24_魔物討伐と転落
一方そのころ、メイジーは魔塔研修の一環として、魔物討伐に同行していた。屋根のない移動馬車で人の姿をしたセランが、「手を出せ」と言うので、メイジーは素直に従う。
「何?」
「それ、持っとけ」
渡されたのは、魔法少女の変身アイテムのような、キラキラしたハートの飾りがかわいい腕輪だった。
「真ん中のハートを押すと、俺の魔力を供給できる」
このハート型の魔道具は魔法石でできているらしく、セランはこの中にエネルギー体として入ることが可能だと説明した。
つまり、今まではぬいぐるみの姿か青年の姿でメイジーと一緒にいたが、このアイテムだけで契約魔法の有効範囲にいられるということだ。
カチ、とハート型のボタン押すと、セランは光の塊となって、腕輪に吸い込まれていく。この魔法石への出入りは、スイッチの他にセランの意思でも自由に行えるらしい。
「こんな便利なアイテムがあるなら、もっと早く言ってくれたらいいのに」
「この魔法石は貴重だし、魔道具を作る技術者が少ないんだ。手に入れるのに苦労したんだぞ」
「ふうん」
メイジーは「ありがとう」とお礼を言って、腕輪を付けた。
それから、魔物が出没したという森に到着する。
「報告では、食虫植物とトカゲのような爬虫類型の上級魔物が出没するらしい。今日の僕たちの役目は、魔術師団が上級魔物を倒す補助をすること。いいね?」
「はい」
魔術師たちと一緒に歩くメイジーに、ギースが言う。
本来、魔物討伐は各地の魔術師団と騎士団が合同で行う。
魔塔で働く魔術師は研究が専門で、どんなに優秀でも戦闘に参加しない。しかし、例外的に、希望者は定期的に研修に参加し、魔物討伐に協力することがある。
「緊張してる?」
「初めての魔物討伐なので」
「はは、リラックスリラックス。後ろから援助魔法をかけてるだけでいいから」
世界樹の邪霊が解き放たれれば、オスニエル王国は大混乱に陥る。
魔術師団も機能しきらず、大量の魔物が街で暴れて甚大な被害をもたらすのだ。
すると、ギースがどこか険しい表情を浮かべる。
「それにしても、ここ最近は以前に増して魔物の活動が活発化している。邪霊の影響かな」
「恐らく」
メイジーは小さく頷き、枯葉が絨毯のように広がる土を踏みしめ、前に進んだ。
「あそこだ」
騎士の誰かがそう呟いた先に、廃墟が佇んでおり、そこに大型の爬虫類のような魔物が三体、姿を現した。
爬虫類型の上級魔物の周りに、食虫植物がうごめいていて、近づくことができない。
食虫植物も魔物の一種で、中級ランクに位置付けられる。
粘液をまとっていて棘があり、所々に口があって、鋭い牙が生えていた。
「――炎よ」
「――氷よ」
魔術師たちが魔法で食虫植物の蔦を退けようとするが、切ってちぎって燃やしても、すぐに再生して伸びてくる。
わずかにできた隙間から騎士が奥に進み、トカゲの上級魔物と戦うが、食虫植物のせいで動きづらそうだ。
「これじゃ、キリがないな」
ふとギースがこぼした言葉に、メイジーが共感する。それと同時に、今の自分の実力を試してみたくなった。
「私にも協力させてください」
そう言って左手をかざし、複数の呪文を唱え始めると、仰々しい魔方陣が空中に無数に浮かび上がり、そこから氷の塊が現れ、食虫植物と上級魔物を一斉に貫いていく。氷が触れた部分が一瞬で凍っていった。
(食虫植物に再生する性質があるなら、再生する隙を与えなければいいだけ)
今度は右手をかざして、火魔法の呪文を唱える。すると今度は頭上に赤みを帯びた魔法陣が現れ、炎が食虫植物をしゅうう……と焼き尽くしていく。
「なんだあれ……本当に学生のレベルか?」
「魔力量も技術も相当のものだ」
メイジーの攻撃に、騎士も魔術師も一瞬気を取られる。
氷と火のふたつの属性を組み合わせた魔法で、食虫植物は跡形もなく消えた。そして、上級魔物の三体も動きが鈍っている。
「今です!」
メイジーの声が辺りに響き、このチャンスを逃すまいと、騎士たちが一斉攻撃を仕掛ける。
また、自分は援護に徹すると言っていたギースだったが、「メイジーちゃんに負けてられないね」と軽く笑いながら、うちの一体を氷の槍で貫いて倒してしまった。
無事に三体の魔物を倒し終わると、安心した空気が流れる。
(終わったのね)
「よかった」
安堵して小さく息を吐いた直後、魔物に向けられていた注目が、メイジーに向けられる。そして、あちこちで賞賛の声が上がった。
「今の魔法は一体なんですか……!?」
「これほどの威力は見たことがありません」
予想以上の反応に、メイジーを思わず目を瞬かせる。
「いえ、そんな……」
謙遜して一歩後に後退したとき、何かが足に絡みついてよろめく。
足元を見ると、食虫植物の蔦だった。まさかまだ、残っていたとは思わなかった。全身の血が引いていくのを感じた瞬間、足を引っ張られる。
「メイジーちゃん危ない! そっちは……」
近くにいたギースがこちらに手を伸ばし、メイジーも咄嗟に手を伸ばしたものの、掴み損ねてしまう。
ふわりと身体が傾き、宙に浮く。メイジーたちの後ろは崖になっていたのだ。嫌な浮遊感を感じたあと、メイジーは崖の下に落ちていった。
「きゃあぁぁぁっ……」
メイジーは悲鳴を上げ、落下しながら思案を巡らせた。
(どうしよう、どうしよう。結界魔法? 風魔法? それとも植物魔法? こんなときどうしたら)
すっかり動揺してしまい、魔法を使う余裕がない。
せっかく掴んだやり直しの人生も、こんなにあっけない形で終わってしまうのだろうか。
怖くなって、ぎゅっと瞼を閉じたとき、腕輪の装飾がピカッと光り、上から声が降ってきた。
「ったく。俺の主は世話が焼けるな」
「……! セラン……!」
セランはメイジーの腕を掴んでぐいっと引き寄せ、そのままメイジーを包み込むように抱き締めた。そして、耳元で囁く。
「しっかり掴まっていろ」




