第二十一話 包囲
こんにちは。作者の「野生の書生」です。
本作は無断転載をテーマとしていますが、無断転載を擁護・許可するものではありません。
作者も異世界を含めて無断転載を行ったことはありません。
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・地名等は一切関係ありませんので、ご容赦ください。
”遺跡”は石造りの小さな神殿のような雰囲気を纏っていた。
——ここが二千年前、この世界と俺の世界をつなぐトンネルが誕生した地。
俺たちは遺跡に通じる石の階段へゆっくりと踏み出した。
石の堅い感触が足に伝わる。
だが雨風にさらされて古びた石段は、体重をかけるごとに新たなひび割れを生じさせているようで、どこかおぼつかなさを感じさせた。
<まさか突然穴が開いてダンジョン最下層へ真っ逆さま、なんて展開にはならないよな?>
そんな嫌な想像を抱きつつ、俺たちは遺跡の中心部へと上って行った。
階段を上りきると、広間のような広大な空間があった。
中央部の床には巨大な魔法陣が描かれている。
恐れくこれが、この世界と俺の世界をつなぐトンネル本線の出入り口だ。
「この魔法陣を起動させるには、時間がかかる。少し待っててくれ。」
ヴィトはそう言うと俺たちに背中を向けて歩き出した。
その時、突然ガーランドが剣を抜き、ヴィトに斬りかかった。
背後の殺気に気づいたヴィトはとっさに身をかわしたが、ガーランドの振るった剣はヴィトの動作を確実に捉えていた。
俺とアランは呆気にとらわれて、その光景を目の当たりにしていた。
◇
一瞬後には、ヴィトはその場に倒れこんでいた。
ガーランドの剣はヴィトの右腕に傷を負わせていた。
「失礼した。転移魔法に夢中の君が、この聖地を前に背後の気配に気がつくとはね。」
ガーランドは嘲るような口調でそう言った。
ヴィトは右腕を押さえていたが、手の隙間からは一滴また一滴と血がこぼれ、床に広がっていった。
——ふざけるな。
ヴィトのその腕は、これからもたくさんの人の心を動かす物語を紡ぐためのものだ。
お前なんかが奪っていいものじゃない!
俺はガーランドの元に駆け出そうとした。
だが、アランがそれを制止した。
「君はヴィト君を安全なところへ。」
アランが俺の耳元でそう告げた。
俺は冷静さを取り戻し、一呼吸して、ヴィトの元へ駆け寄った。
傷は大きかったが、命に別状はなさそうだった。
だが、ヴィトを抱えて移動するだけの体力も、隠れられそうな場所もなかった。
「ガーランド!お前は彼を元の世界に帰すのではなかったのか!?」
アランは怒りを込めた口調でそう言った。
「この遺跡さえ突き止めれば、もうヴィト君に用はない。そこにいる異世界人も殺して転生させれば、この世界には戻ってくることもないだろう?」
ガーランドはアランの方を向くと、勝ち誇ったような顔で言った。
「アラン。あなたはこれまで数多くの力なきものを救ってきた。」
ガーランドはアランの目を見据えながら続けた。
「だがすべての人間には”身の丈”というものがある。力なきものがそれをわきまえずに力を欲すこと、それは害悪に他ならない。あなたは、あなたが手を差し伸べてきた力なき者たちが、その手に武器を持つ未来を望むのですか?」
ヴィトの血で染まった剣が太陽の光を照り返し、鋭い光を放つ。
アランは何も答えなかった。
だが、その目は怒りに満ちてガーランドを睨み据えていた。
「この場所はすでに私の別動隊によって包囲されている。工兵隊が到着すれば遺跡は爆破される。どのみち君たちに勝ち目はないのだよ。」
ガーランドは懐から赤い魔石のようなものを取り出した。
——発信機のようなものか?
ガーランドはアランから再び俺とヴィトの方に視線を戻した。
「そうだ。遺跡が無事なうちに、ここで三人とも死んでみたらどうだろうか?三人そろって”民主主義”の素晴らしい”あの世”へ行けるかもしれないぞ?」
俺はガーランドの顔に視線を向けた。
アランの事務所で見せた紳士的な態度の面影は微塵もなかった。
この嗜虐性こそ、この男の本質か。
不意に周囲の森から音がし始めた。
群衆が近づいてくる気配。それも五人や六人ではない。
数十人を超える人の気配が、遺跡を取り囲んでいる。
「残念、どうやら時間切れのようだ。特に君には悪いが、あちらの世界に帰ることは諦めてもらうしかないようだ。」
ガーランドが俺の方に近づくと、剣を俺の頬に当てた。
ヴィトの血の生暖かさが伝わってくる。
俺は生まれて初めて「殺される」恐怖を感じていた。
「よせ........。やめろ............。」
右腕に走る激痛をこらえながら、ヴィトが声を絞り出していた。
遺跡の石段を上ってくる何人もの足音が耳に届いてくる。
俺とヴィトは押しつぶされそうな恐怖を感じながら、それでも不屈の意志をもってガーランドの双眸を睨み据えていた。
第二十二話は2026年11月1日11時40分公開予定です。
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