↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
測量士と転移者  作者: ごま


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
78/120

同じ規格

 朝、俺たちは降りた。


 三人だ。マリが灯り、セレンが記録、俺が先頭。


 階段は狭い。肩を斜めにしないと入らない。


 俺は、段を数えた。


 二十段で、下に着いた。


 ――浅い。


 サルカドは二百四十段だった。


    ◇


 降りた先は、通路だった。


 幅、四尺五寸。


 俺は、二度測った。


「セレン。書け」


「四尺五寸ですね」


「そうだ」


「――サルカドの禁域と同じです」


 彼女は、自分の書付を確かめた。


「あなたが六十二話で……いえ、先月、報告してくださった数字と同じです」


    ◇


 俺は、天井を見た。


 高さ、七尺二寸。


 これも同じだ。


 床には、線が引いてある。


 二本。四尺五寸の間隔で。


 ――床線だ。


 禁域で見たものと、寸分違わない。


    ◇


「ハルトさん」


「なんだ」


「これは、何を意味しますか」


「――同じ設計で作られてる」


 俺は言った。


「カラン村と、サルカドの禁域が、同じ図面から出てる」


 俺は、通路の先を見た。


「距離は、十里以上ある」


    ◇


 セレンが、書く手を止めた。


「十里」


「荷馬で二日だ」


 俺は言った。


「その二つが、同じ寸法で作られてる。……偶然じゃない」


「では」


「一つの施設だ」


 俺は言った。


「俺たちが二つだと思っていたものは、一つの端と端だ」


    ◇


 俺は、その意味を頭の中で組み直した。


 サルカド旧市街は、無数の廃邸が沈んだ場所だ。


 身分の高い家ほど、深くまで繋がっている。


 俺の家は、一番深い。


 ――なら、カラン村は。


「セレン」


「はい」


「カラン村に、昔、身分のある家があったか」


    ◇


「記録にはありません」


 彼女は言った。


「カランは、薬草の村です。三百年前も、それ以前も」


「――だが、入口がある」


「はい」


 彼女は言った。


「身分ではなく、別の理由で作られたのかもしれません」


    ◇


 俺は、通路を進んだ。


 三十歩で、突き当たった。


 壁だ。継ぎ目がない。


 模様はない。


 ――行き止まり。


 俺は、壁を叩いた。


 鈍い。厚い。


    ◇


「ハルトさん」


「待て」


 俺は、床線を見た。


 二本の線は、壁の手前で終わっている。


 禁域では、線は壁のない場所まで続いていた。


 ここでは、壁で終わっている。


 ――後から塞いだ。


 線が先で、壁が後だ。


    ◇


「マリ。灯りを寝かせろ」


「うん」


 炎を細くして、壁際に近づける。


 揺れない。


 ――風がない。


 密閉だ。


 俺は、壁の下端を見た。


 埃が積もっている。


    ◇


 俺は、埃を測った。


 厚み、六分。


 サルカドの隠し部屋は四分で四百年だった。


 だが、あそこは風があった。ここはない。


 条件が違えば、換算も変わる。


「セレン」


「はい」


「風のない場所で、埃が六分積もるのに何年かかると思う」


「――分かりません」


「俺も分からん」


 俺は言った。


「だが、四百年より長い」


    ◇


 俺は、壁の前に座った。


 座って、しばらく考えた。


 ――塞いだのは誰だ。


 中から塞いだのか、外から塞いだのか。


 俺は、壁の縁を見た。


 継ぎ目がないということは、この材を扱える者が塞いだということだ。


 人間ではない。


    ◇


「――中からだ」


 俺は言った。


「え」


「この材を切って合わせられるのは、こっち側の人間じゃない」


 俺は言った。


「地下の連中が、自分で塞いだ」


「なぜです」


「――分からん」


 俺は言った。


「だが、閉める気がない連中が、ここだけ閉めた」


    ◇


 俺は、その事実を野帳に書いた。


 〈カラン地下、三十歩デ封鎖〉


 〈封鎖ハ内側カラ。四百年以上前〉


 書いて、俺は手を止めた。


 ――四百年以上前。


 サルカディア王国が滅んだのは三百年前だ。


 封鎖のほうが、古い。


    ◇


「セレン」


「はい」


「王国が滅ぶ前に、ここは閉じられてる」


