3話『RE;START ②』
何度言われても答えは同じ。
貴族の傭兵なぞ、やってられるか。
そう言ってやりたい。
この聖女は、何度断られても、また俺に会いにくるんだろうと考えると、胃が痛くなって仕方がない。
こうなったら、依頼を受けてしまおうか。
いざとなったら金を踏んだくってしまえばいい。
所詮は、貴族のお遊びの依頼だ。
軽く捻って依頼を終わらせれば、俺にも寄り付かなくなるだろうし、関係を断つには充分だ。
さっさと決断してしまおう。
それがきっと俺の為になる。
「あぁ、いいぞ。傭兵になってやる」
「本当……ですか!?」
「なんだ、不服か?」
「いや、そうじゃないんです。嬉しくって……」
嬉し泣きなのか。
ただ、気が緩んだだけなのか。
その涙の理由が分からなかった。
俺も随分と涙を流す行為などしていない。
傭兵ゆえに、感情を失った機械も同然だ。
俺は聖女のことが尚更、分からなくなってしまった。
「さっさと依頼内容を話せ」
「ご依頼は……地下水道の浄化です」
「ほぅ……聖女らしいな。護衛をしろと?」
「そうです。どうやら、強い魔獣が地下水道に侵入したと報告を受けています」
「……容易い依頼だな。金はちゃんとあるんだろうな?」
「もちろん、たんまり用意してますよ」
目が眩むほどの大金だった。
たかが、魔獣一匹殺せば十年は遊んで暮らせる金額だ。
喉から手が出るほど欲しい。
前言撤回だ。
やはり、金が正義だ。
これならば、頭の少し弱い聖女様のお守りなんていくらだって出来る自身があるぞ。
甘い誘惑にまんまと、引き寄せられてしまった。
「で、場所はどこだよ」
「隣町のエレザードです」
「んっ……あそこは魔獣も出ない平和な街だろ?」
「そうなんです。最近、治安が悪くなっているみたいなんですが……不思議ですよね」
「水の綺麗な街だったよな……。なんで魔獣が……」
「私は聖女ですから、その謎の究明もしなくてはなりません」
「一筋縄じゃいかないって訳か」
「依頼の概要はこんなところです。やっぱり辞めたは無しですよ?」
「おい……誰に言ってるだ?」
「そうでしたね。あなたは腕の立つ傭兵さんですものね」
街の様子が何だか不気味らしい。
何かの陰謀が働いているのかもしれない。
だけど、俺には関係がない。
俺の仕事は魔獣を殺すだけ。
無駄なことは、一切しない。
後のことは、聖女がどうにかするんだろう。
──依頼の遂行。
ただ、それだけを考えていれば良い。
「これからよろしくお願いしますね。お名前は……何と呼んだらいいですか?」
「貧民街の住民にイチイチ名前なんかあるかよ。そうだな……傭兵とでも呼んでおけ」
「では、傭兵さん。今後もよろしくお願いしますね!」
照れ臭そうに、聖女様は俺に笑いかける。
何がそんなに嬉しいんだ。
こっちは、何一つ嬉しくない。
なんだか、少し悪くはない気分になった。
名前を聞かれるのはいつ振りだったか。
人としての当たり前を突きつけられている気分になった。
依頼を引き受け、明日には、エルザードに向かう約束を聖女様と交わした。
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