状を見てください。あと数分で門前へ到達します」


「はーい」


「ユウト」


「今のは自分でも雑な返事だったと思ってる」


 下ではバルガ達も到着し、衛兵と話している。


「弓兵、構えろ!」


 隊長らしい男の声が響いた。


 城壁の上で弓弦が一斉に張られる。


「待ってくれ!」


 反射的に声が出た。


 近くにいた衛兵達がこちらを見る。


 俺自身も、一瞬遅れて自分が何を言ったのか理解した。


「……ユウト」


 リリアが静かに名前を呼ぶ。


「分かってる。危ないのは分かってるんだけど、ちょっとだけ見てほしい」


 俺は街道を走ってくる魔物達を指差した。


「こっちに襲いかかろうとしてるように見える?」


 リリアが目を細める。


 先頭のキングホーン達は、角をこちらへ向けて突撃しているわけではない。


 耳は後ろへ倒れ、何度も背後を振り返りながら必死に走っている。


 後ろのホーンラビット達も同じだった。


「……追われていますね」


 リリアの答えに、バルガが城壁の下から声を上げた。


「だからって門へ来られちゃ困るぞ!」


「そうだよな」


「じゃあどうする!」


「今考えてる!」


「考えてから止めろ!」


「うるせー!」


 ただ、ここで全部射殺すれば街は守れるかもしれない。


 でも、こいつらは街を襲いに来たんじゃない。


 何かから逃げているだけだ。


 以前の俺なら、ここからどうすればいいのか分からなかったかもしれない。


 けれど、今は違う。


 似たことを一度やっている。


「門の手前って、南の放牧地へ行く道が分かれてたよな?」


 俺が尋ねると、リリアではなくノアが即座に答えた。


「あります。東門から三百メートルほど手前です」


「なんでリリアじゃなくてノアが答えるんだ」


「聞く相手を間違えています」


 リリアが真顔で言った。


「自覚あるんだな」


「地図上の位置を聞かれている時点で、私に答えさせる方が危険です」


「成長したな、リリア」


「何か納得できませんが」


 俺は笑いそうになるのを堪えながら、もう一度街道を見る。


「門へ来る道を塞いで、南の道だけ開けたら、そっちへ流せないかな」


「壁を作るのですか?」


 ノアが尋ねる。


「完全に止めるんじゃなくて、行きやすい方を作る。キングホーンとホーンラビットなら、前に誘導した方法も使えるかもしれない」


 ミミナの目が大きくなる。


「匂い!」


「そう、それ」


「牧場でやったやつだ!」


「今回は俺を飛ばす工程はないからな」


「分かってるって!」


「念のため確認した」


 ミミナは一瞬むっとしたものの、すぐ真剣な表情へ戻った。


「対象は何にする?」


「門の厩舎に干し草か飼料があるはず。そこに根菜っぽい甘い匂いを付けられる?」


「できるよ。前と同じくらいなら、強さ三割で十分だと思う」


「時間は?」


「三分くらい。長く残すと、逃げたあとも戻ってくるかもしれないから」


 俺は思わずミミナを見る。


「……そこまで自分で考えた?」


「また成長したって言うんでしょ」


「いや、頼りになる」


「……それならいい」


 少しだけ頬を緩めたミミナを見て、俺も頷く。


「バルガ!」


「なんだ!?」


「門へ向かう方を荷車と盾で狭くできる?」


「完全に塞ぐのは無理だぞ!」


「完全じゃなくていい! 南の道の方が広く見えれば十分!」


 バルガは街道と門の距離を見比べ、数秒考えてから仲間達へ声を飛ばした。


「荷車を二台持ってこい! 盾持ちは俺と来い!」


「本当にやるのですか?」


 衛兵の隊長が俺を見る。


「二分だけください。それで無理なら、俺も止めません」


 内心緊張で喉がカラカラだ。


 失敗すれば、三体のキングホーンと大量のホーンラビットが門前へ殺到する。


 リリアが俺の横へ立った。


「二分ですね」


「うん」


「その間に突破されそうなら、私が止めます」


「頼む」


「ただし、ユウトは絶対に私より前へ出ないでください」


「分かってるって」


「本当ですか?」


「リリアさん、俺への信用ちょっと低すぎません?」


「実績がありますので」


「……」


          ◇


 門の外へ出ると、地響きは城壁の上にいた時よりずっと大きく感じた。


 バルガ達が荷車と盾を並べ、門へまっすぐ続く道を斜めに狭めていく。


 一方、南の放牧地へ向かう道には何も置かない。


「ミミナ、準備は?」


「できてる!」


 南へ続く道の入口から少し先まで干し草を置き、ミミナが杖を向ける。


「対象はこの干し草。効果は甘い根菜の香り。強さ三割、時間三分!」


 淡い光が干し草を包み、少し遅れて甘い匂いが風に乗った。


「おお、前より自然だな」


「でしょ?」


「前はキングホーンまで呼んだけど」


「今日も呼びたいんだからいいの!」


「確かに」


