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8. 中断された移動教室1

8話です

交通事故のシーンが続きます。

おまけに説明が長いです。

苦手な方は気をつけてください。

 事件から2ヶ月が過ぎてクラス替えをしない堂前中学校は落ち着き払っている。


 中学も3年生になると、受験で頭がいっぱいになると思いきや、思い出づくりの行事もある。


 およそ1ヶ月前。


「修学旅行は2年だろ?3年生もどこか行くのか?」

「ナスとか言う場所で遊ぶらしいぞ。美味いのか?お泊りじゃ。蒼と離れるのは寂しいが、偶には良かろう」

「ナス?ああ、那須高原かあ。そんなに遠くないな」

「なんじゃったか、カンコバスとか言うでっかい乗り物に乗って行くのじゃ」


 アナが渡してくれたプリントを見る。

 移動教室と言うらしい。堂前中学校の3年生は4クラス。席を詰めれば大型バス3台で行けそうだが、4台で行くらしい。


「6月か、梅雨と重ならければいいな。自由時間には私服って書いてある。新しいの買うか?」

「おっ、良いのか?蒼が見繕うてくれると嬉しいのう」

「ブディが返ってきたら行こう」





 旅行の日が来た。


 いつもより早い朝7時半の集合に、俺達はギリギリアウトだった。


 一晩でも離れるのは寂しいと言って、2人が深夜まで俺に甘えた結果だった。


 俺だけが起きられなかった。

 大魔法使いさんと邪神さんは、平気な顔でいつも通りだ。

(このチート女郎どもめ!俺はこれから仕事だ)


「遅いですよ。ブリジットさん」

「ごめんなさい、室町先生」

「蒼さんも気をつけてください」

(蒼さん?何だか室町先生が嬉しそうだ。俺、注意されたんだよね?)


 5分遅れでバスは出発した。

 車で2人を送った俺は、バスから手を降るダイアナとブリジットのおかげで、他の生徒から注目を浴びて恥ずかしい。

 A号車の京子も小さく手を振っていた。


(あれ?室町先生まで手を振って?)


 俺に手を振ったとは思わず、後ろを振り返ってしまった。

 誰もいないことに驚いて、バツの悪さに手を振り返してしまう。


(あれ?)


 京子が心配そうにB号車に振り返って覗き込んでいる。

 ダイアナが乗っているのに浮気でも心配したのだろうか?


(誤解だよ。安心して)


 俺は笑顔で京子に大きく手を振った。





「ブディに手を振ってる人は誰?」


 隣の席で由奈が好奇心に目を光らせている。


「日本のお父さん!」

「え?怒ってる?」


 ブリジットは今のやり取りの一部始終を見ていた。と言うより当事者の一人だった。

(平城山先生だけじゃなく室町先生まで?四角じゃないの?)

