第十六話 転移魔法
こんにちは。作者の「野生の書生」です。
本作は無断転載をテーマとしていますが、無断転載を擁護・許可するものではありません。
作者も異世界を含めて無断転載を行ったことはありません。
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・地名等は一切関係ありませんので、ご容赦ください。
ヴィトの話は本当に、本当に長かった。
だが、延々と話が続いているという印象はなく、ヴィトの熱意を纏った語り部は聴くものの心に訴えかけるものがあった。
よく考えたら、ヴィトは侯爵たちから研究資金の出資を得ているのだ。
たぶん侯爵たちがヴィトの研究に出資したのは、”儲け話”としてだけではなかったのだろう。
ヴィトには書き手としてだけではなく、語り手としても”人の心を動かす”才能が備わっているということか。
——いや、これは才能だけではない。
ヴィトの心に宿る、転移魔法が「好き」という純粋な気持ちが原動力となって、他人の心をも動かしているのかもしれない。
じゃあ、俺は?
俺も物語を書くことが「好き」だ。
俺も、その気持ちを原動力に、他人の心を動かせるのだろうか。
——今なら、借り物ではない自分の物語を書けるかもしれない。
ヴィトの話を聞き終わった俺はそんなことを考えていた。
◇
ヴィトの話を無慈悲に要約すると、こうなる。
1 二千年前から二百年前にかけて、俺の世界とこの世界は文化的交流があった可能性がある。
ただし、五百年ほど前から交流は下火になり、今ではその事実すら抹消しようとする動きがある。
2 俺の世界とこの世界をつなぐ太いトンネルが存在し、転移魔法はそのトンネルに通じる入り口を開けることで発動する。
稀に、そのトンネルに落ちる人や魂があり、転移や転生といった現象が生じていると思われる。
どういうわけか、トンネルに落ちる日本人の割合は突出して多いらしい。
3 一度死んだ世界には、戻ることができない。
アリスを絶望に陥れたルールがここにあった。
どうやら世界をつなぐトンネルにはファイアウォールのような防壁があって、死者の魂はブラックリストに入ってしまい、元の世界には進入できなくなるそうだ。
この世界が中世のヨーロッパ風の雰囲気を持った街並みで構成されているのも、俺の世界との文化交流の結果なのかもしれない。
もしかしたら、こちらの世界が先で、俺の世界のほうがこの世界に影響を受けたのではないか?
しかし、転移者・転生者に日本人が多いのはどういうわけか?
ヴィト曰く、地球上に数あるトンネルの出入り口のうち、最後まで使われていたのが日本との出入り口だからではないか、とのことだった。
ヨーロッパ風の街並みをしていて、なぜ日本との出入り口を最後まで残していた?
五百年ほど前から交流が下火になったというが、一体何があった?
俺の頭の中に多くの疑問が宿る。
ヴィトもこの点については答えを得られていないのだった。
◇
「やあ、待たせたね。」
アランが事務所に帰ってきた。
アランは消えた段ボール箱をめぐって手がかりがないかを探してくると言って、出かけていたのだ。
「どうも。その節はご協力いただきありがとうございました。」
アランに続けて、マークが事務所に入ってきた。
まさか、マークが段ボール箱を持ち出してきたのか?
俺は期待と驚愕が混ざった表情でマークの方を見た。
「残念ながら、お探しの箱は私も見つけられませんでした。」
俺の視線に気づいたのか、マークは先回りして答えた。
そんなにうまくはいかないか。
だがマークがわざわざここに来たのは、俺たちを労いに来たためだけではないはずだ。
「箱は見つかりませんでしたが、興味深い資料があります。」
マークの脇には封筒が抱えられていた。
封筒の中にはノートが数冊納められていた。
「詳細な内容は不明ですが、アルフレッド侯爵が異世界の書物を翻訳しようとしていた痕跡と思われます。」
俺もヴィトも机の上に置かれたノートにくぎ付けとなった。
第十七話は2026年10月28日21時10分公開予定です。
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