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第八話 面会Ⅱ

 こんにちは。作者の「野生の書生」です。


 本作は無断転載をテーマとしていますが、無断転載を擁護・許可するものではありません。

 作者も異世界を含めて無断転載を行ったことはありません。


 この物語はフィクションです。実在の人物・団体・地名等は一切関係ありませんので、ご容赦ください。

 侯爵邸の現地調査から三日後、俺は再びヴィトと面会していた。

 侯爵邸から帰ったその日にも面会したから、これで通算三回目の面会だ。


 「手がかり何にもなし!」


 俺はヴィトと向き合うと両手を挙げて、そう告げていた。

 ふざけているわけではない。

 この三日間、何度も資料を読み返しては仮説を立ててきたが、どれも無理があるものばかりだった。


 ヴィトは特に責めるわけでも、焦るわけでもなく、俺の言葉を受け入れていた。


 俺がたてた仮説は以下の通りだ。


   ◆

 

 1 侯爵自殺説

 ——まあ、自殺だとしたらあまりに不可解である。

 他殺のように見せる演出をしておきながらの自殺だとすれば、犯人を示すもっと分かりやすい偽の証拠を残しそうなものだ。


 2 使用人A(アリス)犯人説

 使用人A<アリス>は侯爵が就寝前に飲む薬を届けている。

 灰皿の状態については、部屋が暗かったため不明と証言しているが、裏を返せば侯爵に気づかれずに灰皿に細工することも可能ということだ。


 ただ、使用人A<アリス>は侯爵が施錠した後も寝室の外でその姿を目撃されているから、明け方に灰皿に火をつけに行くことはできない。

 

 3 使用人B(シーナ)犯人説

 使用人B<シーナ>は侯爵が夕食をとっている間に寝室に入っている。

 この間に部屋に何らかの細工をすることはできただろうが、その後、侯爵や使用人A<アリス>が部屋に入った時に気づかれないとは限らない。

 灰皿に例の小袋を仕込んだとして、もしも就寝前の侯爵や他の使用人に気づかれたら元も子もないだろう。



 ちなみに、火魔法を時間差を設けて発動する方法はないかをアランに聞いてみたが、結論から言えば不可能だった。

 一度発動した術式を途中で止めると、集中した魔力が分散してしまい発動できなくなるそうだ。

 侯爵の寝室は魔力を遮断するそうだから、魔力を閉じ込めて分散を防ぐことはできないのかとも思ったが、侯爵の部屋は内から外への魔力は通すので、その説も成り立たなかった。

 仮に魔力の分散を防いだとしても、遠隔で時間差を設けて術式を発動させる方法は聞いたことがない、というのがアランの言葉だった。


 となると、犯人はやはり明け方に何らかの方法で寝室に侵入して灰皿の小袋に火をつけたと思われる。


   ◆


 俺は、これらの仮説を改めてヴィトに披露した。


 しばらく場に沈黙が訪れた。



 「俺は、お前にしか見えないものを期待して、お前に賭けたつもりだったんだがな。」

 ヴィトはそうつぶやいていた。


 ——どういう意味だ?

 

 俺はヴィトに聞き返そうとしたが、なぜか悔しくなったのでやめた。


 代わりにヴィトの右手に本が一冊握られているのを見つけた。


 「あ、その本。」


 俺が三日前、侯爵邸の調査を終えた後で面会に来た際に、差し入れとして持ってきた本だった。


    ◇


 三日前の侯爵邸からの帰り道、俺はアランから「ヴィトに本を差し入れるといい」というアドバイス?を受けていた。


 「本って、何の本をもっていけばいいんですか?」


 「彼も作家だからね。発想が広がるものがいい。例えば......異世界人が書いた物語とかね。」


 アランはそう言うと俺に悪戯っぽい笑顔を見せてきた。


    ◇


 そんなわけで三日前、俺はヴィトに自分が書いた小説を何冊か差し入れていた。


 自分の書いた小説を、面と向かって読まれるのは正直恥ずかしくもあった。

 だけど本物のネット小説家である”野ざらしの猫車”先生に、俺の作品を読んでもらえるというのは、経緯はともかく光栄な気分でもあった。


 「あの.......。その本読んでいただけたのでしょうか?」

 俺は無意識に敬語になっていた。



 「ああ。俺が囚人じゃなきゃ”時間を返せ”と言いたいレベルだ。」

 ヴィトの評価は辛辣だった。



 予想はしていたとは言え、自分の作品を酷評されたことに多少の反発心を抱いた。


 「あの............どこがダメなのでしょうか?」

 俺はヴィトに聞いてみた。


 「まず、文章のテンポが悪すぎる。作品が全く頭に入ってこない。」


 「次に、登場人物の台詞が説明的すぎる。お前、現実でここまで口に出して話しているのか?」


 「最後に、視点が統一されていない。主語がいつの間にか変わっている箇所が多すぎる。——挙げればキリがないが、ざっとこんなところだ。」


 ヴィトの評価は辛辣だったが、意外にもアドバイスは具体的であった。


 俺は訳も分からず批評されたわけではないと知り、少し安心した。

 ヴィトの指摘した個所は、確かに自分の文章を読み返した俺にも心当たりがあった。

 ——それに、ヴィトが真剣に自分の作品を読んでくれたことに対して嬉しさも覚えていた。


 「ありがとうございます!次はもっといい作品を書いてみせます!」


 俺は素直にヴィトに感謝の気持ちを伝えていた。


 ヴィトはやれやれといった感じで苦笑したが、無断転載したときの呆れの色はなかった。



 「まあ、お前の書く登場人物は最後まで芯が通っていて、人間味が感じられた。単なる記号としてしか人物を書けない奴は多いけれど、お前は本当に自分の生み出した物語を愛しているんだなって、そこだけは確かに伝わったぞ。」


 ヴィトからの初めての誉め言葉だった。


 「本当ですか!光栄です!」


 俺は事件のことも忘れて、目を輝かせていた。


 「ああ。お前、物語のトーンはだんだん世間ウケを狙ったような感じになっていっても、登場人物だけは最後まで変わらなかった。彼らを”商売道具”としては見れなかったんだろう?」


 俺は無断転載で注目を集めた時よりもはるかに、作家としての充実感を噛みしめていた。


 「だから、お前は書き続けろ。世間から認めてもらえるかは保証できんがな。」


 ヴィトはそう言うと、口を閉じた。



 「面会時間は終わりだ。17番、部屋に戻れ。」

 面会室に入ってきた刑務官が告げた。


 ヴィトは刑務官に連れられて面会室を後にしていった。


    ◇


 騎士団事務所を出た俺の足取りは軽かった。


 ——俺は、絶対にヴィトの無実を証明して見せる。


 自分の思考回路の単純さに気づきながらも、事件解決に向けたモチベーションはこれまでで最高潮に達していた。


 第九話は2026年10月22日21時10分公開予定です。


 この作品が面白いと思っていただけた方は是非、無断転載ではなく高評価・感想・ブックマーク等で応援していただけたらと思います。

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