「ゴメンね。眠くてぇ」

「早かったもんね。あの人と一緒に暮らしてるんだ。どんな人?」

「優しい人だよ」


 目を輝かせて答えるブリジットの様子に、由奈の好奇心が魅力を感じない中年男に対して膨らんで行く。


「由奈は旅行に来て大丈夫なの?」

「お医者さんが行っても良いって、でもハイキングは駄目だけど」


 賊に鈍器で後頭部を殴られ、由奈は全治2ヶ月の大怪我を負わされた。

 数日間は集中治療室に入るほどの重体だったという。

 3ヶ月が経った今も、時々精密検査を受けるために通院している。


「そっかあ。一緒に行きたかったね」


 やがてバスは高速道に入り、流れる景色に目を奪われ、話題が次々に変わっ

 っていった。


 2時間ほどで那須索道山麓駅に到着。

 ロープウェイで9合目まで上がって、徒歩で茶臼岳山頂に向かい、那須岳神社に合格祈願のお参りをして下山した。


 由奈は、他の体調不良の生徒と山頂駅で待機というか遊んでいた。


 これからバスに乗って麓の牧場で昼食の予定だ。


「由奈は何してたの?」

「私は山頂駅のお店とか展望台に居たよ」

「何かお土産あった?」

「お団子食べちゃった。改札を出たところのお店。美味しかったよ」

「あー、私も食べたかったー。お腹減ったね」


 一行のバスが山麓駅駐車場を出て下り始める。

 B号車(B、A、C、Dクラスの順番)が先頭になる。先頭を順番に替えているようだ。

 最初はつづら折りの急カーブが幾重にも続いて、右へ左へ景色が谷側山側へと次々に変わって行く。

 谷側になれば山麓が見渡せて景色が良い。

 その度に生徒から歓声が上がる。


 当然の様に後からきた乗用車が、隙あらばと追い越し、間に割り込んでバスはまた車間距離を空ける。


 でかくて重いものが簡単に止まれる分けがないのだ。


 少し長い直線に差し掛かり、追い越そうとするスポーツカーが物凄い速さでD号車(最後尾)を追い越して行った。

 大型バスもスポーツカーも車幅が道一杯のサイズで、バスの側面ギリギリを通過して行く。


「おー。かっけーなー」


 男子達から歓声があがる。

 運転手はすぐに全車両へ無線連絡を入れた。


「ちっ、馬鹿が来たよ」


 運転手の近くにいたダイアナは、振り向かず後方に注意を向ける。


 運転手が舌打ちしてサイドミラーを見ている。

 B号車(先頭車)はすでに直線の先端まで達し、右カーブのために速度を落としていた。

 普通ならここで道をゆずるのは危険すぎる。


「これはいかんな」

「アナちゃん何か言った?」

「沙弥、このバス事故るぞ。何かに掴まれ」

「え?」


 カーブを対向車が上がって来た。しかも大型バスだ。

 スポーツカーは焦ったのか、自信があったのか、C号車(先頭から3台目)を追い越す手前からさらに加速を始める。


 残念な事にここはサーキットでは無かった。路面の抵抗値が低い上に異物だらけだ。

 加速した途端に路面の砂利を拾い、後輪が一瞬で空転する。運悪く路面の凹凸でバウンドして右回りに回転を始めた。


 車の姿勢が崩れていく中、車載AIはタイヤの空転を事前に検知して、アクセルとブレーキを制御するが手遅れだった。

 すでに物理的限界を超えた速度に達している。


(こん畜生!死にたくねー、ぎゃー!神様助けてぇ!)


 ダイアナとブリジットには制御AIの怒りと悲鳴が聞こえていた。


 スポーツカーは最初に内側を向いてC号車の側面に当たり、そこを支点に回転が加速した。後部がワイヤー式のガードレールに乗って後輪が一瞬だけ浮いてしまう。


(妾を呼んだか?)

(神様?助けてください!バカ野郎のために死にたくない!)

(愚かな主人でも助けるのがお前の仕事じゃ。主人を恨むのも良いじゃろうが、職務を全うしろ)

(ワーッ、神様の馬鹿野郎!)

 ホンの百分の一秒の会話だった。


 くるくるとA号車の後ろの角に突っ込んで弾きとばされた。

 スポーツカーは今度こそワイヤー式ガードレールを乗り越え、大きく弧を描いて谷に消えて行った。


 それだけでは済まなかった。

 対向のバスが自分の車線を回転しながら突っ込んで来るスポーツカーを発見して急停止した。

 バスの後ろに張り付いて煽っていた後続の四輪駆動車が、バスを避けるために慌ててハンドルをきり、対向車線に飛び出した。

 そのままB号車(先頭車)と衝突して、バスをカーブの外側に押し出してしまった。


 A号車に乗っていたブリジットは、B号車がスローモーションの様に左に横転していくところを見ていた。


(ダイアナが止めてるの?)


 スポーツカーに突っ込まれたA号車の運転手は「何してんだ!」と怒鳴りながら、それでも冷静に停車させた。


「痛いなあ、もう。怪我をした方はいらっしゃいますか?気分が悪くなったら申し出てください。それから安全確認が済むまでバスから降りないでください」

「こら、勝手に外に出ない!」


 平城山先生が窓から外に出ようとしているやんちゃ男子達に怒鳴った。

 事故の衝撃で、入口のステップまで飛ばされたバスガイドさんが、気丈にも起き上がって乗客の安否を確認する。


 先頭のB号車にはダイアナが乗っている。

 後方の運転手達は横転した車両に張り付いて救出活動を始めていた。

 石油の匂いでむせ返るようだ。


「馬鹿野郎!燃料が漏れてんだぞ。タバコなんか吸ってんじゃねえ!」


 咥えタバコの見物人がのんきに撮影をしていた。


「あっ!ばっ」


 タバコを吸っていた男はそのままタバコをこっちに投げてしまった。いつもの癖なのだろうが、頭が悪すぎる。


 慌てた運転手の一人が走り出して火の着いたタバコを拾い上げてバスから離れる。見物人の中に分け入って、のんきに撮影を続けているタバコを捨てた男の顔面を、思いっきり殴って周りを睨みつけた。


「いいか、こいつがタバコ吸わねえように抑えとけよ。後で警察に突き出すから動画撮ってたやつに提出してもらうからな。こいつを逃がすなよ」


 運転手は言い捨てると、さっさと救出に戻って行った。





 横転したバスの中は悲惨な状態だった。

 四輪駆動車に突っ込まれたバスは、ガードレールにぶつかって、弾き返されたが、遠心力のついた後部が振り回されて横転してしまう。バスは天井を下にして道路の法面を滑り落ちていった。