 ノアが俺達の横を通り過ぎる。


「私は負傷者が出た時の準備をします」


「分かった。門側で待機頼む」


「了解です。ユウトも治療対象にならないようにしてください」


「そうならないようやってみるよ」


 魔物の群れが見える距離まで近づいてきた。


 三体のキングホーンが先頭を走り、その後ろを無数のホーンラビットが追っている。


 俺の予想が外れていたら終わりだ。


「来るぞ!」


 バルガの声が響く。


 先頭のキングホーンが分岐へ差しかかった。


 大きな鼻が動く。


 一体目が南を向いた。


「よし……」


 二体目も続く。


 後ろのホーンラビット達が一斉に進路を変え始めた。


「いける!」


 ミミナが声を上げた、その直後だった。


 三体目のキングホーンが突然大きく体勢を崩した。


「危ない!」


 巨大な体が街道へ倒れ込み、後続のホーンラビット達がパニックを起こす。


 群れの一部が南ではなく、門の方角へ流れ始めた。


「リリア!」


「任せてください!」


 銀色の髪が目の前を駆け抜ける。


 リリアは倒れかけたキングホーンの正面へ回るのではなく、横から接近し、その足元を見た。


「ユウト!」


「どうした!?」


「右前脚に何か刺さっています!」


 月明かりの下で、黒紫色の棘が見えた。


「《夜棘》……?」


 俺が呟いた瞬間、ノアも走り出していた。


「間違いありません!」


「ノア、抜ける?」


「動きを止めてもらえれば!」


「ミミナ!」


「分かってる!」


 俺が指示する前に、ミミナが杖を構えた。


「対象はキングホーン! 効果は体重軽減、強さ一割、時間三十秒!」


 淡い光が巨体を包む。


「リリア、少しだけ支えられるか?」


「十分です!」


 リリアが角を避けながら肩口へ入り、倒れようとする巨体を押し戻す。


「ノア、今だ!」


「《浄化》!」


 ノアの金色の光が《夜棘》の刺さった脚へ広がる。


「棘を抜きます!」


 リリアの剣先が正確に根元へ入り、《夜棘》だけを切り落とした。


 キングホーンが大きく身を震わせる。


 胸の奥で《縁》が反応し、三人の状態がぼんやりと伝わってきた。


「ミミナはそのまま! リリアは離れていい! ノア、あと少しだけ頼む!」


「はい!」


「分かった!」


 数秒後、キングホーンがゆっくり前脚を地面へ着けた。


 一歩。


 もう一歩。


 そして甘い匂いのする南の道へ顔を向ける。


「行け……!」


 俺が思わず声を出す。


 キングホーンは走り始めた。


 遅れていたホーンラビット達も、次々とその後を追っていく。


 街道いっぱいを埋めていた魔物の群れが、俺達の目の前で南へ流れていった。


 最後の一体が草原へ消えるまで、誰も声を上げなかった。


「……終わった?」


 ミミナが恐る恐る聞く。


「たぶん…な」


「その『たぶん』、信用して大丈夫?」


「さぁ?」


 バルガが大きな笑い声を上げた。


「本当に一匹も倒さずにやりやがった!」


「できれば毎回こんなに怖い方法は使いたくないけどな」


「お前が言い出したんだろ!」


「そうなんだけど!」


 張り詰めていた空気が一気に緩む。


 俺もようやく息を吐いた。


「ユウト」


 ノアの声だけは、まだ硬かった。


 振り返ると、彼女は地面へしゃがみ込んでいる。


「これを見てください」


 街道に落ちていたのは、さっきキングホーンの脚から切り取ったものだけではなかった。


 小さな黒紫色の棘が、いくつも転がっている。


「全部、《夜棘》?」


「おそらく」


 リリアが街道の先へ視線を向ける。


「ですが、この群れは東から来ました」


 旧鉱山は北側にある。


 ゴブリン達が住処を追われた場所とも違う。


 それなのに、東から逃げてきた魔物達にも《夜棘》の傷がある。


「……やっぱり一か所じゃないのか」


 俺が呟くと、誰もすぐには答えなかった。


 ただ、さっきまで魔物の群れが走ってきていた東の暗闇が、急に今までよりずっと不気味に見えた。


          ――第十九話 終

最後までお読みいただきありがとうございます!


東門へ押し寄せたのは、三体のキングホーンと大量のホーンラビット。


しかしユウト達は討伐するのではなく、第6話の牧場依頼で使った「匂いによる誘導」を再び利用し、群れを街から逸らすことに成功しました。


以前はユウトを飛ばしてしまったミミナも、今回は自分で対象・強さ・時間を判断。


4人の成長が少しずつ形になっています。


そしてキングホーンの脚に刺さっていたのは、《夜棘》。


旧鉱山とは違う「東側」から逃げてきた魔物達にも、同じ異変が起きていました。


次回、ユウト達は魔物達が逃げてきた場所を調べます。


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