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第九話 現場百回(二回目)

 こんにちは。作者の「野生の書生」です。


 本作は無断転載をテーマとしていますが、無断転載を擁護・許可するものではありません。

 作者も異世界を含めて無断転載を行ったことはありません。


 この物語はフィクションです。実在の人物・団体・地名等は一切関係ありませんので、ご容赦ください。

 翌日、俺は鼻息荒くアランの事務所を訪れていた。

 アランは目の色が変わった俺の様子に”おや。”という顔をしていたが、何があったのかは聞いてこなかった。

 もともと、こうなることを見越してアランはアドバイスをしてくれたのかもしれない。

 

 ——ひょっとしてアランは実はもう事件の真相まで見抜いているのではないか、とも一瞬思ったが、アランも資料を何度も読み返しては思案しているようだから、その可能性はなさそうだった。


 俺は再び、侯爵の寝室の見取り図に目を落とした。

 その時、ふとあることに気づいた。


 「アルフレッド侯爵の利き手ってどっちだったんですか?」


 「ああ、右利きだって聞いているよ。」


 俺の世界では推理小説の基本。利き手をめぐる矛盾だ。

 侯爵の灰皿は、椅子に座った時に左側に位置する場所に置いてあった。

 普通、右利きの人間が灰皿を置くなら机の右側に置きそうなものだ。


 俺は自分の感じた疑問をアランに話した。


 「あの灰皿ね。君は手に取らなかったから気づかなかったかもしれないけれど、どうもあそこに固定されていたようなんだ。」


 アランは俺の疑問など、最初から承知だったように答えた。


 「どうやら、二か月ほど前にボヤ騒動があったらしい。侯爵のタバコの不始末が原因って話だがね。机に焦げた跡がついてサマにならないからって、焦げ跡を隠すためにそこに灰皿を固定したって執事の話だ。」

 

 ——本当に、アランは真相にたどり着いていないのか?

 俺は再びアランの素振りに疑念を持ったが、アランは続けて言った。


 「私もそれ以上のことは気にならなかったが、確かに何か引っかかるな。——よし、もう一度侯爵邸に行ってみるとするか。」


 ”お前にしか見えないものを期待して、お前に賭けたつもりだった”


 昨日聞いた、ヴィトの台詞がなぜか頭の中によみがえっていた。


    ◇


 侯爵邸に着くと、寝室に行き問題の灰皿を手に取ってみた。

 確かに、灰皿は固定されていた。

 どうやら両面テープのようなもので、固定されているようだった。


 俺は騎士団の了解を得て、灰皿を机からはがしてみた。


 机には確かに、焦げた跡がついていた。

 隠したくなる気持ちも、なんとなく分かった。


 ——だが、そこで納得してはここまで来た意味がない。


 「執事から話を聞きたいのですが、可能でしょうか?」

 俺は騎士団の一人に聞いた。


 騎士団の一人は寝室を出て行き、しばらくすると執事を連れて寝室に戻ってきた。


    ◇


 「この机の焦げ跡についてなんですが、当時のことを覚えてる範囲で結構ですので、教えてくれませんか?」


 執事曰く、二か月ほど前、アルフレッド侯爵が朝食を食べているときに、部屋の中から煙が出ているということで、使用人たちが大慌てで火を消したということがあったそうだ。


 火元は不明だったが、机に置かれた本が燃えていて、そばに吸い殻が入った灰皿もあったことから、侯爵が朝食前に吸ったタバコの灰が本の上に落ちて火が付いたのだろう、という結論に至った。


 侯爵は夫人からひどく怒られ、部屋の中での喫煙を禁じられたが、机に残った焦げ跡が忍びないということで、苦肉の策として灰皿で隠したらしい。

 ——まあ、というのは言い訳で、部屋に灰皿を残しておきたいという愛煙家の事情もあったのかもしれないが。


 「その前後で何か変わったこととかはありませんでしたか?」

 俺は質問を重ねてみた。


 執事はしばらく考えていたが、やがて思い出したように言った。


 「そういえば、その数日前がアルフレッド様の誕生日で、祝宴が開かれましたな。」


 俺たちは執事の話の続きを待った。


    ◇


 侯爵邸での二回目の調査を終えた後、俺はヴィトと面会していた。


 俺は今日の調査で新たに得た手がかりを伝えた。


 アルフレッド侯爵は二か月前にボヤ騒動を起こしていた。

 もしも、この時の出火原因が今回の件と関わりがあるのなら、当時のことを調べれば何かわかるかもしれない。

 特に出火の数日前、侯爵邸には誕生日の祝宴で多くの人が出入りしていたことから、二か月前のボヤ騒動は、祝宴に紛れて潜入した真犯人が今回の”実験”をした結果だったのかもしれない。


 ヴィトも身を乗り出して聞いていた。


 「ありがとう。本当に、感謝する。」


 まだ明確な成果は出していないのに、ヴィトはそう言っていた。


 俺はなんだか照れくさくなってきた。

 とはいえ、ようやく事件の真相にたどり着く糸口が見えてきたのだ。


 ヴィトの表情がいつもより穏やかなのを見て、俺は前から聞いてみたかったことを口にしていた。


 「ヴィトって、なんで転移魔法の研究にそんなにこだわっているんだ?」

 


 ヴィトは不意を突かれたことから、少し驚いた表情をしたが、しばらく間をおいてから語り始めた。

 それは、この世界にきて初めて知る、”相棒”の背景だった。


 第十話は2026年10月23日21時10分公開予定です。


 この作品が面白いと思っていただけた方は是非、無断転載ではなく高評価・感想・ブックマーク等で応援していただけたらと思います。

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