第十一話 発見
こんにちは。作者の「野生の書生」です。
本作は無断転載をテーマとしていますが、無断転載を擁護・許可するものではありません。
作者も異世界を含めて無断転載を行ったことはありません。
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・地名等は一切関係ありませんので、ご容赦ください。
ヴィトとの面会から宿へと戻った俺は、彼の持つ俺の世界への憧憬を反芻していた。
俺の世界では、多くの人が剣と魔法の異世界に憧れを抱いて物語を綴っていた。
その一方で、ヴィトは俺の世界の存在を追い続けていた。
鏡写しのような構造に、なんだか不思議な気分になり、もう一度ヴィトの書いた作品を読み返してみようかと思った。
だが、スマートフォンはバッテリーの残量が10%を切っていた。
俺は、偶然持ち込んでいたモバイルバッテリーを手元に引き寄せた。
そして、ある不安を感じた。
<このモバイルバッテリー、三階から落としたけど突然発火したりしないよな?>
下が芝生だったから、パッと見たところ壊れている様子はないが——。
その瞬間、不安は気付きに変わった。
時間差を設けて遠隔で火をつける方法。
それは火魔法に頼らなくても、俺の世界の物理でも実現することができる。
俺は異世界の密室という状況を前に、本来の物理的な観点が盲点になっていたことに今更気づかされた。
ヴィトが言っていた「お前にしか見えないもの」とはこういうことだったのか。
俺は侯爵邸の寝室の様子を思い出す。
あの部屋には、もちろんモバイルバッテリーなんて置いていなかった。
だが、火をつけることができるものがあるとすれば——。
俺はある可能性に思い至った。
だが、そうだとしたら真犯人は——。
そしてその証拠になるものは——。
とにかく、明日この仮説をアランに相談してみよう。
俺はそう決めると、ベッドに入って眠ることにした。
モバイルバッテリーは発火が怖いので、延焼しそうなものを遠ざけておくことにした。
◇
「ふむ。そんなことが可能とはねぇ。」
アランは俺の仮説を聞いた後、完全に腑に落ちたわけではないが一考の価値ありと思ってくれたようだった。
「ただ、これはこの世界ではもう一度再現するのが難しいかもしれません。」
俺はうつむきながらそう言った。
「では、騎士団に一つ相談してみるとしよう。」
アランはそう言うと、騎士団事務所に行くと言って出て行った。
俺はアランの帰りを待つ間、昨日思いついた仮説に基づいて資料をもう一度見返していた。
この方法は不確実性が多い。
おそらく、国家的な背景を持つものの陰謀ではない。
この仮説が正しければ、真犯人はあの人だろう。
だとしたら「段ボール箱」はなぜ消えた?
真犯人が持ち去ったのだとしたら、その理由は?
まだ解決できていない疑問点を思い浮かべながら資料を見返す。
しばらくたったころ、アランが騎士団事務所から帰ってきた。
その手には風呂敷に包まれた”荷物”が携えられていた。
◇
アランが持って帰った”荷物”の中身を見て、俺は驚いた。
多少誤差はあるものの、俺の仮説を証明するには十分な代物だ。
「よくこんなものを...........。」
俺はアランに言った。
「いやいや。ここまで運ぶのが冷や汗ものだったわい。」
アランは額の汗をぬぐいながら応じた。
「そうですよ。万一のことがあれば私のクビが飛びますからね。比喩ではなく。」
突然入ってきた第三者の声に、俺は驚いて事務所の入口の方を見やった。
そこには長身の、見るからにエリート然とした男が立っていた。
「ああ。彼は第五騎士団団長のマーク君だ。」
アランはそう言うと、マークを事務室内に招き入れた。
俺はマークと呼ばれた男と握手を交わした。
マークはもともと貧民街の出身だったが、十五年前にある窃盗事件で冤罪に巻き込まれたときにアランに助けてもらったのだそうだ。
それ以来、必死の努力を積み重ねて貧民街を出て、今の地位にたどり着いたのだという。
今は団長として王都の重要施設の警備を担当していて、今日は押収品の保管庫に行ってきたとのことだった。
「じゃあ、これって...........。」
保管庫から持ち出された押収品。
もし、万一のことがあればマークは社会的な立場を失う。
俺は”荷物”を触れる手が震えだすのと同時に、アランのもつ底知れないコネクションを思い知らされた。
「まあ、君の世界では”情けは人のためならず”っていうんだろう?」
アランはそういうと、少しだけ誇らしげに笑顔を向けてきた。
第十一話は2026年10月24日21時10分公開予定です。
この作品が面白いと思っていただけた方は是非、無断転載ではなく高評価・感想・ブックマーク等で応援していただけたらと思います。




