6. ステーキとスウィーツとストーカーと賊
第6話です。
よろしくお願いします。
題名の付け方が違っていたので修正しました。
不良騒ぎのあとから2人に手を出す者はいなくなった。
と言うよりも言い寄る男がいなくなった。
噂を聞き付けた格闘技系クラブ担任からの引き合いが増えて、俺のところにまで勧誘の電話や、どこで調べたのか競技格闘技で有名な高校や大学からも学校や家庭まで来る始末だった。
酷い連中は体育の時間に隠し撮りをして警察に通報されていた。
そのほとんどがモグリのスカウトマンで、連行された連中は口々に乱闘騒ぎは虚偽だとぼやいていたと言う。プロが見ればすぐに判ることだが、2人はまったく肉体の鍛錬をしていない。
乱闘騒ぎ後の変化で不思議に思っているのは、それぞれの担任の俺に対する態度が軟化したことだった。
数ヶ月が過ぎて、やっと騒ぎが落ち着いた。
「ただいま、蒼」
いつものようにリビングで制服を脱ぎ始めるブリジット。
「おかえり、ビディ。終業式は何日だっけ?」
咎める気も失せてしまったが、相変わらず際どい下着だ。今時の中学生には普通なのだろうか。
「えっと26日かな?」
「明後日じゃないか!その日は予定が無いな。友達と予定はあるか?」
「無いよ、何かあるの?」
そしていつものように下着姿で抱きついてくる。
最初はマジでビビったが、免疫が付いてきた。
「外で食事でもどうだ?アナは予定は無いそうだ」
「えー、私は2番なの?」
怒って俺から離れてしまう。
「そう言われても、言い出したのはアナだからなあ」
少し機嫌をもどした様だが、また悔しそうにして下唇を噛んだ。
「どこに行くか決まってるの?」
「ああ、ステーキを食べてみたいって。市役所のそばにチェーン店が出来たって友達から聞いたって」
ちょっと嬉しそうな表情になって、すぐに何か悪そうな顔になるブリジット。
「そのあとにシャロンに行きたい!」
俺は財布の中身を思い出しながら、カードが使えるか思い出そうとする。
そこはちょっと高級な喫茶室を併設したケーキ屋さんだった。
「わかった」
「やったー!大好き蒼!」
「ただいまー?何を2人で抱き合うておるのじゃ!ずっこいぞビディ!離れるのじゃー」
「これがステーキかえ。どれも美味そうじゃ」
「そうね、どれにしよう」
学校が休みに入るとあって平日の昼なのに店は家族連れで混んでいた。
2人は周りの席を見回して、実物とメニューを見比べている。
「本物はちぃと小さく見えるのう」
「そうね、なんかね」
「それでも昔よりマシになったんだぞ。前に暮らした場所ではどんな肉を食べてたんだ?」
「クマなら首から背中の肉が美味しいの。脇の近くも柔くて良いわ」
「妾もクマならそこだ。もう一度食したいのう」
「牛ならロースだな。焼き加減はどうする」
「「なま!」」
おいおい!
3人でレアの上ロースを注文し、2人は400グラムを簡単に平らげたのに、まだ食べられそうな雰囲気だった。
次は別腹に行く。
ステーキ屋から300メートルほど歩いた場所にシャロンがあった。
高級店っぽくない質素な作りで白が基調の建物は清潔感がある。
入口が2つあり、喫茶店側はシャロンではなく喫茶ブランシュになっていた。
「いらっしゃいませ。3名様ですね?」
奥の4人がけのテーブルに案内される。
店内は明るい雰囲気でテーブルの間も広く、ゆったりお茶ができそうだ。
「おお?平城山先生ではないか」
「アナちゃんじゃない」
1人で来店したダイアナの担任がウェイトレスに案内されて現れた。
「あら、神無月さん。こんにちは」
「こんにちは、平城山先生。学校のお仕事は終わったんですか?」
「ええ、終わりました。ここのお菓子が好きで良く来るんです」
「常連とな?嫌で無かったら一緒にどうじゃ?何が美味いかご教授願おう」
ダイアナが誘ってしまった。先生もゆっくり別腹を楽しみたいと思うのだが。
「良いわよ。アナちゃんはどんなお菓子が好き?」
平城山先生はウェイトレスを返して、そそくさと空いている席に座ってしまった。
ブリジットもいやでは無さそうで、平城山先生の説明を熱心に聞いている。
ダイアナはどっさりフルーツが乗ったタルト、ブリジットはタルトタタン、平城山先生はフルーツたっぷりのプリンアラモードを注文した。
俺はベイクドチーズケーキにする。
「豪勢じゃのう。果物がこんなに。食すのが勿体ないが、一つ。うおー!!!!」
「んー!美味しいー。りんごがシャクって」
「………」
2人は歓声を上げ、先生は目を閉じてうっとりしている。
幸せそうでなによりだ。
ケーキも堪能し店を出ると、ブリジットとダイアナの雰囲気が変わった。
殺気立っている。
「お前は誰だ!僕の京子に馴れ馴れしいぞ!」
え?誰ってお前が誰だよ?
