第十九話 劇薬
こんにちは。作者の「野生の書生」です。
本作は無断転載をテーマとしていますが、無断転載を擁護・許可するものではありません。
作者も異世界を含めて無断転載を行ったことはありません。
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・地名等は一切関係ありませんので、ご容赦ください。
転移魔法をタブー視する政策。
これはだれのためのものなのか。
アランの問いかけにガーランドは一瞬動揺したようだが、すぐに冷静な目を取り戻していた。
「君の世界ではお酒は二十歳になってから、という法律があるそうだね。それはなぜだ?」
ガーランドの突然の問いに俺は戸惑ったが、模範解答を返した。
「未成年のうちは、身体が未発達で脳に悪影響を与えるリスクがあるからです。」
「そうだ。我々にとっての”民主主義”もそれと同じだ。」
ガーランドはそう断じると続けた。
「君たちの世界では歴史という連続性のある物語の中で”権利”、”平等”、”自由”といった概念を紡いできた。だが、何の過程も経ずにこの世界にそれが持ち込まれたら、それは劇薬となる。我々にはこの世界で生きる人々の幸せを守る義務があるのだよ。」
ガーランドの言葉には、容易に否定できない説得力があった。
だが、物語とは自由の中でこそ紡がれるべきものなのだ。
「そのために、人々から物語を奪うのですか?読む自由も、書く自由も。」
ヴィトは幼いときに母親に読んでもらった物語に影響を受けた。
それは国の都合で奪っていいものではないはずだ。
「自由とは責任が伴ってしかるべきものなのだ。この世界の国民はまだ”責任ある自由”を享受できるレベルにない。この世界は王を、支配者を必要としているのだよ。」
「ほう。では、この政策は国王陛下も承知の上.......ということですかな?」
アランは再びガーランドに問うた。
「——陛下は、民の自由と幸福を望んでおられる。だが、それは理想だ。その理想の光に伴う影の部分を補うことこそ”影の防人”の使命なのだ。」
ガーランドは答えた。
それは、この異世界との交流の痕跡を抹消するという政策が、国家の総意ではないことを意味していた。
王を必要な存在と言いながら、王の意に反した行動をとっている。
ガーランドが自覚しているのかいないのか、矛盾した言動をしていることに俺は気づいた。
結局、大義を並べているが根底にあるのは、自分の立っている地面を、人々を見下ろす舞台を失いたくないということに過ぎない。
「あなたは、民衆を支配する側の人とお見受けしますが、人々を信じることはできないのですか?」
俺はガーランドに問うた。
「さっきも言った通り、この国の国民のレベルはまだ低い。”民主主義”などという理想を正しく扱えるわけがない。」
「”影の防人”は、普段は表の顔をもって生活しているということでしたが、彼らも低いレベルなのですか?ご存じだとは思いますが、俺の国では人々を率いる人を民衆が選ぶことで”民主主義”を実現しています。」
まあ、それも万能ではないのだが。
俺はガーランドの返答を待った。
「彼らも理想は持っている。だが、ほとんどの人間は所詮自分が持つ利権を失うことを恐れているに過ぎん。まあ、その点でいえば私も同類かもしれんがね。」
ガーランドは俺の質問の意図に気づいて、先回りして答えていた。
「あのアリスという者が、この世界に持ち込んだ本。アルフレッド侯爵は交流のあった学者たちにその一部を回して翻訳を試みさせた。学者の間でちょっとした騒動になったよ。おかげで我々は急遽、異世界の存在に通じる可能性のある書物を回収する事態となった。」
ヴィトがかつて経験した異世界に通じる痕跡の抹消。
その正体がこれだ。
アリスの持ち込んだ本が、学者たちの間で話題となり、異世界に通じる話題を封殺するために行われた言論弾圧だったのだ。
「学者による翻訳が叶わなくなった侯爵は、数年がかりで少しづつ解読を進めていった。だが、その恐ろしさに気づいたのだろう。我々が”警告”をする前に、彼は自ら研究への出資を取り下げた。」
ガーランドは答え合わせをするかのように語った。
「俺は政治的なことはどうでもいいです。王政や特権階級がどうなろうと興味もありません。俺はこの転移魔法で、俺たちの知らない世界を知りたい。——それだけです。」
ヴィトがガーランドに言った。
「その好奇心が危険だと言っているのだ。好奇心は我々に利益をもたらすこともあるが、時に牙をむく。」
ガーランドはそこで言葉を切ると、俺とヴィトとアランを見回してから言った。
「どのみち、もう転移魔法は使えない。この国一体に転移魔法に対抗する結界を張らせてもらった。」
俺たちはここ数日で一番の衝撃を受けていた。
ヴィトは青ざめた表情で、ガーランドを見つめていた。
◇
転移魔法が使えない。
それは俺がもう元の世界に帰れないということか?
いや、それ以前にヴィトの研究がここで絶たれるということか?
俺はヴィトの方を見た。
だが、ヴィトは先ほどの青ざめた顔から、精悍さを取り戻してガーランドに言った。
「俺は彼を元の世界に帰すと約束しています。あなた方にとっても、異世界人である彼を元の世界に帰すことはやぶさかではないはずです。彼を帰すことだけは協力してください。」
ガーランドは満足そうにうなずいた。
「無論だ。そこについてはもちろん協力する。ただし、条件がある。」
ガーランドはヴィトを見据えて言った。
「君がこれ以上転移魔法を研究しないということ。それと、君が突き止めた”遺跡”に案内してもらおうではないか。」
ヴィトの顔に明らかな動揺が走った。
第二十話は2026年10月31日11時40分公開予定です。
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