7. 4人の女性
7話です。
女性たちの気持ちを大胆に書きました。
全編が恋愛エピソードになっています。
また警察に呼ばれた。有力な証拠も証言も得られず、いつものように解放された。
すっかり辺りは暗くなっていたが、夕食の前にリンデンによってお茶をすることにした。
お堂山前駅から石畳を3人で登る。
「2人が半殺しにした連中。指示してた連中がいたらしい。いくら操作しても親玉は判らんらしい」
「それなら懲らしめてやったぞ」
何でもない事を話すようにダイアナが話し始める。
「「?」」
「賊の奴らに妙な繋がりを見つけてのう。手繰り寄せて見たのじゃ。そうしたら出るは出るは、賊の根城じゃたぞ」
「どこにあったのよ?」
「都じゃ。根城には火を着けてやったが、その上にも親玉がおってな。奴等が乗っておった車をゴロンとひっくり返してやった」
「遠くの人間も殺せるのか?」
ダイアナの話は荒唐無稽だった。だが本当なんだろう。事件現場から警察署にいた時間にやったのなら2人には立派なアリバイだ。
魔術を使ったのだから証明は不可能だろうが。
「蒼よ。約束を破ってすまぬ。彼奴らは何人も人を殺しておったのでな。偉そうな奴を見繕って殺しておいた。暫くは悪事もできんじゃろ」
「やってしまった事は仕方ないよ。アナは嘘をついてないだろ。それより契約違反で体中痛むんじゃないのか?」
「妾の身を案じてくれるのか?愛想を尽かされると思って…蒼よ」
「ん?」
ダイアナは真剣な眼差しで蒼に向き直る。
「妾にも不思議なんじゃが、お前が愛おしくてたまらん。この様な感情は人として生きていた頃以来じゃ。朧げな記憶しか無いがのう」
「えー、告白?私だって蒼を愛してるよ!」
ブリジットも大真面目な眼差しで告白をしてしまう。
不味い!
2人が馴れ馴れしいのは、契約魔術で運命共同体になったからだと考えていたし、俺の前で半裸で過ごしているのは、文化の違いか男と見られていないからだと思っていた。
本音を言うと、見た目が子供だから考えない様にしていたのが正解だ。
ブリジットでさえ俺の6倍の年齢だ。そっちでは百戦錬磨の可能性だってある。
ダイアナだってやろうと思えば俺を操って手篭めにできたはずだ。
2人と恋愛関係になりたいという欲求を、正当化しようとする考えが頭を擡げて来る。
2人はOKしたではないか。
いや!
俺より年上の女性だぞ。
ち!、が!、う!、んだ。
それは不味い!法的(設定的に)に未成年だぞ。手を出したらこの町に住めなくなる。
それよりも、一度関係を持ったら、ずるずると自堕落になって行くのが目に浮かぶ。
落ち着け、呪文だ呪文?
んー、なんだっけ?
「?」
「妾は蒼のものじゃ。自由にして良いのだぞ」
ダイアナが俺の右腕に自分の左腕を絡めてしなだれかかる。
ブリジットが同じ様に左腕に寄りかかる。
「欲しい」
死ぬ!
心が折れる!
喫茶リンデンの閉店時間まで2時間、ゆっくりできる。
このまま帰るのは悪手だ、2人はやる気十分な気がする。
俺だってやぶさかで……違う!
