表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界最強の神獣たちを育てた飼育員、百年後に目覚めたら全員俺の家に住み着いた ~竜王も神狼も俺の前では昔のままです~  作者: てへろっぱ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/23

第6話 俺の家を勝手に決めるな



 城より大きな魚が、空を飛んでいた。


「…………」


 俺は食堂の窓からそれを見上げる。


 何度見ても。


 魚だ。


 巨大な魚。


 しかも真っ直ぐこちらへ飛んできている。


『レオーン!』


 遠くの湖からリヴィの楽しそうな声。


『捕れたよー!』


「見れば分かる!」


『食べよー!』


「量を考えろ!」


『みんなで食べれば大丈夫ー!』


「何人で食うつもりだ!」


 魚がどんどん近づいてくる。


 城の中では警報が鳴りっぱなしだ。


『巨大飛翔物体、接近!』


『防御結界を展開!』


『衝突まで三十秒!』


「迎撃魔法隊、準備!」


 廊下の向こうから騎士たちの怒号まで聞こえてくる。


「待て待て!」


 俺は慌てて食堂を飛び出した。


「撃つな!」


 宰相が追いかけてくる。


「しかしレオン殿! あのままでは城へ直撃いたします!」


「撃ったらリヴィが拗ねる!」


「城と海皇様の御機嫌でしたら、どちらを優先すれば!?」


「難しい質問するな!」


 外へ出る。


 空を見る。


 でかい。


「リヴィー!」


『なーにー?』


「止めろ!」


『もう投げちゃったー』


「じゃあ拾え!」


『届かなーい』


「無責任!」


 どうする。


 俺が考えるより早く、ルビィが前へ出た。


「私が焼く!」


「待て!」


「何で!?」


「空中で城サイズの焼き魚作るな!」


「じゃあ燃やす!」


「もっと駄目!」


 シロも横に並ぶ。


「切る?」


「細切れが降ってくるだろ!」


「じゃあ凍らせる?」


「フェニアまで参加するな!」


 三人揃って首を傾げる。


 どうして世界最強になったのに、こういうところだけ昔のままなんだ。


 その時。


「……あ」


 俺は思い出した。


「ルビィ」


「なに?」


「昔、リヴィが餌を投げすぎた時どうしてた?」


「……あ」


 ルビィも思い出したらしい。


「シロ」


「分かった」


「フェニア」


「はい」


 三人が同時に動く。


 シロが巨大魚の進行方向へ飛び上がった。


 前脚を一振り。


 轟音。


 魚の速度が一気に落ちる。


 そこへフェニアが翼を広げた。


 黄金の風が魚を包み込み、さらに勢いを殺す。


 最後にルビィ。


「えいっ」


 巨大魚の下へ回り込み――。


 持ち上げた。


「…………」


 城より大きい魚を。


 人間の姿のまま。


 片手で。


「これでいい?」


「いいけど絵面がおかしいな」


「え?」


 ルビィが巨大魚を肩に担いでいる。


 周囲の騎士たちは口を開けたまま動かない。


「とりあえず庭に置いとけ」


「はーい」


 どおおおおんっ!


