07_熱心なアプローチについて(…もちろん、お断りですが)
メイジーはロインズとのやりとりのあと、ガゼボを逃げるように去った。
「どうして破談に応じてくれないのよ……っ、嫌だって言ったのに」
「あの男、恋愛は追われるより追いたい性なんじゃないのか?」
「わあっ、びっくりした……」
メイジーの呟きに、ぬいぐるみに扮していたセランが急に返事をするので、驚いて肩を跳ねさせる。
「今更興味を持たれたって困るわ。ロインズ様とやり直す気なんてないもの」
「二度目は案外うまくいくかもしれないぞ」
「それはありえない」
セランの言葉をにべもなく斬り捨ててから、両手で彼のふわふわした体を持ち上げる。
「ロインズ様は必ずレディシカを好きになる。ふたりは――運命なの。もう振り回されたくない」
「…………」
歩いて行ったのは屋敷ではなく、世界樹の管理施設だった。
背の高い鉄の柵にぐるりと覆われていて、近づくことはできない。
「私が燃やした世界樹も、元に戻ってる」
「完全に元通りってわけじゃない。もうあの木に俺は封印されていないからな。三百年……長かった」
「セラン……」
「お前のこと、婚約者との縁談の話が出る前に戻してやれなくて悪かったな」
「ううん。むしろもう一度チャンスをくれて感謝しかない」
仮にもっと前に戻っていたとしても、メルシエ聖公爵家から縁談の話が来れば、両親はどんな形でも快諾しようとしたはずだ。
政略結婚は家督を守るための手段であり、娘がその駒となるのは、この国では普通のことだから。
するとそのとき、セランの体を青い光が包み込み、彼は人間の姿に戻った。世界樹の魔力がこの辺りに漂っている影響だろう、と彼は説明する。
前回見かけたこの姿の彼は、牢屋の暗い中だったのではっきり見えなかったが、青空の下で見る彼は、美しさが際立っていてますますかっこいい。
セランは背を丸め、こちらの顔を覗き込む。
「で、これからどうすんだ?」
「それは……婚約解消されるまで、大人しくいい子に過ごすしかないでしょ。セランはどうするの?」
「俺にはやることがある」
そう言って、世界樹の方をちらりと見る彼。
「それが……世界樹の浄化?」
「ああ」
「…………」
小説の中で、大妖精セランはとても悲しいキャラクターだった。
ヒロインのレディシカを愛してしまい忠義を尽くしていたが、世界樹の邪霊は暴走。
レディシカとロインズが必死に抵抗するが、ふたりではとても抑えきれず、セランは自分の生命力を削って、魔力に変換し、彼らを守って命を落とした。
(世界樹を浄化したレディシカは、聖女の称号とたくさんの勲章を与えられた。でも、セランが可哀そうで小説を読んだときは泣いたっけな)
今や、セランは小説の中の登場人物ではなく、メイジーの人生を変えてくれた恩人だ。
放っておくことはできないし、彼のためにできることがあるならしたい。
「セラン、私と――契約して。世界樹の浄化をするために」
メイジーは物語の悪役にふさわしい、稀な魔法の才能がある。それは、ヒロインレディシカを遥かに上回る力だ。
魔力の塊である世界樹を浄化するなんて、並大抵の魔法使いにはできないのだ。しかし、メイジーならば可能かもしれない。
すると、セランはその場に跪いた。
「世界樹を燃やすようなとんでもない女と契約? だが、悪くない、面白そうだ」
彼はメイジーの右手を取り、ちゅと唇を押し当てた。すると右手の甲に、水色の契約印が浮かび上がる。
「あんたに力を貸してやるよ。あんたがどうやって幸せを掴むのか、見てみたくなった。もちろん、世界樹の浄化は協力してもらうぞ」
「分かってるわ」
本来、セランが契約を結ぶのはメイジーではなくレディシカだった。しかし、彼女は一度目の人生で、メイジーから婚約者を奪い、メイジーの心を切り裂いた。
ロインズも同じだ。家の問題を解決するためだけに、メイジーに情熱的に迫って、恋心を利用し、好きな人ができたら、あっさりメイジーを捨てた。
大切な人に、信頼していた人に裏切られて、どれだけ悲しかったか分からない。
(死ぬ予定の大妖精を救って、聖女の称号をもらったって罰は当たらないわよね)
それでメイジーの傷が言えるわけではないだろうが、慰謝料代わりということにしよう。
そしてメイジーは、大妖精セランの契約者となったのだった。




