第二話 現実と誘惑
こんにちは。作者の「野生の書生」です。
本作は無断転載をテーマとしていますが、無断転載を擁護・許可するものではありません。
作者も異世界を含めて無断転載を行ったことはありません。
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・地名等は一切関係ありませんので、ご容赦ください。
異世界に来て一週間。
俺は今、広場で開かれた市場にいる。
市場では果物や野菜、肉料理、魔道具雑貨など、様々な出店が軒を連ねていた。
食欲をそそる香辛料の香りが漂う傍ら、俺は自分が執筆した“本”を売っていた。
だが、何人か立ち寄ってくれた人はいたものの、結局いままで一冊たりとも売れていなかった。
◇
~一週間前~
この世界に最初に来た時、俺は街を行く人々が皆、タブレットのような道具を持ち歩いていることに気づいた。
どうやら、魔力を利用した電子書籍のようなものらしく、人々はスキマ時間を見つけると“魔導書籍”とでもいうべき道具を使って、読書を楽しんでいた。
紙ベースの本も存在するが、今ではほとんどの人は魔導書籍を利用しているそうだ。
——この世界なら、俺も一旗揚げることができるかもしれない。
街の人に聞くと、この世界は本当に読書が盛んで、作家の人向けのギルドまであるということだった。
冒険者ギルドならぬ、小説家ギルド。
俺は迷わず小説家ギルドに足を運んで、本を出したい旨を受付嬢に伝えていた。
受付嬢によると、小説家ギルドに登録した作家のルールは以下の通り。
ひとつ、登録した作家はギルドが貸し出す魔道具で本を執筆できる。
ひとつ、執筆した作品の権利は作者に帰属するが、売り上げの一部をギルドが徴収する。
ひとつ、他人の作品を無断で使用した場合は即除名される。
——要は、『小説を書こう』の異世界版だ。
登録料を求められたが、俺はこの世界に偶然持ち込んだ、昨日の洗濯物のワイシャツを古着屋に持ち込むことで、まとまった現金を得ていた。
“珍しい丈夫な素材”ということで、予想以上の高値がつき、とりあえず、向こう二週間は食うには困らない。
そんなわけで、俺は小説家ギルドに登録すると、執筆用の魔道具を借りて宿へ向かった。
◇
宿に着くと、俺は魔道具を使って早速本を執筆し始めた。
魔道具は、ノートパソコンのような形状をしていた。
ただ、キーボードがあるはずの場所には水晶玉のような物体が埋め込まれており、そこに手をかざして、文章をイメージするとそれが、画面に映し出されるという代物だった。
水晶玉は取り外すこともできて、マウスの要領で操作することができた。
——俺の世界のノートパソコンよりもすごいんじゃないか?
最初のうちは、「腹が減った」とか「今日の配信見逃した」等の雑念が文章に入り込んだものの、一時間もしないうちに、俺は魔道具の使い方をマスターした。
作成した小説は、その場で製本することもできるし、ギルドに魔転送して、魔導書籍向けに配布することも可能だそうだ。
俺は現世で執筆していたネット小説を、こちらの世界向けにアレンジして本を作り続けた。
◇
それから一週間経過して、夕暮れを迎えた市場に俺はいるわけだが、今日も俺の本は一冊も売れなかった。
魔導書籍向けにギルドにアップロードした分もあったが、閲覧数はゼロだった。
「なんでこうなるんだよ............。」
夜の気配が漂いだした空を見上げて俺はつぶやいた。
今日も、行きと同じ重さの本の山を抱えて、宿に帰る。
あと一週間、売り上げがなかったら俺は晴れて無一文となる。
銀貨と銅貨が日に日に減っていく光景に、俺は焦りを感じ始めていた。
◇
宿につくと、俺は懲りずに魔道具とにらめっこを開始した。
——なんで、俺の物語は人々に届かないんだ。
ふと、現世から持ち込んだ荷物
——スマートフォンとモバイルバッテリーが目に入った。
転移する前日、通勤電車で読もうと思ってダウンロードしておいた現世の人気作のことを思い出した。
俺はスマートフォンを手にすると、そのデータを呼び出した。
『小説を書こう』で連載されている人気作。
”野ざらしの猫車”先生による作品のデータを呼び出した。
『~転移魔法を研究している俺、気づけば濡れ衣着せられピンチな件~』
タイトルはよくあるラノベそのものだが、綿密に構成された異世界の設定や、登場人物たちの生活描写は架空の物語でありながら、読者にある種の親近感を抱かせるほどリアリティに満ちていた。
それでいて、魔法の描写や痛快な権力闘争のシナリオは、異世界ファンタジーとしても秀逸であった。
それだけあって、初投稿でありながらPV数は万を超えて読者の評価も頭一つ抜けていた。
俺はそのデータの世界に入り込み、気がつけば深夜を超えていた。
「俺にもこんな才能があったらな...............。」
それは誰にも届かない、自分にそのまま跳ね返ってくる敗北宣言だった。
このままいけば、明日も(正確にはもう日付が変わっているが)今日と同じ結果をたどるだろう。
——だったら、いっそのこと。
生まれて初めての、自称ネット小説家のプライドに関わる”誘惑”が俺の頭をもたげていた。
第三話は2026年10月17日21時10分公開予定です。
この作品が面白いと思っていただけた方は是非、無断転載ではなく高評価・感想・ブックマーク等で応援していただけたらと思います。




