↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/25

第十四話 望郷

 こんにちは。作者の「野生の書生」です。


 本作は無断転載をテーマとしていますが、無断転載を擁護・許可するものではありません。

 作者も異世界を含めて無断転載を行ったことはありません。


 この物語はフィクションです。実在の人物・団体・地名等は一切関係ありませんので、ご容赦ください。

 ——帰りたかった?


 アリスが漏らしたその言葉に俺は心臓が一つ跳ね上がった。

 転移魔法の研究に出資していた侯爵を殺害した使用人。

 その「帰りたい」が意味するところは——。


 「私は........図書館の職員でした。ある日、脚立に乗って本棚の上の箱を取ろうとしたら、突然地震が来て...........。」

 アルスは語り始めた。

 

 「私は転倒して、瓦礫の下敷きになりました。”あの世界で”私は一度死んだのです。ところが、気が付いたら”こちらの世界”にこの姿で.............。」


 アリスも異世界からの来訪者だった。

 ただし、俺のような”転移”ではなく、どちらかと言えば”転生”に近い形だ。


 「この体の元の持ち主がどういった方なのか、私にはわかりません。ですが、行くあてのない私を、通りすがりのご主人様が保護してくれました。私の側に落ちていた箱の中身に興味を持たれたのです。」


 俺はまた一つ点と点がつながる感覚を覚えた。

 ヴィトが告げられた転移魔法の研究を差し止められた理由が入った段ボール箱。

 それが、その箱だとしたら——。


 「私は向こうの世界で亡くなった身です。ですが、向こうの世界の記憶ははっきりしています。向こうの世界には家族もいます。あの地震でどうなったのかはわかりませんが..............もう一度会いたかった。」

 アリスは涙をこぼし始めた。


 「ご主人様は私に『元の世界に帰れる方法があるかもしれない。その手掛かりを追っている人間を私は知っている。』と言ってきました。ご主人様の目的が異世界との交易による商売であることは分かっていました。ですが、その望みが叶えば私も家族に会えるかもしれない。そう思ってご主人様を支えてきました。」


 アリスは生前の世界での技術やアイディアを侯爵に覚えている限り話した。

 侯爵は、この世界で再現できそうなものを商人に知的財産として売り渡していたらしい。

 ——俺と同じ、無断転載だ。


 「ですが先日ご主人様は突然、研究への出資を打ち切ると言ってきたのです。私は理由を聞きましたが答えていただくことはできませんでした。私が諦めきれずに問い詰めるとこういったのです..........。」



 『君は一度向こうの世界で死んでいる。だれも君を覚えていないし、信じてなんかもらえない。——それに、どのみち転移魔法では死んだ人間を元の世界に還すなんてことはできないんだよ。』



 「あの人は..........最初から分かっていたんです。私がもう元の世界には戻れないということを。それなのに、あの人は私の気持ちを利用して!」


 アリスはそこで言葉を切って泣き崩れた。


 俺はここまで自分の故郷について、切実に考えたことはなかった。

 故郷が懐かしくなる前にヴィトと出会って、「いつかは帰れる」と当たり前のように思っていたが、「帰りの船」の存在は彼女にとっては生きる希望だったのだろう。


 「アリスさん。俺はあなたの気持ちをすべて理解することはできません。ですが、あなたの行為で無実の人間が罪に問われようとしています。その人間はあなたに希望の光をもたらした転移魔法の研究者なんです。」


 俺がしゃがんでアリスと目線を合わせると、アリスは顔をそむけた。

 やはり、転移魔法の研究者に罪を着せようとしたのも計画のうちか。


 「あなたは転移魔法の研究者も侯爵とグルだったと考えているのかもしれません。ですが、彼は純粋に自分の夢を追っている、誰に恥じることもない勤勉な研究者です。どうか彼の夢を潰さないでいただけませんか?」


 俺がそう言うとアリスは背けていた顔を、今度はうつむくようにした。

 しばらくすると、顔はうなだれたままだったが、ゆっくりと両手を前に出した。


 騎士団の中から一人の男が出てきてアリスに手錠をかけた。


 「一つ聞いてもいいですか?」


 俺は連行されるアリスの背中に声を掛けた。


 「あなたがこの世界に持ちこんだ”箱”ですが、それはこの前俺が質問した”箱”と同じものということでしょうか?」


 アリスは俺を振り向くとうなずいた。


 「ご主人様は、私が持ち込んだ本の翻訳に熱心でしたから。」


 「何の本だったかはわかりますか?」


 「さあ。洋書のコーナーに置いてあった箱で、私も読めない本がほとんどでしたので。」


 「その箱はいまどこに?」


 「地下の物置に隠しました。あの研究者はこの本をめぐってご主人様と争われていたようだったので........。」


 俺はアランと顔を見合わせた。

 侯爵がヴィトに研究を止めさせようとした”理由”が地下の物置にある。


 「執事さん。地下の物置に案内してもらえませんか?」


 俺とアランと執事が寝室を出ようとしたとき、血相を変えた騎士が寝室に飛び込んできた。



 「火事です!すぐに逃げてください!」



 第十五話は2026年10月26日21時10分公開予定です。


 この作品が面白いと思っていただけた方は是非、無断転載ではなく高評価・感想・ブックマーク等で応援していただけたらと思います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。