第十七話 交換条件
こんにちは。作者の「野生の書生」です。
本作は無断転載をテーマとしていますが、無断転載を擁護・許可するものではありません。
作者も異世界を含めて無断転載を行ったことはありません。
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・地名等は一切関係ありませんので、ご容赦ください。
「ちょっと待ってください。」
ノートに手を伸ばしかけた俺たちにマークが”待った”をかけた。
「これを持ち出そうとしたとき、私もとうとう上層部に目をつけられてしまいました。私を見逃す条件として、ある人物とあなたがたが会う場をセッティングしろと言われました。つまり、これを見るというのなら、その人物と会うことを了承していただかなければなりません。」
俺とヴィトは顔を見合わせた。
アランはマークに危険な役回りをさせてしまったことに申し訳なさを感じているようではあったが、その目には警戒の色が宿っていた。
「その人物は、逮捕されたアリスに異世界から来たことを公にしなければ減刑すると持ち掛けたそうです。つまり、それくらい影響力のある人物だと心得てください。」
マークは若干震えながら話していた。
俺たちは顔を見合わせていたが、互いにうなずくとノートを手に取った。
アランは満足そうに俺たちの様子を見ていた。
◇
ノートには外国語と思われる文字列に、この世界の文字列を並べて何度も書き直されていた。
俺が理解できるのは、日本語と若干の英語と、どういうわけかこの世界の言語だけだ。
これはドイツ語で、こっちはキリル文字......ロシア語か?
俺は、こんなことなら第二外国語でもきっちり勉強しておけばよかったと後悔した。
ヴィトもこちらの世界の言語と、日本に転移した時に自動習得したのか日本語の知識があるのみだった。
アランも転移者・転生者と関わってきたことがあるらしく、多少の日本語の知識はあったがそれ以外の外国語はNGだった。
侯爵が書いた異世界語は読むことができたが、単語レベルだったので、全体を読み解くのは難しい。
「民間人」
「法令」
「契約」
なんだ。これは。
「司法」
「社会」
「権利」
俺は、頭の中でキーワードのパズルを組み立てる。
どこかで見たような言葉の組み合わせ。
頭を悩ませていると、アラビア数字が目に入った。
「1642」
「1793」
「1917」
「1945」
——?
「1945」
これが年号で、日本人なら太平洋戦争終結と結びつけるだろう。
だが、他の数字は?
俺はノートに書かれたアルファベットに目を凝らしてみた。
英語はろくな成績ではなかったが、なにかわかる単語もあるかもしれない。
「emperor」——皇帝
「government」——政府
俺はなんとなく、アルフレッド侯爵が翻訳しようとしていた本の性質が分かってきた気がした。
◇
アルフレッド侯爵が残したノートを熟読した後、俺は宿に帰って魔道具と向き合っていた。
ポケットに入ったスマホがインターネットとつながれば、もう少し手がかりも増えたかもしれない。
だが、スマホも魔道具も、この状況では役に立たなかった。
いっそ俺が一度現世に戻って電子辞書の一つでも持ってくればと思ったが、転移魔法の発動にはそれ相応の魔石が必要で、費用がかかるということだ。
ヴィトが俺を現世に帰すというのは、俺が思っていた以上に手厚いお礼だったのだ。
しかも今は転移魔法の存在に国が目を光らせている時。
トンネルの存在はなるべく隠匿しておきたいというヴィトの意向もあった。
マークとの約束である、ある人物との面会は三日後に行われることとなった。
相手のテリトリーに踏み込むのは嫌だったので、ダメ元でアランの事務室で会えないか聞いてみたら、予想外にも「場所は任せる」ということらしく、あっさり了承された。
俺は三日後行われる会談に不安と期待が混じった思いを抱きながら、気が付いたら寝落ちしていた。
◇
目が覚めると、夜中だった。
目の前の魔道具には、信じられない滅茶苦茶な文字列が並んでいた。
どうやら、魔道具の手をかざす部分に覆いかぶさって寝ていたことで、頭の中の情景を魔道具が拾って文字に書き起こしてしまったらしい。
興味本位で読んでみたが、あまりの前衛的な文章に、苦笑していた。
どうやら、俺には詩人の才能はないらしい。
そのことを確認すると、俺はベッドに入り、今度はゆっくりと眠りについた。
第十八話は2026年10月29日21時10分公開予定です。
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