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世界最強の神獣たちを育てた飼育員、百年後に目覚めたら全員俺の家に住み着いた ~竜王も神狼も俺の前では昔のままです~  作者: てへろっぱ


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第33話 触れ合い教室の応募者が、町の人口を超えていた

 翌朝。


《もふもふ魔獣店ポッケ》へ出勤した俺は、店の前に積み上げられた紙の山を見て、その場で足を止めた。


 紙箱が一つ、二つ、三つ。それでも足りなかったのか、最後には麻袋にまで封筒が詰め込まれている。


「店長、これ何です?」


「来月の触れ合い教室への参加申し込みだよ。おはよう、レオン君」


「おはようございます……って、こんなに来る催しでしたっけ?」


「昨日までは三十人くらいだったねえ」


 店主は朝から随分疲れた顔でお茶を飲んでいた。


 嫌な予感がして、一番上の封筒を手に取る。


《炎竜皇様に会いたいです》


「…………」


 二枚目。


《白銀神狼様を一度撫でてみたいです》


 三枚目。


《天鳳様へ入浴の心得を――》


「これ書いた奴だけ絶対フェニアに見せない方がいいな」


 さらにめくる。


《雷帝様に戦い方を教わりたい》


《九尾様へ商売の相談をしたい》


《海皇様へ魚を持参します》


 俺はゆっくり紙を戻した。


「完全に六大神獣目当てじゃないですか」


「そうなんだよ」


 店主は深いため息をつく。


「昨日の夕方、誰かが掲示板に《特別講師・六大神獣?》なんて書き足しただろう? それを見た人が王都の知り合いへ話して、そこからさらに広がったらしい」


「一晩で?」


「一晩で」


 百年後の情報伝達、速すぎる。


「何人来てるんです?」


「今朝までで千七百四十二人」


「町の人口どれくらいでしたっけ」


「千二百人くらいだねえ」


「超えてる!」


 しかも、まだ増えているらしい。


 店主が机の横を指差すと、配達員が新しい袋を一つ置いていった。


「これ、触れ合い教室じゃなくて祭りになりますよ」


「私もそう思う」


「どうするんです?」


「君の同居人たちへ相談しようかと思っていたところさ」


「嫌な言い方しないでくださいよ」


 つまり。


 俺が何とかしろということらしい。


     ◇


 昼休み。


 俺は事情を伝えるため、一度家へ戻った。


 居間へ入ると、ルビィたちはすでに全員揃っていた。どうやら近所の誰かから噂を聞いたらしい。


「聞いたよ、レオン! 来月、私たちも先生やるんだって!」


「やらないよ」


「えっ?」


 嬉しそうだったルビィの顔が固まる。


 シロも少しだけ耳を下げた。


「書いてあった」


「誰かが勝手に書いたんだよ。店長も俺も許可してない」


「では、誤情報ということですね」


 フェニアがほっとしたように頷く。


「安心した?」


「もちろんです。大勢の前で『風呂嫌いな天鳳』などと紹介されては困りますので」


「そこ心配してたの?」


「当然です!」


 ライカは机に置いた参加申し込みの束を手に取り、真面目な顔で何枚か確認していた。


「しかし、すでに遠方から出発した者もいるようだ。単純に中止すれば混乱するのではないか?」


「俺もそこ困ってる」


「なら」


 ミコがいつもの穏やかな笑顔で口を開いた。


「正式な催しへ格上げしてはいかがでしょう」


「しない」


「まだ内容を説明しておりません」


「お前が言う『格上げ』は規模が怖いんだよ」


「町の周辺を整備し、来場者十万人を収容可能な――」


「ほら!」


「十万人!?」


 ルビィまで驚いている。


「現在の申し込み数から成長率を推測しますと、十分考えられますので」


「考えなくていい。来月の町内イベントだから」


 俺が止めると、ミコは少し残念そうに資料を引っ込めた。


 危ない。


 あと一分黙っていたら、町が会場へ改造されるところだった。


『でもー』


 庭の水路からリヴィが顔を出す。


『魚くれる人来るんでしょ?』


「お前の食欲で決めない」


『千人いたら千匹?』


「期待するな!」


『一人一匹』


「そんなに食えるか!」


『保存するー』


「もっと駄目!」


 水路の周囲には、最近住み着いた魚型魔獣たちまで集まっている。


 こいつらまで期待した目をするな。


     ◇


「そもそもさ」


 俺は全員を見渡した。


「お前ら、本当に触れ合い教室やりたいの?」


「やりたい!」


 ルビィは迷わなかった。


 シロも小さく頷く。


「レオンが教えてるところ、近くで見たい。それに、子供なら少しくらい触ってもいい」


「撫でられる側なの?」


「うん」


「神狼様が完全に犬枠へ行こうとしてるな」


「犬じゃない」


「でも撫でてほしい?」


「……それは別」


 否定になっていなかった。


 フェニアは少し考えてから口を開く。


「私は、子供たちへ魔獣や神獣を必要以上に恐れなくてもよいことを伝える機会にはなると思います。もっとも、私自身を教材扱いされるのは少々複雑ですが」


「じゃあ参加したい?」


「レオンが一緒でしたら」


「そこ条件なんだ」


 ライカも頷いた。


「幼いうちから強者への接し方を学ぶことは悪くない。ただし、危険を避けるための規律は必要だ」


「軍隊式は禁止」


「まだ何も言っていない」


「昨日大型魔獣を五列に並べた奴だから先に言ってる」


「……では一般的な安全指導だけにしよう」


