第6話_大丈夫の行き先
祝祭まで二週間となった日、噴水の装飾を増やす案が出た。
ディナは、来賓が増えるから正門から中庭までにも色の変わる灯りを置きたいと言った。四つ追加するだけ、と添えられた言葉に、テシアは図面を見た。
四つの石を増やせば、魔力を運ぶ線も、切り替え部分も変わる。石を買うだけでは済まない。
「今の回路だと足りない。外側の線を替える必要がある」
ディナは予算表を開いた。手元に残った資金では足りず、色を変えない石なら何とかなる。
テシアがそう提案する前に、隣でオルヴェが口を開いた。
「予備の石を使えばできると思う。線も、少し延ばせばいいし」
それは道を照らすための三つと、交換用の一つだった。
ディナが助かると笑い、ほかの委員も頷いた。テシアはオルヴェを見た。彼はこちらを見ず、予定表へ書き込んでいる。
「道の分は、使いたくない」
声が小さく、ディナに聞き返された。
テシアが繰り返すと、委員の一人が、そんなに暗くなかった気がする、と言った。前に通ったときは平気だったという。
どの時刻に通ったのか聞けば、昼間だという返事が来た。
「昼と夜は違うから」
言い方が鋭くなった。
相手の少女が眉を上げ、そんなことはわかってる、と返した。空気が止まったのが、テシアにもわかった。
オルヴェが間へ入り、全部消すわけじゃないから、と話を続けた。
彼がまとめている。自分の話が終わる前に。
「でも、それは私と確認してから決めてほしかった」
テシアは彼へ向けて言った。
皆が見ていたが、もう言葉を引っ込められなかった。
「回路を作るのは私なんでしょう。できるって、まだ言ってない」
オルヴェが口を閉じた。
ディナは予定表を下ろし、じゃあ追加は保留にしようと言った。それから別の確認へ進んだが、テシアは途中から声を聞き取れなくなった。
最後に皆が椅子を戻す音だけが、大きく耳へ入ってきた。
温室に二人きりになると、オルヴェが机の端へ来た。
「勝手に返事して、ごめん」
テシアは図面を丸めた。
すぐに許して、また一緒に作業をすればよいのだろう。彼も謝っている。けれど胸の中には、まだ硬いものが残っていた。
「私が、細かいことばかり言ってると思った?」
オルヴェは首を振った。ただ、追加ができれば皆が喜ぶと思った、と答えた。
皆。その中に、自分はいたのだろうか。
「私は、道の灯りも作りたかったよ」
彼が何か言おうとする前に、テシアは鞄を持った。
「今日は帰る。ここにいたら、ほかのことまで言いそうだから」
オルヴェは戸のそばを空けた。
追いかけてこなかった。寮まで歩きながら、それでよかったと思う気持ちと、呼び止めてほしかった気持ちが交互に出てきた。
翌日、実習の教室へ行くのが怖かった。
ディナはいつもどおり挨拶したが、昨日の少女とは目が合わなかった。テシアは席に座り、教科書の角を指で押さえた。
また、うまくできなかった。
意見を伝えても、言い方で台無しにする。父の声が思い出され、誰にも会いたくなくなった。
昼休み、ミルカが隣へ来た。
食堂へ行こうと言われ、テシアは首を振った。ミルカはしばらく立っていたが、それから空いた椅子へ座った。
「何かあった?」
テシアは灯りの話を、順番に説明した。
途中で自分の言い方も話すと、ミルカは机の上の図面を見た。
「それ、怒って言ったの?」
テシアは頷いた。
ミルカは紙の端を戻しながら、怒る理由はあると思う、と言った。ただ、その少女が昼と夜の違いを知らないわけではないのも、たぶんそうだろう、と続けた。
テシアは唇を噛んだ。どちらかだけが正しい話なら、まだ楽だった。
「謝ったら、全部私が悪かったことになる気がする」
ミルカはすぐには答えなかった。
窓の外を通る生徒へ目をやり、それからテシアへ顔を戻した。
「きつく言ったことと、灯りが必要なことは、別に話したら?」
別にできるのだろうか。
テシアが黙っていると、ミルカは立ち上がった。先に食堂へ行くが、席を取っておくと言う。
「来ないなら、来ないって言って。いつまで待つか考えるから」
その言葉に、テシアは顔を上げた。
前にオルヴェへ頼んだことと同じだった。自分だけが相手の予定を知りたいわけではない。
「行く。これ、片づけたら」
ミルカは頷き、教室を出た。
テシアは図面を鞄へしまい、食堂へ向かった。
放課後、温室へ行くとオルヴェがいた。
机の上には、追加の四つを別回路にした図がある。彼はテシアを見て、話してもいいか尋ねた。
テシアは扉を閉じ、椅子に座った。
「俺、できるかどうかより、断ったら困らせるかどうかを考えた」
オルヴェは図の上へ手を置いた。
「それで、テシアがやる分まで引き受けた。あとから俺が手伝えば何とかなると思ってた」
手伝えば済むかどうかも、決めてしまっていたのだ。テシアはそう思ったが、今は彼の話を最後まで聞いた。
オルヴェは別回路の図を見せ、これなら道の灯りを残せるかと聞いた。
「できると思う。でも、もう一つ切り替えを作る時間はない」
テシアが答えると、彼は少し考え、追加の分は色を変えないと提案した。
それなら作業は増えるが、試験を含めても間に合う。小さな灯石を四つ買っても残りの予算で足り、線は実習室の残材を使えた。二人で線の長さを確かめ、明日ディナへ話すことになった。
「私も、皆の前で、もっと落ち着いて言えたらよかった」
テシアは図面を押さえながら言った。
オルヴェは首を振りかけて、途中で止まった。
「言い方は、きつかったと思う。でも、聞かなかったのは俺だよ」
どちらも消さずに話せるのだと、テシアはそのとき思った。
彼が自分を慰めるだけなら、きっとまだ不安だった。怒ったことを認められ、それでも話を続けてもらえたので、椅子から立たずにいられた。
帰り際、彼が戸へ手をかけたまま振り返った。
「買い出しじゃない日も、一緒に出かけたいと思ってる。それは、今も」
テシアは鞄の紐を握った。
昨日帰ったとき、あの川岸の約束まで壊したのだと思っていた。彼はそこも気づいたのだろうか。それとも、自分で確かめたかったのだろうか。
「私も。今日は、まだ疲れてるけど」
オルヴェの肩が少し下がった。
彼は頷き、今日は帰ろうと言った。二人で寮まで歩くあいだ、前のようには喋らなかったが、道の分かれ目で次の作業の時刻を決めた。
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