「俺はパウンドケーキとチャイ」
「このエスプレッソっておいしいの?」
「おいしいけど濃いコーヒーだよ。圧力をかけてギューッと押し出すんだ。カップもこんな小さいし」
親指と人差し指で大きさを示す。
「濃い?苦そう」
「濃いね。苦味も酸味も香りも甘みも?」
「わしはロールケーキとジャスミンティーを頼む」
「私はシフォンケーキの紅茶セットにする」
ママはカウンターに入り、それぞれの飲み物の用意を始める。
「平日の夕方なんて珍しいわね」
「2人を迎えに行ってね。その帰りだよ」
「はーい。おまたせ」
「?ケーキの上に見慣れぬものが乗っておるぞ」
「桜の塩漬けよ。教会広場の桜」
「ロールケーキのクリームにも入ってるわよ」
「ほんとだあ、綺麗な色。一口ちょうだい」
パチッ。
ダイアナは、ブリジットが伸ばした手を叩いた。
「いったーい!」
「手掴みは無かろう」
カランカラン。
「いらっしゃい」
「まだ時間大丈夫ですか?」
客は平城山先生だった。
凄く疲れた感じで、なんとなくフラついていた。
俺は席を立って挨拶をする。
「こんばんわ、平城山先生」
ビクッとしたあとに、こっちを向いて会釈をし、表情をほころばせた先生がテーブルの前まで来る。
近くだと背の高さがよく分かった。しかし、照明の影になって表情が読みにくい。細身でモデルの様だ。姿勢がすっと伸びていてかっこいい。
「ここにいらしたんですか、アナちゃんが警察に連れて行かれたって、心配で家に行ったんですが」
ダイアナが心配で来てくれたのか、良い担任だ。
笑顔だが何か表情に切迫感が漂っている。
「お知り合い?警察?」
トレイを抱えて珍しく怪訝な表情になっているママ。
座っている2人はママと先生を見比べているようだ。
「ごめんママ。立ち話は邪魔だね。ダイアナの担任で平城山先生。2人がまた大立ち回りをしてね。警察署からの帰りだったんだ」
「もしかして昼間のサイレンって?」
「多分そう」
「先生、お話があるなら一緒の席でどうぞ」
「?」
「「「!!!」」」
席を勧めた瞬間、先生の顔が近づき、俺の顔を両手で包んで引っ張られた。
何が起こっているのか理解できるわけもなく、先生は頭を斜めにして俺の唇を奪った。
少し汗ばんだ先生から涼やかな香りがした。
やめてくれ!
体を押し付けるな!
感じてしまう!
「?」
何か硬いものが胸に当たっている。
ママが俺と先生の間にトレイを挟み込んでいた。
なんて早業なんだ。
グッジョブ。
ママは先生と俺の間に腕を突っ込んで引き剥がそうとする。
「何やってんのよ、泥棒猫!」
俺は離れる先生を見て安心したが、先生は取り憑かれたように俺しか見ていなかった。
「「「?」」」
「!」
が、ママに唇を奪われた。
意思のある柔なものが口の中に入ってきて、俺の舌を絡め取ろうと探っている。
俺の腰に腕を回して輪をつくり、グイグイ腰を引き付けてられた。
なんなんだ!
心は驚きでそれどころじゃないのに、身体が反応している。
わーっ、腰を引かないと!
「ねえ、蒼。ずっと好きだったの。年上のおばちゃんじゃダメ?」
俺が拒否にもとれる態度をとったせいか、悲しい表情でママが訴える。
「私も好きです。蒼さん!」
先生が俺とママの肩を掴んで凄い力で引き剥がそうとする。
肩を掴まれた痛みで、現実に引き戻された俺は、殺気を放っている2人を振り返った。
「2人の気持ちは分かりました。思春期の女の子の前です。俺の立場も考えてください」
ママと先生はピクッとしてブリジットとダイアナを見た。
無我夢中で全く眼中に無かった様だ。
バツが悪そうに突っ立っている。
他に客が居なくて良かった。
居たらこんな事にならなかっただろう。
「淑女が2人もそろって獣のように…」
ブリジットが2人を睨みつけて責め始める。
怒りで涙目になっていた。
「ブディ!」
「え?」
「ごめん。それは俺も同じで恥ずかし」
「なんと!蒼も男じゃのう」
ダイアナはなぜか嬉しそうで、ブリジットはぐっと手を握り締めて「私にも欲情してほしい!」と念話で怒鳴られた。
ブリジットの一途さが愛おしくなって「いつも我慢してるんだよ」と返してしまった。これからが大変になりそうだ。
ブリジットの表情が緩んだように見える。
唇を噛んでいるのに、笑みを浮かべている。
喫茶リンデンを閉めて、大人だけで話し合いが持たれた。
未成年という設定の2人は家に返されたが、魔術で覗いているのだろう。
ママは寂しそうな表情で先生に提案をした。
「蒼とは一回り以上歳が違うから結婚は望んでない。私は初めて会った日から蒼が好きなの。貴女のお陰でやっと告白できた。ありがとう。でも、蒼を独り占めするなら許さない。私の代わりに蒼と家族を作るなら、京子と二股でも構わない」
平城山京子は堂元雪江の提案に動揺している。泥棒猫と罵るような人物とは思えない提案だった。
雪江は46歳だと言った。これから妊娠しても母子ともにリスクが高く、子供が成人する頃には70歳近い。
私が70歳の時に、まだ大学生の子供を養えるだろうか?
その頃、蒼の年齢は56歳だ。収入は心配ないだろうけど、私に介護が必要な場合もある。それに、蒼の欲求に応える体力が残っているのだろうか?
