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『剣も鎧も重すぎる! ~異世界で使えるのは笑顔と口先だけでした~』  作者: -eto-
第一章《夜棘と、住処を追われた魔物たち編》

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四人パーティ、最初の敵は家計簿でした

 結論から言うと。


 四人パーティになった俺達が最初に戦うことになった相手は、旧鉱山に潜む謎の人物でも、凶悪な魔物でもなかった。


「ユウト、昨日の宿代はいくらでしたか?」


「……覚えてない」


「食事代は?」


「たぶん十五くらい?」


「たぶん?」


 ノアの目が細くなる。


 俺は冒険者ギルドの食堂で、人生最大級の圧力を受けていた。


 机の上には小さな帳簿。


 その向こうには、金髪の神官。


 俺の両隣にはリリアとミミナが座っている。


 古い礼拝堂からリベルタへ戻った俺達は、旧鉱山についてギルドへ報告した。


 そこで普通なら、明日の調査について作戦会議をするはずだった。


 ところが。


「まず、パーティの支出を整理します」


 ノアのこの一言ですべてが変わった。


「旧鉱山の話を先にしない?」


「お金がなければ旧鉱山へ行くための装備も買えません」


「正論なのが腹立つ」


「ではユウト。現在の所持金を」


「えっと……」


 俺は革袋を開き、硬貨を机に並べる。


「数えてないのですか?」


「財布の中身を毎晩数える生活してなかったんだよ」


「冒険者として致命的です」


「そこまで!?」


 日本にいた頃だって、財布の中に何円入っているかなんて正確には覚えていなかった。


 今は硬貨しかないので、嫌でも管理する必要があるらしい。


「リリアさんは?」


「こちらです」


 リリアは当然のようにきちんと整理された革袋を差し出した。


 ノアが中身を確認する。


「問題ありません」


「さすが」


「騎士ですから」


「方向感覚以外は本当にちゃんとしてるな」


「ユウト?」


「何でもないです」


 次にノアがミミナを見る。


「ミミナさん」


「はい!」


「現在の所持金を」


「……」


 ミミナが目を逸らす。


「ミミナさん?」


「今、急に外の空気が吸いたくなったかも」


「座ってください」


「はい」


 逃げられなかった。


 ミミナが恐る恐る革袋を出す。


「牧場の報酬、残ってるよ」


「良いことです」


「でしょ?」


「では修繕費の返済に回しましょう」


「待って!」


 ミミナが革袋を抱きしめた。


「私のお金!」


「修繕費もミミナさんのお金の問題です」


「正しいけど冷たい!」


「安心してください。生活に必要な最低額までは取りません」


「ノアが神様に見える!」


「神官です」


「そこ?」


 この二人。


 意外と相性が良いのかもしれない。


 主に追う側と追われる側として。


「それで、今後についてですが」


 ノアが帳簿へ数字を書き込みながら続ける。


「依頼報酬の一割を、パーティの緊急費として積み立てたいと思います」


「緊急費?」


「薬、包帯、解毒剤、装備の破損など、予想外の出費に備えるためです」


「俺達、そんなに怪我する?」


 三人の視線が俺へ集まった。


「なんで俺を見る?」


「キングホーンに追われました」


 リリア。


「空飛んだよね」


 ミミナ。


「回数券を勧めた理由がお分かりになりましたか?」


 ノア。


「全部ここ数日の話なのが怖い!」


「一割でよろしいですか?」


「お願いします」


 俺は即答した。


 命には代えられない。


「決まりですね」


 ノアが帳簿を閉じる。


「これで会計については最低限まとまりました」


「やっと旧鉱山の話ができる……」


「次は装備費です」


「まだ終わってない!」


          ◇


 ようやく金の話が一段落した頃、バルガ達もギルドへ戻ってきた。


「おう、交渉士」


「その呼ばれ方、ちょっと職業人っぽくていいな」


「F級だけどな」


「うるせー!」


 バルガは受付へ報告を済ませたらしく、数枚の書類を持っていた。


 受付嬢も俺達のテーブルへやってくる。


「旧鉱山について、確認できた範囲をご説明します」


