第10話_返事の途中
恋人になった翌日も、食堂は騒がしかった。
テシアは入口で少し立ち止まり、いつもの卓へ向かった。オルヴェは窓側に座っていたが、こちらを見ると向かいの椅子を引いた。
昨日まで何度も向かい合って作業をしたのに、食事の皿を置く手が緊張した。
「眠れた?」
尋ねられて、テシアは頷いた。
嬉しくて眠れなかったと言えたらよかったが、実際にはすぐ眠っていた。そう答えると、オルヴェは羨ましそうに笑った。
「俺、寮へ戻ってから、何回も思い出してた」
昨日のことだとわかり、テシアは杯へ手を伸ばしかけてやめた。
彼も少し落ち着かない。自分だけが知らない場所へ来たのではなかった。
食後、ミルカに庭で見たと言われた。
テシアは何を見たのか尋ね、手を繋いでいたところ、と答えられると俯いた。ミルカはそれ以上からかわず、今度一緒に町へ行こうと言った。
「オルヴェも一緒?」
テシアが聞くと、ミルカは首を振った。
「私は、あなたと服を見たいの」
テシアは顔を上げた。
誘われていたのに、ほかの人も必要だと思っていた。二人で行きたいと聞けば、そのつもりで答えられる。
「行きたい。ゆっくり選んでもいい?」
ミルカは、自分もすぐには決まらないと言って笑った。日程は翌週に決まり、テシアは予定表へ書いた。
母からの返事は、その翌日に届いた。
父は工房で働くことに反対している。苦労するのが目に見えている、と言っているらしい。お茶会についても、家族の顔を立てることを考えてほしい、とあった。
テシアは窓際で手紙を読み、すぐに机へ置いた。
せっかく書いたのに。そう思うと腹が立ち、そのあと、書かなければよかったと怖くなった。
オルヴェに話せば慰めてくれるだろうか。けれど彼のところへ行く前に、工房の見学を紹介した教師へ相談した。
「就職について家の同意がないのですが、見学には行けますか」
教師は案内を読み直した。
見学は学園の引率で行い、参加費も自分の小遣いで払える額だった。家へ日程を知らせる必要はあるが、就職を決めるものではない。
「仕事を知ってから、もう一度話せばいい。働きたいなら、条件も覚悟も具体的にしなければならないからな」
テシアは頷いた。
認めてもらえなかったことを、今すぐ全部解決する答えはなかった。それでも、次に何を確かめればいいかはわかった。
母には見学の日程を書いた。
父が反対していることも読んだと伝え、働く条件を聞いてから、夏休みに話したいと続けた。お茶会の人数と日程は、まだ書かれていなかったので、もう一度尋ねた。
書き終えたとき、手は震えていた。
強くなったから書けたのではない。怖いまま、前の手紙と同じことをもう一度伝えた。
温室の片づけは、祝祭から三日かかった。
灯石を外し、銅線をほどき、借りた道具を返す。道の三つの灯りは、学園の備品として残すことになった。管理する用務員へ回路を説明すると、老人は雨の日の手入れを尋ねた。
テシアは前夜の失敗を話し、固定板を見せた。
うまくできたところだけ話すより、実際に使う人の役に立つと思った。
最後の木箱を運び終えると、温室には脚立だけが残った。
テシアは空になった机を拭いた。ここへ来る理由がなくなったら、彼と会う回数も減るのだろうか。
恋人になっていても、その不安は急に出てくる。
「明日の放課後、どうする?」
オルヴェが雑巾を絞りながら聞いた。
テシアは机の端を拭き、実習の課題を終わらせたいと答えた。
「俺もある。図書室でやろうか」
それなら、一緒にいられる。
テシアは頷いてから、途中で喋りたくなったら困る、と言った。オルヴェは少し笑い、課題が終わったら庭へ行けばいい、と答えた。
自分の予定の中に、彼と会う時間を入れられる。それは、作業の係とは違う約束だった。
翌週、ユリアから短い手紙が来た。
母とは別の便箋で、父が工房の話をしているとき、自分も灯りを見てみたいと言った、とあった。父は返事をしなかったらしい。
最後に、青灰色のドレスは着たのか、と尋ねていた。
テシアは祝祭の話を書いた。
噴水の色が変わったこと。一曲踊ったこと。途中で庭へ出て、そのあと寮へ帰ったこと。
それから、好きな人ができた、と書いた。
父や母へ伝えるのは、まだ怖かった。妹には、まず自分で話したかった。