 中庭に巨大魚が置かれた。


「優しく!」


「優しく置いたよ!」


「今城揺れたぞ!」


 宰相が頭を抱えていた。


「庭園が……」


「あ」


 見る。


 巨大魚の下。


 綺麗に整えられていた庭園が完全に潰れていた。


「ごめん」


 ルビィが素直に謝る。


 宰相は遠い目をした。


「……後ほど直させます」


「大変だな」


「誰のせいだと……」


 聞こえなかったことにしよう。


『レオーン!』


「まだ何かあるのか!」


『褒めてー!』


「自分で持ってきてから言え!」


『えー』


「あと今度から城より小さい魚にしろ!」


『どれくらいー?』


「普通のやつ!」


『普通ってどれくらいー?』


「……そうだった」


 リヴィに普通を説明するのは難しい。


「人間一人で持てるくらい!」


『ちっちゃいねー』


「それが普通なんだよ!」


『分かったー!』


 本当に分かっただろうか。


 かなり怪しい。


 まあいい。


「さて」


 俺は手を叩く。


「今度こそ飯だ」


「レオン」


 ルビィが巨大魚を指差す。


「これ食べないの?」


「朝から?」


「新鮮だよ」


「城サイズを?」


「美味しいよ?」


「昼にしよう」


「分かった!」


 ようやく食堂へ戻る。


 今度こそ俺はパンと卵にありつけた。


「……うまい」


 やっとだ。


 朝飯一つ食うだけで、どうしてこんなに疲れるんだ。


 しばらく静かに食べる。


 ルビィも。


 シロも。


 フェニアも。


 三人とも今度は邪魔してこなかった。


 ……いや。


 シロは俺のパンをじっと見ている。


「欲しいの?」


「少し」


「自分のあるだろ」


「レオンのがいい」


「同じパンだぞ」


「違う」


「何が?」


「レオンが持ってる」


「意味分からん」


 半分ちぎって渡す。


 シロの尻尾が揺れた。


 ルビィがそれを見る。


「私も」


「お前も自分のあるだろ!」


「シロだけずるい!」


 フェニアも控えめに手を挙げた。


「では私も少々」


「何で増えるんだよ!」


 結局、一枚のパンを四人で分けることになった。


 百年前にも似たようなことをやった気がする。


「……懐かしいな」


 俺が呟く。


 三人が同時にこちらを見た。


「何でもない」


 食事が終わる。


 そこで俺は、ふと思い出した。


「そういや」


「?」


「俺、これからどうすればいいんだ?」


 三人が固まった。


「どう、とは?」


 フェニアが聞く。


「住む場所」


 百年前の俺の部屋は、さっき見た遺跡の職員宿舎だった。


 たぶんもうない。


「仕事もないし」


「仕事?」


 ルビィが不思議そうな顔。


「ああ。金もない」


「お金?」


「保存結界から出たばっかだからな」


 財布すら持っていない。


 持っていたところで、百年前の金が使えるかも怪しい。


「だからまず仕事探して、安い部屋でも借りないと」


 しーん。


「……何?」


 何故か三人が真顔になっている。


「レオン」


 ルビィが言う。


「ここに住めばいいよ」


「嫌だ」


「何で!?」


「広すぎる」


「そこ!?」


「落ち着かない」


「じゃあ小さい部屋にする!」


「城の中で?」


「うん!」


「それ結局城じゃん」


 シロが俺の袖を引く。


「北に来て」


「お前も城だろ?」


「城じゃない」


「本当?」


「宮殿」


「もっと嫌だ!」


 フェニアが微笑む。


「でしたら私の聖域はいかがでしょう?」


「どんなところ?」


「山脈一つが私の領域です」


「広すぎる!」


「自然豊かですよ?」


「規模の話!」


 三人が黙る。


「俺が欲しいのは普通の家」


「普通」


 シロが首を傾げる。


「ああ」


 俺は指を折る。


「寝る部屋があって」


「うん」


「台所があって」


「うん」


「風呂があって」


 フェニアが目を逸らした。


「お前はこっち見ろ」


「はい」


「あと、小さい庭があれば十分」


 三人が考え込む。


「そんな家ある?」


 ルビィが宰相を見る。


 俺も見る。


 宰相が何とも言えない顔をしていた。


「ございますが……」


「ほら」


「しかしレオン殿ほどの御方がお住まいになるには……」


「俺ほどって何だ」


「六大神獣様の――」


「飼育員」


「……御養育者」


「また言い換えた」


「ともかく!」


 宰相が咳払いする。


「城下町に空き家はございます」


「それでいい」


「ですが警備上――」


「普通の家」


「……はい」


「大きい屋敷いらないからな」


「承知いたしました」


「使用人もいらない」


「……承知しました」


「護衛もいらない」


「それは少々」


「ルビィたちがいるのに誰が襲うんだよ」


「…………」


 宰相が黙った。


「確かに」


「だろ?」


 話が早い。


 これで決まりだ。


「今日見に行こう」


「私も行く!」


 ルビィ。


「私も」


 シロ。


「もちろん私も」


 フェニア。


「三人とも?」


「当然!」


「目立つだろ」


「変装する!」


「できるの?」


「人間の姿なら大丈夫!」


 俺は三人を見る。


 どう見ても目立つ。


 赤髪の美女。


 銀髪の美女。


 金髪で翼まである美女。


「フェニア」


「はい?」


「翼」


「あ」


 すっと消えた。


「消せるんじゃん」


「普段は神格の象徴ですので」


「便利だな」


 その日の午後。


 俺たちは城下町へ向かった。


 もちろん三人には、


「絶対に騒ぎを起こすな」


 と念を押した。


 三人とも、


「分かった」


 と答えた。


 だから俺も安心していた。


 ――一時間後。


「レオン!」


「これ買って!」


「私も」


「レオン、こちらのお菓子をご覧ください!」


「お前ら観光に来たんじゃない!」


 百年以上生きている世界最強の神獣三柱を連れて。


 俺は不動産屋を探していた。


 そしてこの時の俺はまだ知らなかった。


 俺が、


「小さい家でいい」


 と言った一言を。


 三人がそれぞれ、


 **まったく違う意味で受け取っていたことを。**


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