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雨が降っていた。


体がずぶずぶと音を立てている。

細胞という細胞、全てが水分を膨み、膨張していく。

だがそれは、いずれ破裂を迎えるような緊張感ではない。

重い。

絶え間なく振り続ける雨の中で、止まることなく膨らみ続ける。

重い、重い、重い。

なぜこんなにも重いのだろう。


飽和状態。

水分によって埋め尽くされた醜いイレモノ。


・・・ああ、そうか。

失くしてしまったからだ。


ワタシを満たしていた大切なもの。

ワタシの全て。

ワタシの・・・ワタシの・・・。


失くしてしまったんだ。

ああ・・・・。


体が崩れ落ちる。

膨張が頂点に達したのだろうか。

ただぐずぐずと崩れ落ちる。

このまま地表に吸い込まれ、消えてなくなるのだろうか。

それでもいい。

いや、それがいい。

ワタシは失くしてしまったのだ。

ならばこのままワタシ自身もなくなってしまいたい。


雨は変わらず振り続けている。

崩れ落ち横たわる体。

力なく開かれた口の中に泥が入る。

濡れた髪が見開かれたままの目を覆い隠すように張り付く。

思考が薄れていく。

ザーザーと耳に響く音が、雨なのか耳鳴りなのかさえわからない。

ぴくりとも動かず、雨に打たれ泥にまみれている。

ただわかるのは失くしてしまったと言う事実だけ。

どんなに水分を含み膨張しても、もう二度と埋まることはない。


ぴちゃり・・・


音がした。

わからない。

したような気がした。

でもわからない。

どうでもいい。

関係ない。

したのかもしれない。

さっきからしていたのかもしれない。

でもワタシにはどうでもいいことだ。


ぴちゃり・・・


どうでもいい。


ぴちゃり、ぴちゃり、ぴちゃり・・・


消えてなくなるのだ。

ワタシはこのままなくなるのだ。

失くしてしまったのだから居ないも同然なのだ。

ワタシはもう・・・


ぴちゃん。


「おい。起きろ。」


ガツンと言う音とともに背中に痛みがはしる。

蹴られた事実よりも、まだ痛みを覚えるこの体に驚きを感じる。


「無視してんじゃねぇーよ。起きろ。」


無理矢理に体を引き起こされる。

だが何も見えない。見えているが認識できない。

ただぐらぐらと揺れている。


「ったく、めんどくせーな。いいか?よく聞けよ。俺がお前にチャンスをやる。」


背中が痛い。

それだけが鮮明で後の感覚はぐちゃぐちゃと混ざり合って鈍くなっている。

再び崩れ落ちそうになるのだが、体を引き起こした何者かがそれを許さない。


「おい、わかってんのか?チャンスだよ。お前が失くしたものを取り戻すチャンスだ。だから起きろ。」


失くしたものを取り戻す・・・?

ぐらりと顔を動かす。

取り戻せる?

ワタシの・・・ワタシの・・・・。


雨の音。

目を覆っていた髪。

口の中のじゃりじゃりとした苦味。

雨に濡れた衣服が体に張り付いている。

背中の痛み。

肩に喰いこむ何者かの手。


自らの意思で相手の姿を捉える。


闇。

闇だ。


「取り戻したいんだろ?」


闇の中に三日月の瞳。

ワタシを覗きこみ、わずかに歪む。


「俺はチャンスをやる。お前がそれをモノに出来れば取り戻せる。」

「・・・」

「欲しいだろ?チャンス。ただし・・・タダじゃぁやれねぇ。一つ条件がある。なぁに、そんなに難しいことじゃない。今から俺がする質問に答えりゃいいだけだ。その答えが俺を満足させたら、お前にチャンスをやるよ。どうだ?理解したか?」


理解した。頷く。

いや、頷いたつもりだが、思った方向に頭が動かない。

声を出そうとするが、喉が裂けているらしくヒューヒューと音がするだけで声が出ない。

それでも闇は私が理解していることを理解したようだ。


「よし。ならば俺の質問に答えろ。」


肩を掴んでいた手に力が入り、わずかに引き寄せられる。

耳元に唇をよせ、今までの口調とは違う静けさで囁く。

ああ・・・そうか。

そういうことか。

ワタシはその質問の意味に絶望する。

だが答えは一つ。


「だからなに?あんたバカ?」


裂けたはずの喉から声が出た。


ぱりん。


その瞬間、何かがはじけた。

再び薄れ行く意識。

だがさっきまでとは違う・・・柔らかな感触。


「眠れ。目覚めるために…今はその目を閉じろ。」


雨の音がゆるやかに響く。

その響きの中で、くすり、と笑い声がした。

笑っている。

閉じていく視界の中に映される。

何者かの笑顔。

それは思いのほか暖かくやさしいものだった。


「安心しな。あんたには俺が居る。」


そして…私は意識を失った。




to be continued

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