18話【2章】『DAY1 ④』
とても幸せな時間だった。
王都の街を歩くだけで心が踊る。
聖女は嫌がっていないだろうか。
様子を確認するも、聖女は眼を合わせてはくれない。
下を向き、照れくさそうに、顔を赤くしていた。
そのくせ、指を絡めた手を離さないでいる。
俺は心底、アリシアが愛おしいと思ったんだ。
街に繰り出し、当初の目的でもある、革職人の店に行こうとしていた。
「──ちょっと待てぃ!」
ふざけたおっさんの声に呼び止められた。
誰だよ、俺は今聖女とかけがえのない時間を過ごしているというのに、無粋な邪魔をする輩は……。
振り返って確認した。
よーく、姿を確認する。
なんか、太ったおっさんだった。
贅肉にまみれ、清潔感があるとは言えない風貌。
服装だけは立派で、高級そうな装飾をいくつも身につけていた。
なんだよこいつ、無視した方が俺たちのためか……。
聖女もこれといって、反応はない。
ただの間違いで片付けることにした。
変なやつの相手をするとキリがない。
「──待てと言っているだろうがクソ聖女!」
その言葉に心底、破滅的な怒りが込み上げた。
──俺の大事な女にクソ聖女だと!?
──許せん、ブッ殺してやる!!
仕方がないから振り向いて、面と向かうことにした。
そっちから喧嘩を売って気やがったんだ。
──覚悟は……出来てるんだろうな?
「貴様らァァァァ、ワシを愚弄するか!?」
「……なんだ、お前?」
「ワシは、そのクソ聖女の元婚約者だぞ!?」
「──なっ!?──」
知らなくてよい事実を知ってしまった。
──元婚約者!?
──このキモいデブが!?
いくら聖女でもそりゃ無いだろ。
アリシアに釣り合うわけがない。
まぁ、傭兵の俺が言うことでも無いのだが。
おっさんに聞かれぬよう、聖女に耳打ちで話す。
「……おい、あれ誰なんだ?」
「私だって知りたいですよ、なんですかあれ!」
「明らかに知り合いだぞ?」
「ストーカー……ですかね?」
「……あれを新種の魔獣と認定する」
「ちょっと待ってください傭兵さん。行動が早すぎますって!!」
記憶喪失の弊害か、聖女は相手のことなど、微塵も分からないらしい。
このままじゃ、埒が明かないぞ。
明らかに敵意を剥き出しにしているし、切羽詰まっている慌てようだ。
大丈夫なのか、このおっさんは……。
「ワシの城に帰ってこいクソ聖女。脳みそがイカれてるお前にも使い道が出来たのだ!」
「あなた……何を言ってるんですか!」
「無理矢理にでも、貴様の身体を犯してボロ雑巾のように捨ててやる!」
「……相当なバカですね。誰が行くもんですか!」
「言うことを聞かないのなら、強制結婚のうえに処女を奪わせて貰うだけだ!」
──もう駄目だ。
──この男は、一線を超えやがった。
俺は、アリシアの傭兵だ。
どんな敵でも、聖女を守らなきゃならん。
こんな品の無いゲス野郎に聖女の身柄なんて預けられない。
まずは、彼女の安全が先だ。
何をしでかすか……たまったものじゃないからな。
「下がっていろ、アリシア」
「傭兵さん……」
言いたいことは、山ほどある。
ここまで、聖女を散々バカにして、怖がらせた代償は払って貰わないとな。
ただ殺すだけでは、心底生温い。
絶望的な苦痛を浴びて、聖女に詫びさせながら、生きて生まれたことを後悔させてやる。
「──おい、じじい。どうやって死にたい?」
殺意だけを込めて、威圧する眼光で喰らい付いた。
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