京子?俺が?
「やめてください!」
先生は悲痛な表情で青年に訴える。
「誰?平城山先生の彼氏?」
「「違います!(そうだ!)」」
「どっち?」
「「そうだ!(違います!)」」
これでは埒が明かない。
「蒼よ。奴は刃物を持っておるぞ。気をつけよ!」
すでに青年はサバイバルナイフを構えて俺を見ている。
「わーっ!」
「きゃー!」
「また神無月さんですか。本当にトラブルが好きですね。お祓いでもしたほうが良いですよ。奴は以前から平城山さんに付き纏ってましてね、なんども警告したんですが…これで刑務所行きです」
駐在さんは言う。
彼は平城山京子のストーカーで、付き合った事さえ無かった。
学校行事で彼女と話したことがあるらしいが、先生は覚えていない。
学校から彼女のあとをつけて、ケーキ屋で俺達と一緒に食事をしていたのが気に入らなかったらしい。
確かに好きな女が他の男と仲良くしていたら面白くないのは理解できるが。
2人の話では、すぐに殺気に気がついたが、弱そうに見えたので気を抜いてしまったそうだ。
そこへナイフを構えてからの彼の動きが速く、間合いが短かったこともあって、魔術が間に合わなかったと2人は言う。
2人は謝ってくれたが、俺が刺されていたら2人の運命も変わっていただろう。
俺はただ突進して来る彼を避けただけだが、勢い余って車道に飛び出してしまい、通りすがりの焼き芋屋の車に轢かれた。
気の毒なのは焼き芋屋のおじさんだった。
「ごめんなさい。神無月さんを巻き込んでしまいました」
警察署の床に膝を付いて謝る平城山先生に慌ててしまう。
「単なる偶然ですし、怖い思いをしてたのは先生ですから」
「違うんです。彼がつけて来ているのは知っていたんです」
「とは?」
「神無月さん達がブランシュに入っていくのを見つけて、無理にご一緒したんです。1人でいるのが怖くて」
「「「ああ」」」
平城山先生の言っている意味が解った俺達3人は顔を見合わせた。
「それは許せんのう」
「私の蒼に怪我をさせそうになったんですよ」
「ほんとうにごめんなさい。お詫びは何でもいたします」
こいつ等怒ってないだろ。
「ブランシュで10回じゃな」
「リンデンでもいいかな」
「お前たち。やめなさいって」
「解りました。ブランショとリンデンで合わせて10回。私の支払いで」
「困るよ君たち。ここは警察署だよ。変な取引しないでよ」
駐在さんが笑いながら行ってしまう。
俺が刺されると思った瞬間、すごく恐ろしかったとブリジットは言い。怒りで辺りを吹き飛ばしそうになったとダイアナが言った。
その夜は2人に抱きつかれて寝ることになった。
始業式も終わり、2人は3年生になった。
来年は受験だが、3人はまったく心配していない。
そろそろ夏服が必要になる。水着と共に新調するのだが、1年しか着ないのも勿体ない。
「夏服の採寸に行きたいんだが、2人はいつがいい?」
「「いつでも良いよ(良いのじゃ)」」
「ちょっとまってよ。今日は街が定休日だから明日な」
「「おお」」
商店会の習わしなのか同じ曜日に休む店が多く、チェーン店の一部も習って同じ曜日に休むところもある。
翌日の放課後。
「じゃあね」
「バイバーイ」
「?じゃーねー」
ブリジットは妙な声に立ち止まってしまう。
「どうしたのビディ?」
「学校に忘れ物した。戻るね」
「そう」
「「バイバーイ」」
たった今別れた由奈の家の方から大きな音がしたが、みんなは気がついていない。
一緒に下校していた2人が見えなくなったところで由奈の家に向かう。
(由奈の家ってどこだっけ?)
由奈が別れる露地から先にも何件か家がある。家に入るところは見ていなかった。
(あの家か?)