 彼女は、書付を見た。


「……そうなります」


「なら、王国は知らなかったのか」


「分かりません」


 彼女は言った。


「ですが、記録に一行もありません。三百年分の記録に、カランの地下は出てきません」


    ◇


 俺は、その一行のなさを考えた。


 ――書かれていないことは、二通りだ。


 知らなかったか、書かなかったか。


 現場でも同じだ。図面に書いていない支柱は、無かったのか、書き忘れたのか。


 判断を間違えると、人が死ぬ。


    ◇


「ハルト」


 マリが言った。


「なんだ」


「ここ、なにも、ない」


「そう見える」


「ほんとに、なにも、ない?」


 彼女は、通路を見回した。


「じゃあ、なんで、ふたが、あいたの」


    ◇


 俺は、動きを止めた。


 ――そうだ。


 蓋は開いた。


 句を組み直したら、光って、開いた。


 行き止まりの通路に、鍵をかける理由はない。


「マリ」


「うん」


「――お前の言う通りだ」


 俺は立ち上がった。


「何もない場所に、鍵はかけん」


    ◇


 俺は、通路を戻った。


 戻りながら、床線を見た。


 二本の線。四尺五寸。


 禁域では、この線の外に出ると、防衛機構が止まった。


 線の中が「通っていい場所」だ。


 ――線は、どこから来ている。


    ◇


 俺は、階段の下まで戻った。


 床線は、階段の手前で終わっている。


 いや――


 俺は、しゃがんだ。


 終わっていない。


 線は、壁の中へ入っている。


    ◇


「セレン。灯りを」


 俺は、壁の際に指を当てた。


 線は、床から壁へ上がっていない。


 床の中で、壁の下をくぐっている。


 ――横に、まだ続いてる。


 俺は、その壁を叩いた。


 軽い。


    ◇


「――こっちだ」


 俺は言った。


「行き止まりは、正面じゃない。横だ」


 俺は、杆で壁の幅を測った。


 四尺五寸。


 通路と、同じ幅だった。


    ◇


 俺は、その壁をもう一度叩いた。


 正面の壁は鈍い。厚い。


 横の壁は軽い。


 同じ通路の、同じ高さで、音が違う。


「セレン。書け」


「はい」


「正面、鈍。横、軽。……三度叩いて、三度とも同じだ」


 彼女は、書いた。


 この女は、意味が分からなくても正確に書く。


 それが、記録官の一番いいところだ。


    ◇


「開けるのですか」


「今日は開けん」


 俺は言った。


「まず、上と突き合わせる」


「上、とは」


「地上だ」


 俺は言った。


「この横の壁の向こうが、地上でどこに当たるか。……それを出してから開ける」


    ◇


 俺たちは、一度地上に戻った。


 俺は、跡地の外周に縄を張った。


 地下の通路の向きと長さを、地上に写す。


 二十歩の階段。三十歩の通路。


 方角は、階段を降りたところで測ってある。


    ◇


「マリ。この方角に、三十歩」


「うん」


 彼女が歩いた。


 三十歩で止まる。


 その位置は、跡地の外だった。


 畑の中だ。


    ◇


 俺は、そこに立った。


 ――ここが、正面の壁の裏だ。


 そして、横の壁の向こうは。


 俺は、九十度左を向いた。


 その先には、村がある。


    ◇


「セレン」


「はい」


「――村の下だ」


 俺は言った。


「横の壁の向こうは、カラン村の真下に伸びてる」


 彼女は、俺の指す方を見た。


 家が二十軒ほど並んでいる。


 煙が上がっている。昼飯の支度だ。


    ◇


「何軒くらいですか」


「――全部だ」


 俺は言った。


「この村は、その上に建ってる」


 俺は、野帳を開いた。


「三百年、誰も知らずに」


    ◇


 マリが、村を見ていた。


「ハルト」


「なんだ」


「ここのひと、しらないで、すんでる」


「そうだ」


「……いえを、たてちゃ、いけない、って」


 彼女は言った。


「あのばしょ、だけ」


    ◇


 俺は、その一言に止まった。


 ――そうだ。


 言い伝えは、跡地にだけある。


 村の他の場所には、何もない。


 なら、あの言い伝えを残した者は、跡地だけが特別だと知っていた。


 村の下に何があるかは、知らなかった。


 知っていたら、村ごと動かしている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。