第11話_違う歩幅
恋人になって三週目、二人はまた少しすれ違った。
町へ出る約束の日、オルヴェは仲間の二人を連れて校門へ来た。途中まで同じ店へ行くから一緒に、と頼まれたのだという。
テシアは挨拶し、四人で歩いた。
道中の会話は騎馬試合の話だった。知らない名が幾つも出てきて、テシアは質問をする場所を探した。そのうち三人の歩く速さについていくだけになった。
オルヴェがこちらを振り返る。大丈夫かと目で聞かれた気がして、テシアは頷いた。
店の前で二人と別れたあと、彼が顔を覗き込んだ。
「疲れた?」
テシアは頷いた。
大丈夫と示したばかりなのに、今になって違うと言うのは、後から責めることにならないだろうか。そう思いながら、靴先を見た。
「二人で来ると思ってたから、びっくりした」
オルヴェは黙った。
それから、先に知らせるべきだったと答えた。テシアが頷くと、彼は少し迷ってから続けた。
「さっき聞いたとき、頷いたから、平気だと思った」
彼の声は責めていなかった。
テシアは店の窓に映る自分を見た。口元が硬く、肩が上がっている。内側の全部が、相手へ伝わるわけではない。
「あのとき、どう言えばいいかわからなかった。二人を帰らせてって言うみたいで」
オルヴェは頷いた。
その場で突然、帰らせることはできない。けれど歩く速度を変えたり、道を分けたりはできたかもしれない、と話した。
テシアは考え、ゆっくり歩きたいとは言えたと思う、と答えた。
「今度は、言う。私も、頷くだけで済ませないようにする」
彼は、予定が変わるなら先に知らせる、と返した。
話が済んでも、すぐに楽しい気分へ戻れるわけではなかった。二人で店へ入り、しばらく別々の棚を見た。
棚の奥に鳥の取っ手がついた杯があった。
テシアはそれを見て、いま使っているものより持ちやすそうだと思った。指を入れてみると、飾りがちょうど避けてある。
「そっちも鳥?」
隣に来たオルヴェが聞いた。
テシアが取っ手を見せると、彼も自分の指を当てた。手が大きいので、彼には少し窮屈だった。
それが可笑しくて、テシアは笑った。
ようやく今日の町へ戻れた気がした。
杯は買わなかった。
見学の参加費を残したかったからだ。オルヴェが買おうかと言ったが、テシアは首を振り、今日は見ただけでいいと答えた。
彼は棚へ戻し、店を出る前に値札をもう一度見た。
工房見学の日は、曇っていた。
学園から七人が参加し、王都の東側にある建物へ向かった。中では細かな作業だけでなく、重い部品を運ぶ仕事もあった。
テシアは回路を描く台の前で、担当者へ尋ねた。設計だけをする人もいるのか。最初はどんな仕事を覚えるのか。
職人は、最初から好きな作業だけは任せられない、と答えた。
組み立ても、点検も、使う人の話を聞くことも覚える必要がある。設計の意図が現場で伝わらなければ、図が綺麗でも役に立たない。
テシアは手帳へ書き、実際に灯器を持たせてもらった。思っていたより重い。
ここならすべて楽になるわけではなかった。
それでも、職人が作業を説明する声を聞きながら、もっと知りたいと思った。
見学の終わり、職人が手帳を指して、よく書くねと言った。
テシアは忘れるのが怖いと答えた。相手は一度頷いてから、書いたあと、実物も見ておくといい、と部品の箱を開けた。
褒められたあとに、直すところも教えられた。
その両方を受け取って、テシアは箱を覗いた。
寮へ戻ると、オルヴェが庭で待っていた。
同じ見学には参加していなかった。彼の希望する修繕の部署は別の日に見学があり、二人で日程を確かめていた。
「どうだった?」
聞かれて、テシアは重かった灯器の話から始めた。
自分が好きな回路の仕事にも、知らないことが沢山ある。オルヴェは途中で幾つか質問し、手帳の絵を見せてほしいと頼んだ。
話し終わった頃には、回廊の灯りが点いていた。
「行ってよかった?」
彼が尋ねた。
テシアは手帳を閉じ、頷いた。
「働けるって、まだわからない。でも、次に勉強することは増えた」
オルヴェは笑い、俺も見てから考える、と答えた。
二人の行き先は同じとは限らない。卒業も、まだ一年先だ。先の約束を全部決める代わりに、テシアは彼の見学のあとも話を聞きたいと言った。
彼は、帰ってきたらここへ来る、と答えた。




