15話【2章】『DAY1』
──どうして泣いているのと聖女が言った。
──嬉しいから泣いているんだと俺は言い張った。
涙なんて恥ずかしいものを聖女に見せてしまった。
涙の別れなんて寂しいだろう。
気を持ち直した。
ここは、ちゃんと笑っているべきだ。
聖女は俺のことを忘れてしまって、出会った頃と何一つ変わらない状態なんだ。
俺がしっかりしていないでどうする。
ゆっくりでいい。
今は、聖女が喋りだすのをグッと待っていれば良いだけだ。
「──そうだった!」
聖女はおもむろに、手持ちのカバンから、手帳を取り出していた。
分厚くなったページを一枚一枚、丁寧に捲り、熟読する。
記憶が無くなるから、メモでも残しているのだろうか。
やるべきことを、手帳頼りにおさらいでもしているのだろう。
満足気に聖女は手帳を閉じる。
どうやら、彼女の方針は決まったようだ。
「──ご依頼がありますの」
出会いと思い出を忘れ、聖女は再び依頼をご所望にあられた。
なんの因果なんだろうな。
もう二度と、頼られないと思っていた。
街の浄化も終わっているし、これ以上、どんな仕事が残っているやら……。
「……俺は傭兵だ。どんな仕事でも引き受けよう」
「話しが早くて助かります!」
「……どんな仕事をするんだ?」
「私は……王都へ行かなければならないんです」
「……王都か」
聖女が追放されたのが王都だったような……。
まぁ、気のせいだろう。
──それにしても、なぜ王都へ?
やり残したことでもあるのだろうか。
それか、これも聖女としての務めなんだろうか。
「手帳がもう残り少ないので、革職人に制作を依頼しているんですよー」
「──はっ!?──」
待ったく、関係などなかった。
それにしてもなんで革職人なんだ。
手帳とは、到底かけ離れていると思うがな。
聖女の行動が全く読めなかった。
「私の手帳は革製なんです」
「……そうか」
「これが手に馴染んでまして、この手帳でなければしっくりこないんですよ」
「……聖女の仕事は?」
「あれ、私が聖女だっていつ言いましたっけ?」
「……気にするな」
ただの買い物の付き添いだった。
今回は、魔獣と戦闘をさせられることはないらしい。
少しだけ、胸を撫で下ろした。
そうだと、しても油断ならないことがある。
問題は、行き先が王都だってことだ。
行くのは構わないが……。
──聖女よ、本当に大丈夫か?
「傭兵さん、あなたのお名前は?」
「……名前なんてない。傭兵と呼べ」
「では、傭兵さん。依頼は成立ね!」
また言ってくれるのか『傭兵さん』と──。
俺の心の高揚を聖女に悟らせたくなかった。
お読みいただき、ありがとうございました!
第2章始まりました。
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