表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界最強の神獣たちを育てた飼育員、百年後に目覚めたら全員俺の家に住み着いた ~竜王も神狼も俺の前では昔のままです~  作者: てへろっぱ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/16

第4話 天鳳様、百年経ってもお風呂が嫌い



『レオオオオオオン!!』


「声でっかくなったなあ」


 俺が空を見上げると、巨大な黄金の翼が太陽を覆っていた。


 一枚一枚の羽根が光を放ち、その姿は確かに神々しい。


 地上にいる兵士たちが次々と膝をつく。


「天鳳様……!」


「三柱目だぞ……!」


「炎竜皇様、白銀神狼様に続いて天鳳様まで……!」


「今日は世界が滅びる日なのか……?」


 縁起でもないことを言うな。


 ルビィが露骨に嫌そうな顔をする。


「来ちゃった」


 シロも小さく呟いた。


「うるさいのが」


『聞こえていますよ、シロ!!』


「耳も良くなったな」


 黄金の巨鳥が急降下してくる。


「全員伏せろ!」


 宰相の声と同時に、凄まじい風が中庭を吹き抜けた。


「うおっ!」


 俺は腕で顔を庇う。


 ルビィは平然。


 シロも平然。


 周囲の兵士たちは何人か転がっていった。


「着地するときは静かにしろって昔教えただろ!」


『…………』


 天鳳の翼が止まる。


『ごめんなさい』


「よし」


 周囲から何とも言えない視線が飛んできた。


 何だ。


 謝れるようになったんだから褒めてやれよ。


 巨大な身体が黄金の光に包まれる。


 光が収まった時、そこには一人の女性が立っていた。


 長い金髪。


 白と金の衣。


 背中には小さくなった黄金の翼。


 姿勢も立ち振る舞いも、ルビィやシロよりずっと上品だ。


「レオン……」


 目には涙。


「フェニア」


「レオン!」


 走ってくる。


「おっと」


 抱きつかれた。


「本当に……本当にレオンなのですね……!」


「ああ」


「百年間……!」


「うん」


「ずっと……!」


「分かった分かった」


 背中を軽く叩いてやる。


 昔のフェニアは、六体の中では一番おとなしかった。


 真面目。


 優しい。


 他の仔が喧嘩すると止めに入る。


 怪我した仔がいると付き添う。


 そのせいで俺はこいつをよく褒めていた。


「大きくなったな」


「はい……!」


「羽根も立派になって」


「はい!」


「ちゃんと飯食ってたみたいだし」


「もちろんです!」


「風呂は?」


「入っています!」


 即答だった。


 早い。


 早すぎる。


「フェニア」


「はい」


「こっち向け」


「嫌です」


「何で?」


「何となくです」


「翼見せろ」


「嫌です」


「入ってないな?」


「入っています!」


「じゃあ見せられるだろ」


「女性の翼を気軽に見ようとするなんて、レオンは最低です!」


「昔毎日洗ってたんだけど!?」


 フェニアが俺から離れ、背中を壁の方へ向ける。


「と、とにかく! 百年経ったのです! 私も立派な大人です!」


「ああ」


「自分の身だしなみくらい、自分で管理できます!」


「本当に?」


「本当です!」


 横を見る。


 ルビィが目を逸らした。


 シロも目を逸らした。


「お前ら知ってるな?」


「知らない」


 シロ。


「私は何も知らないよ!」


 ルビィ。


「じゃあ何で二人とも目合わせないの?」


「偶然」


「そう! 偶然!」


「怪しい」


 俺が一歩フェニアへ近づく。


 フェニアが一歩下がる。


「フェニア」


「何でしょう」


「最後に風呂入ったのいつ?」


「昨日です」


「本当?」


「はい」


「じゃあ翼」


「嫌です」


「昨日なら綺麗だろ」


「今日はもう汚れました」


「一日で?」


「空は汚いのです」


「さっきめちゃくちゃ光ってたじゃん」


「それは神力です!」


「便利だな神力!」


 俺がもう一歩近づく。


「こ、来ないでください!」


「昔もこうだったな」


「昔とは違います!」


「風呂の話になると逃げるところ一緒じゃん」


「違います!」


「じゃあ捕まえるぞ」


「なっ――」


 フェニアが逃げた。


「ほら!」


「これは戦略的撤退です!」


「ただの逃走だろ!」


 中庭を走る。


 世界中から慈愛と浄化の象徴として崇められているらしい天鳳が、俺から全力で逃げている。


「待て!」


「嫌です!」


「羽根一枚触れば分かる!」


「触らせません!」


「フェニア!」


「レオンの意地悪!」


「衛生管理だ!」


 俺たちが中庭を一周した頃。


 周囲は完全に沈黙していた。


 宰相が頭を抱えている。


 神狼領の最高司祭は目を閉じて何か祈っている。


 騎士たちはどうしていいか分からず棒立ち。


「……天鳳様が」


