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心配だったら、何を言ってもいいんですか?  作者: あずきまんま


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第7話_明日の約束

 次の打ち合わせで、テシアはあのときの少女へ謝った。

 昼と夜は違うと言ったとき、見下すように聞こえたかもしれない。そう伝えると、少女は少し口を尖らせ、私もちゃんと見ていなかった、と答えた。

 仲良くなったわけではない。それでも、彼女は夜の確認に一度来てくれた。

 段差の前で足を止め、小さい灯りでもあると違うのね、と言った。

 テシアは嬉しくなったが、前に言ったとおりでしょう、とは言わなかった。一緒に見てくれてありがとうと答え、図面を開いた。


 追加の灯りは、オルヴェが主に組んだ。

 テシアは噴水の回路を完成させ、彼の作った四つを確かめた。線の一本が逆に留められていて、指摘すると彼は頭を抱えた。


「そこ、三回見たのに」


 テシアは工具を渡した。


「同じところを見てると、見えなくなるときあるよ」


 自分も実習書を読み落とした、と話すと、オルヴェは笑いながら留め直した。失敗した顔を見せられて、彼が遠い人ではなくなっていく。

 昼休みに誰かと笑っているのを見ると、まだ少し胸が疼いた。ただ、その輪の中へ自分も入らなければ彼を失う、とまでは思わなくなった。


 祝祭の十日前、母からまた手紙が届いた。

 夏休みにはお茶会を二つ予定しているという。父も、卒業後の話をしたいと思っているらしい。

 テシアは便箋を置き、教師にもらった工房見学の案内を取り出した。

 学園に来てから、作る仕事を続けたいと思っていた。けれど家へ帰ると、その話はいつも、人付き合いを先に覚えなさい、で終わる。

 今回は、何を希望するのか書こうと思った。


 夏休みに王都の灯器工房を見学したいです。卒業後、灯りの回路を作る仕事に就くことを考えています。


 そこまで書いて、ペンを止めた。

 決まっていないのに書いていいのか。父に反対されたらどうするのか。工房が合わなかったら、この手紙だけが残るのではないか。

 テシアは案内の裏を見た。見学は仕事を知るためのものだ。先にすべて決めなくてもいい。


 まだ就職先は決まっていません。見学して、必要な勉強を聞きたいです。お茶会は二つとも出ると今は約束できません。一つずつ、日程と人数を教えてください。


 最後の一行を書くには時間がかかった。

 母が読む顔を思い浮かべ、謝る文を足しかけてやめた。日程を知りたいのは、怠けるためではない。

 翌朝、手紙を出してから、食堂でオルヴェに話した。


「俺も、父さんに話した。手紙じゃなくて、昨日、町の店で」


 彼はパンを置き、苦い顔をした。

 父は、店が嫌になったのかと聞いた。嫌いではないが、ほかの仕事も知りたいと答えたところ、兄から帰省のときに詳しく話せと言われたという。


「上手く言えなかった。途中で、もういいって言いそうになった」


 テシアは彼の前に水の杯を寄せた。


「言わなかったの?」


 オルヴェは杯を持ち、頷いた。

 その返事を聞いて、テシアは自分の手紙のことも少し落ち着いて考えられた。話して、すぐに認められるとは限らない。二人ともまだ、返事の途中にいる。


 祝祭の衣装は、寮へ来た仕立て屋に頼んだ。

 テシアが青灰色を選ぶと、仕立て屋は採寸用の紐を置き、縁を銀色にする案を見せてくれた。ユリアからもらった布見本を並べて、色を確かめる。

 着た自分を想像して、嫌ではないと思えた。


 夕方、温室でオルヴェに衣装の色を話した。

 彼は道具をしまう手を止め、祝祭、広間にも来るのかと聞いた。


「少しは行くつもり。でも、途中で出ると思う」


 テシアは彼の表情を見て、誘われる前に断っているようだろうかと考えた。けれど彼は、わかった、と答えただけだった。


「一曲、踊りたいんだけど。来たときに」


 工具の金属音が、机の上で小さく鳴った。

 テシアはその音が消えるまで、彼を見ていた。


「私、上手くないよ」


 言ってから、それは答えではないと気づいた。

 彼も少し笑ったが、待っていた。


「でも、踊りたい」


 オルヴェは今度、目を逸らした。

 彼が照れるところを見るたび、テシアの中に知らなかった欲が生まれる。もう少しこちらを見てほしい。自分の言葉で、その顔を変えてみたい。

 そんなことを望んでいいのか迷うより先に、彼がまたこちらを向いた。


「じゃあ、約束」


 テシアは頷き、机の灯石へ手を伸ばした。

 点灯の確認をするだけなのに、指先がいつもより頼りなかった。


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