雪江の現実に京子は愕然とする。
京子は26歳。高身長がコンプレックスで、今まで交際した男性も2人。ストーカーにあってからは男が怖くなった。
しかし、京子はダイアナが転入してきた日以来、蒼から目が離せなかった。
自分より背が低く、ちょっと太っていて疲れた顔の年上の男が、ブリジットとダイアナに向ける優しさと3人の間にただよう愛情。
その愛を自分も享受したいと京子は思った。
そんな話を平城山京子は蒼と雪江に語る。
「男の人に積極的になったのは初めてです。身長のせいで恋愛経験もほとんどありませんでした。私、まだ男の人を知らないんです。あんなふしだらなことをしたのに、蒼さんとどうなりたいかも解らない。お店に入った時、蒼さんに見つけてもらったら胸がいっぱいになって……」
京子は顔を真っ赤にして下を向いてしまう。
「それじゃあ簡単ね。蒼は私達2人のもの。京子さんは、付き合ってみてから決めればいいじゃない」
「そ、そうですね」
「いいわね!そういうことだから蒼は2人の恋人」
雪江は京子の手を握って仲良しアピールをした。
「俺の気持ちは?」
「嫌なの?」
「え?いや、そのう」
「なら良いじゃない。こんな美人が2人も付き合ってくれるのよ。修羅場なしで」
こんな生殺しの様な状態でまともな判断が可能だろうか?
2人きりの時は呼び捨てにして欲しいと要求され、帰り際にお別れのキスをせがまれた。
シャッターが閉められた店内での2人は、一層大胆だった。
「それじゃあ、雪江、京子」
「「うん」」
もうどうとでもなれ!
心が凄く疲れていて、頭の芯がじんじんする。
今夜は料理する気になれなかった。駅前のスーパーまで出て惣菜を買おう。
帰宅すると、やはり2人は玄関で待ち構えていた。
恥ずかしい気持ちと申し訳ないという気持ちで2人を真っ直ぐ見られない。
「ただいま、ブディ、アナ」
「「お帰り」」
なんでも無いような返事だが、少し硬い感じがする。
「今夜は疲れたから、お惣菜を買ってきた」
「そうじゃな」
「それもいいね」
3人で食卓を囲み夕食を摂る。
すでに点いていたテレビを眺めていると、ドラマの上側にニュース速報が流れていた。
火事の現場が犯罪集団の拠点だった事と、火事によって死者が出たことが報道されている。
詳細を知りたくなって、チャンネルを報道番組に替えると、高級外車が横転している場面に出くわした。
「これってダイアナがやった車か?」
「おお、これにはこーんな巨漢のツルツル頭が乗っておったぞ。あと3つやったんじゃが…おお、これこれ」
両手を大きく広げて男のデブっぷりを説明するダイアナは、とても人殺しをした人物とは思えない。
言う通り、4台の高級車が別々の場所で横転していた。
珍しい偶然ということで、キャスターも大げさに驚いている。
同乗者全員が死亡した事故にも関わらず、それ以外は怪我人も無かった。
報道によると、1台の死者は反社とは関わりが無い。
「こいつは古物商を生業にしておってのう。車やら電話やらを賊のために用意しておった」
「アナが言うなら間違いない。近いうちに被疑者死亡でなんとかんとかだな」
「この町の事件もやってるよ」
「倉庫の中が真っ黒だな」
「やり過ぎたかのう」
「「「ははは、は」」」
静寂が訪れ、ダイニングに緊張感がただよう。
「ねえ、蒼」
静寂を破ったのはブリジットだった。
「何?」
「まさか先生とママが私達より先なんて無いよね?」
真剣な眼差しで俺とテーブルの間に入り、膝の上に跨ったブリジット。
怒りに涙があふれ、どんどん頬を流れて行く。
俺は彼女を抱き寄せて唇を合わせる。
愛おしくてどうしていいか分らないように、俺を強く抱きしめて激しく身体を押し付けて、どんなに押し付けても満足できないようにもどかしく身体を動かすブリジットだった。
苛烈で炎のようで可愛い女性だ。
本当に俺には勿体ない。
「リンデンでは不覚にも先手を取られたからのう。今からは妾達のターンじゃ」
だから俺の気持ちは?
「愛しているから良っか」
「何か言うたか?」
「私も愛してるー!」
「なんじゃと!蒼!もう一度頼む!」
「愛してるよ、アナ」
「妾もじゃ」
「愛してるよ、ブディ」
「うん」
ここまで読んで頂いてありがとうございます。
R15を逸脱しないように書いたつもりですがちょっと不安です。
ブディとアナの中学校生活も1年を切りました。