 四輪駆動車は、2トントラックなみの巨体をコンパクトに圧縮して停車していた。これではドアも開かないだろう。


 右側に座っていた生徒達が荷物と一緒に左側に落下して、全員が天井の端でごちゃ混ぜになっている。


「紗弥よ。生きておるか?」

「いったー」

「大丈夫そうじゃ。助けが来たぞ」

「あっ、屋根が開いたー。運転手さーん!助けてー」


 実際は側面の非常口を運転手達が開けたのだが、天井が開いた様に見える。


「怪我人を先に出したいんだが…。これじゃ無理だな。近くから順番に出てくれ、上から引っ張り上げる」


 生徒達は運転手の指示した通り、非常口に近い者から先に救出されて行く。

 運転手が一人中に入り、生徒達は介助されながら座席をよじ登って行く。


 下敷きになった生徒には気絶していた者が数人いた。

 怪我人は打撲や裂傷を負っている者が殆どだったが、重体者もいる。


 ダイアナは、運転席の後ろに引っ掛っている綾を見つけた。綾はダイアナたちの1つ前の席に座って、おしゃべりしていた友達だった。


 運転席が衝撃で後ろの席まで押し込まれている。運転手もハンドルに挟まれて落ちてこない。


「綾がヤバいのう。救急車はどこだ?渋滞で上がって来れぬのか。仕方ないのう」


 ダイアナは視線を上空に持って行き、レスキュー隊が渋滞の中をゆっくり進んでいるのを確認した。


(ブディよ。ちぃと手伝うてくれぬか?クラスメイトの綾が危ないのじゃ。一応隠蔽はするが、皆の注意を引いてくれ)

(了解!)


 ブリジットは縮んだまま停車している四輪駆動車のエンジン部分から激しい煙を発生させた。


 閉じ込められたドライバーはパニック状態になり、バスや後続のトラックから消化器を持って数人が消化を開始した。

 辺りは騒然となり、のんきにスマホで撮影する者、救助を行う者など様々だが、注意をそらすことには成功している。


「火事だ!車が燃えてる」


 救助された生徒が煙を見つけて騒ぎ出す。

 使徒たちも煙に集中して騒然となった。


(上手く気を逸らせたのう)

 ダイアナは前の運転手を潰さないように、綾が座っているシートを後ろにゆっくり押し戻し、隙間を作っていく。

 綾の上半身がだらんと落ちて来るが、まだ足が挟まれている。


「これは痛いな、済まぬ、綾」


 綾の身体を浮かせて、シートを付け根から引きちぎった。

 ようやく自由になった綾の容態を確認する。


「これは良くないのう。心の臓から血が漏れておる。はて、妾の神力をこの時代で使うて良いものかのう。緊急事態じゃからな」

(ブディ、これから綾に神力を使うでな、疲労で動けなくじゃろうから後は頼むぞ)


 ブリジットの脳内に概念と映像が入り混じった濃厚な情報が押し込まれる。


「これが神の力」


 一瞬で状況を理解したブリジットは、気配を消して事故車両に急行した。


「運転手殿は妾達とは縁が薄いでのう。少し我慢してもらおう。では始めるぞ、ブディ」

「やって」


 ダイアナの肌が紫色に変わり、こめかみの辺りから大きな角が生えた。

(なつかしいなあ。封印した時にはこの姿だった)


 やがて綾の周辺に暗紫色の霧が漂い始めた。

 損傷部分なのだろう、霧が濃い部分がいくつかある。


 ブリジットは霧の毒気に苛まれながら、同時に車の発煙と隠蔽と綾の身体を浮かせ続けている。

(キツい。でもまだ全開じゃない。私達の力が戻って来てるのは確か)


 少しづつダイアナの邪神モードが薄れている。

 暗紫色の霧が晴れ、ダイアナは力尽きて膝を着いてしまった。


「後は医者殿に任せよう。ここまでじゃ」

「ご苦労さま。隠蔽を解いてもいい?」

「大丈夫か?ちゃんと人間の姿に戻ったか?」

「うん、大丈夫だよ」

「蒼には見せられぬな」

「蒼なら大丈夫だよ」


 綾を静かに車外にだして平らな面に寝かせ、四輪駆動車のエンジン付近に焦げを付けて偽装し、煙を止めた。


 室町先生がいつの間にか救出されていた綾に驚いていたが、どさくさの最中に気を回している時間は無かった。

長々と面倒な説明ばかりでしたが、ここまでありがとうございました。

今回はダイアナの本来の姿と神力を披露しました。

次回は何か解るかもしれません。

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