再び物音が聞こえた。
田舎町の一軒家は大きい。農家だと納屋や作業小屋で敷地も大きくなる。
由奈の家は果樹園を営んでいた。
敷地に入ると縁側のガラス戸から、たった今殴られて頽れる由奈が見えた。
(クソー!面倒くさいな。何人だ?……4人かな。)
ドンッ。
後ろから何か硬いもので殴られた。
(もう1人いたのか。丁度いいから気を失ったフリしよ)
「おい、こっちにも居たぞ!」
「良くやった。引きずり込め」
(えっと…さっきの見張り以外は…外にも居るわね。ここから見えないから先に処分と)
「ウワー」
勝手にドアにロックが掛かり、車が急発進する。
エンジンは始動せず、タイヤが路面を叩く音だけが聞こえた。
「ナンだ?」
そのままワンボックス車が電柱に正面から激突して煙を上げた。
(これで2人、あと5人。2人が2階、2人が奥ね。誰か他に…由奈のお爺さんかな?)
「おいジジイ!金はどこだ?孫が殺されてもいいのか?」
「わしに孫などおらん」
なぜか私がお爺さんのところに引きずられて行った。
お爺さんは縛られて殴られたようで、頬が赤く腫れている。
「誰だ、その娘は?外国人じゃないか。誘拐でもしたのか?」
「ああ?おい!もう1人いただろ」
目を開けて周囲を確認するとお爺さんと目が合った。
ブリジットは微笑んでウインクすると、お爺さんはゆっくり頷いてそっぽ向いた。
(話が解るお爺さんね。次は2階の2人と)
「「ギャーッ」」
ドサドサッ。
2人の賊が悲鳴と共に目の前を落ちて行った。
庭で倒れて動かない。
「誰か2階に居るぞ!」
由奈を引きずっていた男と見張り役が2階に飛んでいった。
(1階はこいつ1人になった。でも恐怖を植え付けないとね)
「ギャーッ」
ドサッ。
また1人落ちてきた。
「なんなんだ?何やってる?」
(残り2人)
ダッダッダッダ。
2階に行った見張りが戻って来たが、誰も居なかったと言う。
そんなはずが無いとリーダーらしい3人が気絶している庭を指差す。
「何ですか?」
「だから…?」
リーダーらしき男の身体が震えている。倒れているはずの3人が居ない。
「あいつ等逃げやがったな。殺してやる。おい!俺達も逃げるぞ」
走り去る2人を確認してから、ブリジットは由奈の容態を確認した。
ちょっと嫌な感じの怪我だ。
お爺さんの縄を解いて、救急車を呼んでもらった。
キキーッ、ドーン。
外でものすごい音がした。
ブリジットは由奈の手当をするフリをして治癒魔術を使う。
やはり威力が思ったほど出なかった。
魔力が全快になっていない。
やがて複数のサイレンが聞こえて、そのうちのいくつかが由奈の家に入ってくる。救急車とパトロールカーだった。
ワンボックス車の2人は意識不明の重症。
2階から転落した3人のうち1名が意識不明。1名が背骨を折り、1名が骨盤を複雑骨折。
最後に逃走した2人は、車道に飛び出してトラックに跳ねられた。
(アナ、緊急なんだけど)
由奈の容態が芳しくない。アナの力を借りるつもりで念話を送った。
(なんじゃ。手が放せんぞ)
(どうしても助けて欲しいの)
(こっちは賊に襲わて交戦中じゃ)
(そっちも?こっちは由奈が殴られて危ないの)
(仕方無いのう。ちぃと待て)
ドッカーン。カーン。
念話の先と自分の耳で時間差の爆音がした。
(この子か?もう大丈夫じゃぞ)
マルグリットが由奈をもう一度診断すると、危機を脱していた。
(良くやったなビディよ)
ダイアナもまた下校中にクラスメイトの家で、仕事中の賊を見つけて戦っていた。
同じ家から通う2人だ。同じ方向に下校するのだから近い子と一緒になる。事件現場は500メートルも離れていなかった。
ダイアナは1人で賊を追い詰めて、これからゆっくり料理してやろうと考えていた。
そこへブリジットの緊急連絡が入った。
ダイアナ側は怪我人もなくクラスメイトは逃したので目撃者も居ない。
面倒になったダイアナは、賊の立て籠もった倉庫に雷を落とした。
ここまでお付き合いありがとうございます。
ブリジットとダイアナの無双ぶりがエスカレートしています。
次回もあまり感覚を空けずに行きたいと思います。