 俺達は姿勢を正した。


「鉱山は約十年前に閉鎖されています。主に鉄鉱石を採掘していた場所ですが、採掘量の減少と落盤事故が重なり、現在は使われていません」


「中の構造は分かる?」


「古い坑道図があります。ただし、閉鎖後の崩落などで地形が変わっている可能性があります」


「つまり地図があっても信用しすぎるなってことか」


「はい」


 俺はリリアを見る。


「何です?」


「今回は地図持たせなくていいなと思って」


「私もそのくらい分かります!」


「よかった」


「なぜ安心するのです!」


 受付嬢が苦笑いしながら話を続ける。


「また、行方不明になっている商人についてですが、名前はオルドさん。三日前にリベルタを出て、北側の村へ商品を届ける予定でした」


「一人で?」


「護衛なしの短距離輸送だったそうです」


 バルガが腕を組む。


「旧街道までは危険度の低い道だったからな。少なくとも今までは」


「今までは、か」


 《夜棘》が広がり、魔物の生息域まで変わっている。


 以前と同じ感覚で歩ける場所ではなくなっているらしい。


「ギルドとしては、旧鉱山周辺の調査と、オルドさんの捜索を優先します」


「俺達も行っていいの?」


「本来であれば慎重に判断する必要がありますが、リリア様が調査任務中であることと、皆さんが《夜棘》についてすでに情報を持っていることを考慮します」


 受付嬢はリリアを見る。


「リリア様を中心に行動してください」


「承知しました」


「そして、決して無理をしないこと」


「はい」


 俺も頷く。


「特にユウトさん」


「名指し!?」


「戦闘になった場合は必ず後方へ」


「受付の人にまで戦力外として認識されてる……」


「適性検査を担当しましたので」


「そうでした!」


 全部知られている。


「バルガさん達は?」


「俺達は別の道から鉱山周辺を確認する」


 バルガが答えた。


「同じ場所に人数を集めすぎるより、逃げ道や別の入口がないか探した方がいい」


「なるほど」


「何か見つけたら戻って報告する。お前らも無茶するなよ」


「バルガに言われると先輩冒険者感あるな」


「実際先輩だ」


 みんなが笑う。


          ◇


 ギルドを出た俺達は、そのまま必要な物を買いに向かった。


「ロープ」


 ノアが帳簿を見ながら読み上げる。


「携帯食。水。包帯。解毒薬。ランタン。予備の油」


「遠足みたいだな」


「遠足で解毒薬は持ちません」


「確かに」


「あとお菓子」


 ミミナが手を上げる。


「却下です」


「即答!?」


「携帯食があります」


「甘いものは別腹だよ!」


「必要性を説明してください」


「元気が出る」


「却下です」


「ユウト!」


「俺に振るな」


「リリア!」


「私はノアさんに賛成です」


「裏切り者!」


 何の裏切りだ。


「少しくらいならいいんじゃない?」


 俺が言うと、ノアがこちらを見る。


「ユウトが自費で買うのであれば止めません」


「俺が払うの!?」


「提案者ですので」


「言わなきゃよかった!」


 ミミナが嬉しそうに俺の袖を掴む。


「ユウト好き!」


「こういう時だけ好感度上げるな!」


 結局、安い焼き菓子を少しだけ買った。


 ノアは最後まで帳簿へ「嗜好品・ユウト負担」と書いていた。


 怖い。


          ◇


 買い物を終えたあと、俺達はギルド裏の訓練場へ移動した。


 確認したいことがあったからだ。


「《複数縁結合》」


 俺が呟くと、三人がこちらを見る。


「それが新しく使えるようになった能力ですか?」


 リリアが聞く。


「たぶん」


「たぶん?」


「説明が短すぎるんだよ」


 視界に表示されたのは、


『《縁》を結んだ者同士の能力・性質・役割の連携を補助します』


 それだけだった。


「能力をもらえるとか?」


 ミミナが目を輝かせる。


「もしそうなら俺も魔法使える?」


「試してみる?」


「ぜひ」


 俺はミミナへ意識を向ける。


 胸の奥で《縁》が反応した。


「……」


 数秒。


「どうです?」


 ノアが聞く。


「何も起きない」


「魔法使ってみて」


「どうやって?」


「こう、杖持って」


 ミミナから杖を渡される。


「何か叫べばいい?」


「《火球》とか」