 少しずつ学習している。


 ミコはというと。


「私は参加自体には賛成ですが、人数管理は必要でしょう。千人以上をこの店へ集めるのは現実的ではありません」


「お前が一番まともなこと言った!」


「何故驚かれるのでしょう」


「普段が普段だから」


 九本の尻尾が少し膨らんだ。


「失礼ですね」


 そしてリヴィ。


『私は水槽から参加するー』


「店に水槽置けないぞ」


『小さい水球』


「陸で一時間くらいいられる?」


『…………』


「無理?」


『三十分』


「思ったより頑張ったな」


『魚くれるなら一時間』


「賄賂に弱すぎる!」


 全員。


 やる気はあるらしい。


 問題は。


「店長が望んでるのは普通の触れ合い教室なんだよな」


 六大神獣が参加すれば、間違いなく普通ではなくなる。


 俺が考え込んでいると、シロが静かに言った。


「じゃあ、普通に参加する」


「神獣が?」


「うん」


「どうやって?」


「特別扱いなし」


 その言葉に、全員の視線が集まった。


「子供と魔獣の触れ合い教室なら」


 シロは自分の胸を指す。


「私たちも、触れ合われる」


「…………」


 なるほど。


 神様として登場するのではなく。


 ただの神獣として参加する。


「それ、面白いかも」


 ルビィも目を輝かせた。


「私も小さくなればいい?」


「仔竜くらいなら大丈夫かな」


「できる!」


 昔の姿ほど小さくはないにしても、魔力で体格を抑えることはできるらしい。


 フェニアも翼を見ながら考え込む。


「私も幼体に近い姿を取れます。現在の本体よりはかなり小さくなりますが」


「風呂の話は禁止な」


「レオン!」


「子供に絶対話すなよ」


「話しません!」


 ライカも。


 ミコも。


 リヴィも。


 どうやら似たようなことはできるようだ。


「でも一番大事な問題がある」


「何?」


 ルビィが聞く。


「人数。千七百人全員は無理だ」


 ミコがすぐに答えた。


「抽選ですね」


「お」


「町の子供を優先し、その後に空き枠を一般応募者へ。六大神獣目当ての成人だけで埋まらないよう、子供一名につき保護者一名までとすればよいでしょう」


「それなら普通だな」


「参加費も通常通り」


「無料だよ」


「…………」


「何で驚く?」


「千七百人規模で利益を取らないのですか?」


「町の子供向けだから!」


「世界は厳しいですね」


「またそれ言うのか」


 それでも。


 方向は決まった。


     ◇


 その日の夕方。


 店主へ相談すると。


「本気かい?」


 当然。


 最初は疑われた。


「本気です。ただし、六人を神様扱いする催しにはしません。子供たちに『魔獣や神獣へどう接するか』を教える教材側として参加させます」


「炎竜皇様を……教材に?」


「本人がいいって」


「いいよ!」


 何故かついてきていたルビィが、店の外から顔を出した。


「来るなって言ってなかった!?」


「今日は言われてない!」


「確かに!」


 くそ。


 前回のルールしか守ってない。


 店主は頭を抱えたものの、しばらく考えてから大きく息を吐いた。


「……分かった。ただし条件があるよ」


「何です?」


「絶対に店を壊さない」


「はい」


「子供を泣かせない」


「はい」


「町を燃やさない」


「ルビィ」


「私!?」


「一番ありそうだから」


「燃やさないよ!」


「あと」


 店主はルビィをまっすぐ見た。


「普通の触れ合い教室だからね」


「分かってる!」


「本当に?」


「…………たぶん」


「そこは言い切ってくれないかい?」


 俺もそう思う。


     ◇


 翌朝。


 町の掲示板には。


《来月開催・魔獣ふれあい教室》


 という正式な案内の下へ。


 新しい文章が追加されていた。


《特別参加――六大神獣》


 ただし、そのさらに下には。


《神としてではなく、神獣として参加します》


《礼拝禁止》


《供物禁止》


《跪かないこと》


《普通に接してください》


 俺が昨日、店長と一緒に考えた注意事項だ。


「これなら大丈夫」


 俺は満足した。


 隣でマーサさんが掲示板を読む。


「レオンさん」


「はい?」


「《普通に接してください》って、一番難しいんじゃない?」


「…………」


 言われてみれば。


 そうかもしれない。


 その日の昼。


 新しい参加申し込みが届いた。


《娘に白銀神狼様を撫でさせたいです》


《息子が炎竜皇様へ木の実をあげたいと言っています》


《天鳳様へ普通に「こんにちは」と言う練習をして向かいます》


 そこまではいい。


 最後。


《雷帝様へ「お手」をお願いしてもよろしいでしょうか》


「…………」


 俺は紙を持ったまま。


 ゆっくりライカを見た。


「何故私を見る?」


「やる?」


「断る」


「即答だな」


「私は狼ではない!」


 隣。


 シロが手を挙げる。


「私ならやる」


「お前は誇りとかないの!?」


「撫でてもらえる?」


「たぶん」


「やる」


「即決!」


 こうして。


 来月の触れ合い教室は。


 もはや普通なのか普通ではないのか。


 俺自身にも。


 よく分からない催しへと。


 着実に育ち始めていた。


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