第五話 不良助手
こんにちは。作者の「野生の書生」です。
本作は無断転載をテーマとしていますが、無断転載を擁護・許可するものではありません。
作者も異世界を含めて無断転載を行ったことはありません。
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・地名等は一切関係ありませんので、ご容赦ください。
翌日、俺はヴィトの弁護人であるアランという男の事務所を訪ねていた。
アランは初老の弁護士で、経済的に困窮している人の弁護を格安で引き受けていた。
おかげで、事務所は王都にあるとはいえ、ひどくみすぼらしく、”空き家の事務所にホームレスが居ついている”といっても通じそうな風景であった。
ヴィトはこちらの世界でも副業作家として名が知れていたが、出版で稼いだ金のほとんどを、転移魔法の研究につぎ込んでいたため懐具合はよくなかった。
その結果、藁にもすがる思いでたどり着いたのが、この事務所というわけだ。
俺は騎士団から一度は手配されたが、『新入りの弁護士助手が守秘義務を破って一儲けしようとして、勝手に本を出した。』という信用もクソもない、アランのストーリーにより、その手配を解除してもらった。
依頼人であるヴィトが被害届を出さないことで、小説家ギルドからの除名も免れることができた。
「まあ、事務所の信用にもかかわるストーリーだけど、元々大した事務所じゃないからね。」
アランは自嘲気味にそう言っていた。
「はあ.........。」
俺はアランに感謝しつつも、生返事をしていた。
「ヴィト君から話は聞いているよ。まあ、ずいぶんな冒険をしたものだ。法に関わる人間としては感心はできんがね。」
アランはそう言うと、俺に視線を向けてきた。
——その目線には、ある種の眼力というか、鋭さが感じられた。
俺は思わず、その視線から目をそらしてしまっていた。
アランから顔をそむけてしまった俺は、昨日のヴィトのことを思い出していた。
◇
自分の作品を無断で使用されたことについて、ヴィトは最初は怒りを示していたが、俺と問答を繰り返すうちに徐々にその勢いは収まっていった。
それどころか、ヴィトは自分の置かれている境遇を俺に話すと、最後にこう言ってきた。
「俺たちの世界の人間には見えないものがお前には見えるかもしれない。頼む、俺を助けてくれ。」
頭を下げるべきは俺の方なのに、頭を垂れるヴィトを目の前にして、その申し出を断ることはできなかった。
◇
「まあ、君にもいろいろ事情はあったことだろうし、その件はもういいいから。よろしく頼むよ。」
アランはそう言うと、俺に右手を差し出してきた。
「よろしくお願いします。アラン先生。」
俺はその右手を握り、頭を下げた。
かくして、”アランの事務所の新入り不良助手”という役柄を与えられた俺の異世界新生活がスタートした。
◇
アランの事務所で俺はヴィトに嫌疑が掛けられている侯爵不審死事件の資料に目を通していた。
事件発覚日:グラリウス暦927年10月7日(西暦2026年10月2日相当)
事件発生場所:侯爵邸寝室
被害者:アルフレッド侯爵
死亡推定時刻:発覚日同日午前6時前後
死因:致死性の毒によるもの
当日朝、使用人が朝食の準備ができたことを伝えるため、寝室を訪れた際に死体を発見。
寝室には鍵がかかっており、何度ノックをしても返事がないため、マスターキーで解錠した。
ちなみにマスターキーは解錠のみで施錠はできず、執事と使用人が立ち合わないとキーボックスから取り出せない仕組みだ。
死体は寝室の机に頭を向けて、床に倒れこんでいる状態であった。
死体に目立った外傷はなく、衣服に争った形跡も見られなかった。
室内に物色された形跡はなかった。
だが、机の上に置かれた灰皿の中に、奇妙な小袋があり、そこに火をつけた形跡があった。
小袋の中身は線香のようなもので、どうやら犯人は毒物を練りこんだそれを、小袋に入れて寝室に持ち込み、侯爵が寝ている横で火をつけたようだ。
侯爵は犯人が立ち去った後、灰皿から煙が出ていることに気づき火を消そうと、花瓶を手に取りその水を灰皿に注いだと思われる。
ところが、小袋の中には水に触れると発熱する薬が混ぜられていたらしく、発生した毒を含む水蒸気を大量に吸ったことで侯爵は死に至った。
——というのが、初動捜査ででた仮説だった。
問題は、侯爵の寝室は外部からの襲撃に備えて、壁には外側からの魔力を通さない素材が使われ、窓ガラスやドアののぞき窓にも魔力を減衰させるものを使用していたということである。
すなわち、部屋の外から部屋の中に魔法を放つことはほぼ不可能というわけだ。
つまり、侯爵が寝室のドアを施錠する前に、犯人はあらかじめ寝室に侵入しておき、6時前後に毒の入った小袋に火をつけなければこの犯行は成立しない。
しかもそのあと何らかの手段で部屋から脱出しなければ、自分も毒の交じった空気を吸うことになりかねない状況だ。
実際、マスターキーで寝室のドアを開けた使用人は、死体を見つけたショックもだが、充満した毒入りの空気にさらされたことで命に別状はないものの体調を崩していた。
部屋の中にガスマスク等をつけて潜伏することも可能ではあったが、寝室で隠れられそうな場所は限られており、死体発見以降、ガスマスクの類をつけた人間が部屋から出てきたことはなく、室内を捜索した際も毒ガスの防御手段になりそうなものは見当たらなかった。
というわけで、犯人はいったいどうやって寝室に侵入して、火をつけた後出て行ったのか、ということで捜査は行き詰っていた。
その結果浮上したのが事件前日に侯爵の元を訪れて、何やら侯爵ともめていたヴィトによる犯行という説だった。
侯爵の寝室は外側からの魔力は遮断するが、内側からの魔力は通しうる。
すなわち、何らかの方法で部屋に侵入したヴィトが、毒の小袋に火をつけた後、部屋を再度密室にして転移魔法で外に出たという仮説だ。
——確かにこの方法なら密室殺人が成立する。
物理法則が支配する現世と、魔法が存在する異世界における密室殺人の在り方の違いを俺は改めて感じていた。
とはいえ、俺は今はヴィトの弁護人だ。
この仮説に納得していてはいけない。
俺は目を皿のようにして事件の資料を読みふけり、推理小説を考察するがごとく頭を回転させていた。
アランはそんな俺の様子をどこか満足げな表情で見つめていた。
第六話は2026年10月19日21時10分公開予定です。
※ 平日は一日一話公開します。
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