4話『DAY1』
観光みたいですねって戯けている聖女。
それを黙って見ている俺がいた。
水の街エレザード。
聖女と共にやって来た。
貧困街育ちであるからか、街並みの輝かしさや、水質の綺麗な生活水に満たされていて、とても眩しい。
生活の格差は、こんな些細な平穏の積み重ねなのだろう。
当たり前だと……人は言う。
その当たり前を知らずに生きていた俺は、やはり傭兵になる素質があったらしい。
少し感情に浸るも、聖女が俺の心を土足で踏み荒らすのである。
「楽しくありませんか?」
「楽しむ為に来た訳じゃないぞ」
「じゃあ、何しに来たんですか!」
「……護衛と討伐だ」
聖女様は、本来の目的を浮かれていて忘れているらしい。
貴族であるならば、物珍しい街ではないがな……。
一体、彼女のどんな好奇心を刺激しているのだろう。
少しだけ興味が湧いた。
今日するべき内容は、現地での宿探しと、地下水道の軽い点検らしい。
黙って着いて行くしかない。
敵は魔獣だけとは、限らないからな。
通りすがりの男、売店の商人、音楽を奏でる女。
全てが敵になる可能性も考慮して、聖女に眼を配った。
「目が怖いですよ傭兵さん」
「……生まれつきだ」
「そんなんじゃ、誰も近寄ってくれませんよ?」
「いま近寄られると迷惑だ。ていうか、近づくな」
「へへぇん。年頃の女の子にビビってるんですかぁ?」
「……依頼、受けなきゃ良かったな」
心からの言葉だった。
貴族の……ましては、聖女のお守りは、こんなにも大変だったのか。
機嫌の取り方も知らない。
エスコートなんてもってのほか。
少しイラつくんだけど、不思議と嫌な気はしていない。
この感情は、なんだろうか。
もしかしたら俺は、聖女に浄化されるべき、魔獣ような扱いを受けているのかもしれない。
変な魔力に吸い込まれてしまいそうだ。
調子が狂う。
「──お腹空きません?」
聖女様は、お食事をご所望だった。
弄ばれている内に、昼の時間が回っていたようだ。
もちろん、俺はいつだって空腹だ。
この女……それを分かっていて、わざわざ言ってきやがったんだ。
腹が減ったと言われれば、食堂に行くしかあるまい。
文無しだから、何も買えないから傭兵らしくしておこう。
「良い食事処でも知ってるのか?」
「それがですね……エレザードには始めて来たから知らないんですよ。おすすめはあります?」
「……知ってる訳ないだろ、聖女様」
そんなお店があるのなら是非とも行ってみたいね。
もちろん、プライベートでだ。
聖女はちゃんと、本来の目的を覚えているのだろうか。
これでは、ただの観光客ではないか。
この先もずっと振り回されると思うと、とてもじゃないが精神が持たないな……。
軽口を叩きたい気分をグッと堪えた。
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