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記憶が2日で消えてしまう聖女様の傭兵は忘れられた数だけ愛の告白をすると誓った。【1章完結】  作者: 久方久米


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12話『DAY2 ④』


 どうして離れてくれないんだよ、とはちょっと言いづらかった。


 聖女もそれを望んでいないことを知っているから。


 聖女が喋り出すまで、待ってやることにした。


 喋り出すのには、時間がかかったけど、喋り出してからは止まらない。


 俺もそれに応えることにした。


 「この2日間、本当に楽しかったですよ」


 「……そうだな」


 「傭兵さんってもしかして最強の人だったんですか?」


 「……俺はただの傭兵だ」


 「まぁ、いいですよ。笑っちゃうぐらい強かったですもの。この出会いも、出来事も、全部私の宝物です」


 「……俺も、少しは楽しかった」


 柄にも無いことを言ってしまった。


 この場の空気が、そうさせているのかもしれない。


 「冗談も言い合ったし、握る手はとても優しくて温かい。戦闘中はハラハラしてちょっと怖かったけど……」


 「悪かったな、あれが限界なんだよ」


 「だけど……傭兵さんが一番輝いていて、とても……かっこよかったです」


 「……そうか」


 「なので、頑張った傭兵さんにはご褒美があります!」


 「──ご褒美……だと!?」


 また嫌な予感だ。


 聖女の悪ふざけが始まろうとしている。


 次は何をしてくるのだろう。


 期待している自分がいる。


 「傭兵さん、もっと顔を近づけて」


 「……こうか?」


 聖女と眼を合わせている。


 なんだか、こっちが恥ずかしい。


 聖女は、恥ずかしくないのかと疑問にも思った。


 心臓が強い鼓動を打ち、頭に血が昇ったように、酷く熱かった。


 「……ご褒美です」


 「──んぐっ!?──」


 聖女が唇を重ねてきた。


 頭の回転が悪いせいか、この行為に対して、正しく理解するのが遅くなったしまった。


 男女で唇を重ねる行動を世間一般的には『キス』と呼ぶ。


 そのキスを聖女様が、やりやがった。


 今回だけは、冗談なんかじゃ収まりきらない。


 どうしてしまったんだ聖女様は……。


 「どう……だったかしら。私……初めてだったから」


 「……どうしてこんなことをしたんだ」


 「私を忘れて欲しくなかったのよ」


 「忘れる?なんの話しだ?」


 「いいのよ、こっちの話しだから」


 「だからってだなぁ……」


 「まだ足りない?もう一回キスしとく?」


 「冗談言ってる場合か!」


 「冗談じゃないのよ。私は本気で傭兵さんと向き合っているつもりだから」     


 もう一度、キスをされた。


 今度は長く、それでいて痺れるようなキスだった。


 時間を忘れるような、二人だけのこの場所で、聖女の感情の爆発を受け止めていた。


 「もうお終いです」


 キスの終わりを聖女が告げた。


 「私と過ごした時間、思い出、その全てを傭兵さんだけは忘れないでね」


 俺は何も言えなかった。


 喉が枯れるぐらい、叫びたい何かがある。


 ただし、そんなことは俺の口から告げることなんか出来やしない。


 ハッキリと分かった。


 この感情は、きっとそうなのだ。


 分かっているが、分からないフリをしている。


 言葉に出来ない聖女への感情を無かったことにはしたくない。


 だけどもし、身分も、立場も、そんなものを度外視して気持ちに素直になれるのなら……。


 それはきっと、幸せならことなんだろう。


 「……忘れたくても忘れられねぇよ」


 感情を押し殺して、聖女への想いに蓋(ふた)をした。


 「……まだ降りないつもりか?」


 「まだ……もうちょっとだけ」


 「聖女の仕事に支障が出るだろ?」


 「別にこのまま出来ますよ」


 「俺まで浄化するつもりか?」


 「傭兵さんには効かないでしょ。それに……多分このままの方が都合が良いはずですよ?」


 「……そうなのか」


 聖女が言うのだから、きっとそうなのであろう。


 黙って指示に従うことにした。


 「──浄化を始めましょう」


 聖女は眼を瞑り、詠唱を始める。


 その瞬間、神聖な光に包まれたのである。


 ──神の心は邪を祓う。


 ──人の心は悪を討つ。


 ──汝、世の理にあらず者。


 ──我は神の代行者。


 ──闇に惑し陰の者よ、神の威光にさらされて、全てを正へと導かん。


 ──第1節『ホーリーライト』


 聖女の詠唱が終わった。


 その刹那、網膜が焼けるほどの輝かしい光の衝撃波のようなものが地下下水道を走りだした。


 同然、攻撃魔法ではないし、人体にはこれと言って被害もない。


 光が落ち着くと、下水の水質は、劇的に変化していた。


 あれだけの汚染だったんだ。


 毒や強酸は垂れ流し、ゴブリンの汚物だってあった。


 この街中の地下にある広い範囲、恐らくは、街全体であっただろう。


 その規模を一人で聖女は浄化したんだ。


 「すごいじゃないか。これほどの──」


 話しかけようとしたが、俺は言葉を呑んだ。


 聖女が激しく苦しんでいたからだ。


 状況が飲み込めないが、只事でないことぐらい、魔法に疎い俺でも容易に想像はついた。


 「──あた……頭が……」


 「おい、しっかりしろ!」


 頭を抱えて悶えている様は、とても見ていられない。


 ──どうにかしなければ。


 どう対処したら良いかなんて知らん。


 俺に出来ることは、聖女を丁重に抱えて、全力で地下下水道を駆け抜け、地上に上がることだけだった。


 

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