「俺、付与魔導士じゃなくなってるけど」


「いいから!」


 俺は杖を前へ向けた。


「《火球》!」


 静寂。


「……」


「……」


「……」


「返す」


「早い!」


「やっぱり俺自身が能力を使えるようになるわけじゃない」


 少し安心したような、残念なような。


 いや。


 強くならないのが俺らしい気もする。


「では何が変わったのでしょう」


 リリアが剣を抜く。


「前に《夜棘》を突破した時と同じ組み合わせを試してみる?」


「いいかも」


 ノアがリリアの剣へ《浄化》をかけ、ミミナがその性質を固定する。


 前と同じだ。


 ただ今回は、俺が三人へ意識を向けた瞬間、胸の奥に三本の光が浮かんだ。


「……見える」


「何が?」


「三人が何をしようとしてるか、なんとなく」


 言葉にするのが難しい。


 リリアが剣を振るう瞬間。


 ノアが浄化を補う瞬間。


 ミミナの付与が弱くなり始める瞬間。


 前は俺が目で見て判断していた。


 今は、それより少し早く分かる。


「ミミナ、あと少しで出力落ちる」


「え?」


 ミミナが杖を見る。


 数秒後、剣を包む青い光がわずかに弱くなった。


「本当だ」


「ノア、今補強した方がいい」


「分かりました」


 ノアが魔力を送る。


 光が安定した。


「なるほど」


 リリアが剣を眺める。


「ユウトが私達の状態を把握しやすくなっているのですね」


「たぶんそれだけじゃない」


 三人をつなぐ光が、以前より自然に重なっている。


 俺が「今だ」と思うだけで、それぞれの動きが少し合わせやすくなる感覚がある。


 能力そのものを強化しているわけではない。


 俺が魔法を使えるわけでもない。


 リリアの力が倍になるわけでもない。


 ただ、バラバラの三人を一つの目的へ合わせる力。


「俺らしいな」


「何が?」


 ミミナが聞く。


「人の力を借りる能力」


「格好良く言っていますが、基本的には他力本願ですね」


 ノアが言う。


「分かってるよ!」


「ですが、悪くないと思います」


「え?」


 ノアは少し笑った。


「一人ですべてできる必要はありませんから」


 リリアも頷く。


「できる者が、できることをすればいいのです」


「私は?」


「最大出力を控える」


「それ私だけ注意事項じゃない!?」


 笑い声が訓練場に響いた。


 剣も使えない。


 魔法も使えない。


 相変わらず俺自身は弱いままだ。


 それでも、三人が一緒ならできることは増える。


 今は、それで十分だった。


          ◇


 翌朝。


 北門の前。


 リリア。


 ミミナ。


 ノア。


 俺。


 四人が並ぶ。


「忘れ物はありませんね?」


 ノアが確認する。


「水」


「あります」


「携帯食」


「あります!」


「地図」


「俺が持ってる」


「焼き菓子」


 ミミナが言う。


「それは確認事項ではありません」


「あるよね?」


「あるよ!」


「やった!」


 リリアがため息をつく。


「緊張感がありませんね」


「リリア」


「何です?」


「今日はどっち?」


「北です」


「指差して」


「なぜです!?」


「最終確認」


 リリアは不満そうにしながら北を指差した。


 合っている。


「よし」


「本当に失礼ですね!」


「命がかかってるからな」


 俺は地図を開く。


 目的地は旧鉱山。


 行方不明の商人。


 大量に増えた《夜棘》。


 黒い服の人物。


 分からないことだらけだが…


「行こう」


「はい」


 四人になって初めての、本格的な調査が始まった。


          ――第十一話 終

最後までお読みいただきありがとうございます!


ついに正式に始動した4人パーティ。


ただし最初に待っていたのは、魔物ではなくノアの厳しい会計管理でした。


そして新しく解放された《複数縁結合》も少しずつ判明。


ユウト自身が強くなるのではなく、

仲間同士が力を発揮しやすいようにつなぐ能力のようです。


次回、4人は旧鉱山へ。


ゴブリン達との約束を果たしながら、黒い服の人物と行方不明の商人を追います。


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