「追い回されている……」


「世界最高位の聖鳥が……」


「風呂に入っていない疑惑で……」


 聞こえてるぞ。


「違います!」


 フェニアが走りながら叫ぶ。


「三日前には入りました!」


 ぴたっ。


 俺が止まる。


 フェニアも止まる。


「昨日って言ったよな?」


「…………」


「フェニア?」


「…………」


「三日前?」


「……五日前」


「増えたな」


「…………七日」


「正直に」


「…………十二日」


 ルビィが吹き出した。


「ぷっ」


 シロも口元を押さえる。


「……汚い」


「シロ!!」


「事実」


「あなたは水に入るだけでしょう!」


「毎日入る」


「うっ」


「負けてるじゃん」


「レオンまで!」


 フェニアが涙目になる。


 昔と変わらない。


「分かった」


「……?」


「あとで風呂入れ」


「嫌です!」


「決定」


「横暴です!」


「十二日入ってない奴に発言権はない」


「神獣ですよ、私!」


「知ってる」


「世界中で崇められているんですよ!」


「それと風呂は関係ない」


「レオン!」


「返事」


「…………はい」


「よし」


 また一柱、座った。


 周囲ではとうとう誰も喋らなくなった。


 ルビィが俺の袖を引く。


「レオン」


「ん?」


「フェニアの風呂、私も手伝う」


「何で?」


「逃げるから」


「確かに」


「ルビィ!」


「百年前も三人がかりだったよね」


「余計なことを言わないで!」


 シロも静かに手を挙げる。


「私も」


「お前まで?」


「足押さえる」


「シロ!!」


「決まりだな」


「決めないでください!」


 フェニアが絶望した顔になる。


 世界ではどうなのか知らないが。


 少なくとも俺の知っているフェニアだった。


「まあ、その前に」


 俺は腹を押さえる。


「飯」


「あ」


 ルビィ。


「まだ食べてなかった」


 シロ。


「私も」


 フェニア。


「……私も空腹です」


「お前ら来たせいだろ!」


 三柱揃って俺を見る。


「ごめんなさい」


「……ごめん」


「申し訳ありません」


「分かればよし」


 ようやく飯にありつけそうだ。


 俺たちは城の食堂へ向かうことになった。


 その途中。


 宰相が恐る恐る俺の横へ来た。


「あの、レオン様」


「様いらないよ」


「では……レオン殿」


「何?」


「一つ、お伺いしても?」


「どうぞ」


 宰相はちらりと三柱を見る。


「六大神獣様は……皆、このような御性格なのでしょうか」


「ん?」


 俺も三人を見る。


 ルビィは俺の右腕にくっついている。


 シロは左。


 フェニアは後ろから、


「本当にお風呂は今日でなければ駄目ですか?」


 とまだ交渉している。


「昔より落ち着いた方だぞ」


 宰相が立ち止まった。


「…………これで?」


「うん」


 昔はもっと酷かった。


 壁は壊す。


 飯は奪い合う。


 寝床争いで喧嘩する。


 風呂から逃げる。


 勝手に俺の布団へ入る。


 毎日が大騒ぎだった。


「今度、昔の話してやるよ」


「……ぜひ」


 何故か宰相の顔が青かった。


 食堂の扉が見えてくる。


 ようやく飯だ。


 そう思った時。


 ルビィが突然足を止めた。


「……あ」


 シロも。


「来る」


 フェニアまで空を見た。


「また?」


 嫌な予感しかしない。


 次の瞬間。


 城全体が、


 ぐらっ。


 と揺れた。


「地震!?」


「違う」


 シロが首を振る。


「じゃあ何?」


 ルビィが窓の外を指差した。


「下」


「下?」


 城は山の上にある。


 その遥か下。


 山の麓を囲む巨大な湖。


 その水面が――。


 盛り上がっていた。


 いや。


 違う。


 **何かが浮上している。**


 あまりにも巨大な何かが。


 水が山のように持ち上がる。


 城中に再び警報が響いた。


『緊急! 湖面に超巨大神力反応!』


『属性、水!』


『海皇リヴァイアサンと思われます!』


「リヴィか」


 俺は窓から身を乗り出した。


 懐かしい。


 するとルビィが嫌そうに呟く。


「……あいつ、絶対湖から上がってこないよ」


「なんで?」


「面倒くさがりだから」


「ああ」


 それは昔からだ。


 そして湖から。


 世界中の船乗りが恐れ、崇める海皇の声が響いた。


『レオーン』


「おー!」


『こっち来てー』


「自分で来い!」


『やだー』


 百年経って。


 世界最強になって。


 神様として崇められるようになっても。


 どうやら、こいつらの中身はほとんど変わっていないらしい。


 そして俺はまだ――。


 朝飯を食べていなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