↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
心配だったら、何を言ってもいいんですか?  作者: あずきまんま


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
11/13

第11話_違う歩幅

 恋人になって三週目、二人はまた少しすれ違った。

 町へ出る約束の日、オルヴェは仲間の二人を連れて校門へ来た。途中まで同じ店へ行くから一緒に、と頼まれたのだという。

 テシアは挨拶し、四人で歩いた。

 道中の会話は騎馬試合の話だった。知らない名が幾つも出てきて、テシアは質問をする場所を探した。そのうち三人の歩く速さについていくだけになった。

 オルヴェがこちらを振り返る。大丈夫かと目で聞かれた気がして、テシアは頷いた。


 店の前で二人と別れたあと、彼が顔を覗き込んだ。


「疲れた?」


 テシアは頷いた。

 大丈夫と示したばかりなのに、今になって違うと言うのは、後から責めることにならないだろうか。そう思いながら、靴先を見た。


「二人で来ると思ってたから、びっくりした」


 オルヴェは黙った。

 それから、先に知らせるべきだったと答えた。テシアが頷くと、彼は少し迷ってから続けた。


「さっき聞いたとき、頷いたから、平気だと思った」


 彼の声は責めていなかった。

 テシアは店の窓に映る自分を見た。口元が硬く、肩が上がっている。内側の全部が、相手へ伝わるわけではない。


「あのとき、どう言えばいいかわからなかった。二人を帰らせてって言うみたいで」


 オルヴェは頷いた。

 その場で突然、帰らせることはできない。けれど歩く速度を変えたり、道を分けたりはできたかもしれない、と話した。

 テシアは考え、ゆっくり歩きたいとは言えたと思う、と答えた。


「今度は、言う。私も、頷くだけで済ませないようにする」


 彼は、予定が変わるなら先に知らせる、と返した。

 話が済んでも、すぐに楽しい気分へ戻れるわけではなかった。二人で店へ入り、しばらく別々の棚を見た。

 棚の奥に鳥の取っ手がついた杯があった。

 テシアはそれを見て、いま使っているものより持ちやすそうだと思った。指を入れてみると、飾りがちょうど避けてある。


「そっちも鳥?」


 隣に来たオルヴェが聞いた。

 テシアが取っ手を見せると、彼も自分の指を当てた。手が大きいので、彼には少し窮屈だった。

 それが可笑しくて、テシアは笑った。

 ようやく今日の町へ戻れた気がした。


 杯は買わなかった。

 見学の参加費を残したかったからだ。オルヴェが買おうかと言ったが、テシアは首を振り、今日は見ただけでいいと答えた。

 彼は棚へ戻し、店を出る前に値札をもう一度見た。


 工房見学の日は、曇っていた。

 学園から七人が参加し、王都の東側にある建物へ向かった。中では細かな作業だけでなく、重い部品を運ぶ仕事もあった。

 テシアは回路を描く台の前で、担当者へ尋ねた。設計だけをする人もいるのか。最初はどんな仕事を覚えるのか。

 職人は、最初から好きな作業だけは任せられない、と答えた。

 組み立ても、点検も、使う人の話を聞くことも覚える必要がある。設計の意図が現場で伝わらなければ、図が綺麗でも役に立たない。

 テシアは手帳へ書き、実際に灯器を持たせてもらった。思っていたより重い。

 ここならすべて楽になるわけではなかった。

 それでも、職人が作業を説明する声を聞きながら、もっと知りたいと思った。


 見学の終わり、職人が手帳を指して、よく書くねと言った。

 テシアは忘れるのが怖いと答えた。相手は一度頷いてから、書いたあと、実物も見ておくといい、と部品の箱を開けた。

 褒められたあとに、直すところも教えられた。

 その両方を受け取って、テシアは箱を覗いた。


 寮へ戻ると、オルヴェが庭で待っていた。

 同じ見学には参加していなかった。彼の希望する修繕の部署は別の日に見学があり、二人で日程を確かめていた。


「どうだった?」


 聞かれて、テシアは重かった灯器の話から始めた。

 自分が好きな回路の仕事にも、知らないことが沢山ある。オルヴェは途中で幾つか質問し、手帳の絵を見せてほしいと頼んだ。

 話し終わった頃には、回廊の灯りが点いていた。


「行ってよかった?」


 彼が尋ねた。

 テシアは手帳を閉じ、頷いた。


「働けるって、まだわからない。でも、次に勉強することは増えた」


 オルヴェは笑い、俺も見てから考える、と答えた。

 二人の行き先は同じとは限らない。卒業も、まだ一年先だ。先の約束を全部決める代わりに、テシアは彼の見学のあとも話を聞きたいと言った。

 彼は、帰ってきたらここへ来る、と答えた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。