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世界最強の神獣たちを育てた飼育員、百年後に目覚めたら全員俺の家に住み着いた ~竜王も神狼も俺の前では昔のままです~  作者: てへろっぱ


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第27話 六大神獣に「普通に帰って」と言わせたら、余計にありがたがられた



 朝。


 俺の家の前には。


 人。


 人。


 人。


 通りの先まで。


 人。


「見学お断りって書いたのに……」


 俺は玄関の隙間から外を見て、頭を抱えた。


 昨日まで静かな住宅街だった場所に、今日は巡礼者、神官、騎士、商人らしき人々がぎっしり並んでいる。


 世界樹。


 六大神獣。


 そして俺の家。


 どうやら、その三つが一晩で妙な噂になったらしい。


「レオン」


 後ろからルビィが覗き込む。


「増えてる?」


「増えてる」


「昨日より?」


「昨日はいなかった!」


「そっか」


「何でちょっと楽しそうなんだよ!」


「だってみんなすごい勢いで頭下げてる」


「お前にだよ!」


 外では。


「炎竜皇様に一目だけでも!」


「白銀神狼様へ祈りを!」


「天鳳様のお姿を!」


 声が飛び交っている。


 その中に。


「レオン様にも!」


「俺も!?」


「六大神獣様を従える御方だ!」


「従えてない!」


 ただ一緒に暮らしてるだけだ。


 しかも、どちらかと言えば俺の方が毎日振り回されている。


「これじゃ仕事行けないな」


「休む?」


 シロが嬉しそうに俺の袖を掴む。


「嫌だ」


「……残念」


「俺、普通に働きたいの」


 店長にも昨日「明日はちゃんと来てね」と言われたばかりだ。


 さすがに今日は行きたい。


「裏口は?」


 フェニアが聞く。


「あるけど」


「そちらから出ればよいのでは?」


「昨日ミコが作った転移門の近くだろ?」


「…………」


「使わないぞ」


「まだ何も申しておりません」


 ミコが笑顔で答えた。


「顔が使わせる気だった」


「便利なのですが」


「だから駄目!」


 転移門なんか使ったら、普通の通勤がまた一歩遠ざかる。


 ライカが窓から外を確認した。


「私が解散を命じよう」


「それ大丈夫?」


「命令には慣れている」


「言い方」


 少し考える。


「……頼む」


「任せろ」


 ライカが玄関へ向かう。


「待って」


「何だ?」


「雷出すなよ」


「出さない」


「威圧も」


「しない」


「軍人みたいに怒鳴らない」


「…………」


「今ちょっと困った?」


「普通の話し方をすればいいのだな」


「そう」


「分かった」


 玄関を開ける。


 外。


「雷帝ライカ様だ!!」


「おおおおおおお!!」


「ありがたや!」


「雷帝様!!」


 どよめき。


 ライカが一歩出る。


 ぴたり。


 人々が静まった。


「皆の者」


「…………」


「…………」


「…………」


 俺は後ろからライカの服を引いた。


「普通」


「……あ」


 ライカが咳払い。


「皆さん」


 お。


 できるじゃん。


「本日は来ていただき――」


「歓迎するな!」


「違うのか?」


「帰ってもらうんだよ!」


「難しいな……」


「何で国を治められるのに町内対応できないの!?」


 ライカが再び群衆を見る。


「我々は現在、静養中だ」


 ざわっ。


「静養……!」


「六大神獣様がこの地で御身を休められている!」


「やはり聖域!」


「だから違う!」


 俺が顔を出す。


「みんな帰って!」


 一斉に。


「レオン様!!」


「いたぞ!」


「百年前の神獣飼育者!」


「始祖の守護者!」


「変な名前増えてる!」


 誰だよ始祖の守護者。


「俺、普通の飼育員だから!」


「なんと……!」


「これほどの御方が自らを普通と……!」


「謙虚だ!」


「深い!」


「深くない!!」


 駄目だ。


 何を言っても逆効果。


 ライカが小声で聞いてくる。


「どうする?」


「一回戻ろう」


「了解した」


 二人で玄関を閉めた。


「無理」


「うむ」


「早かったね!」


 ルビィが笑っている。


「お前もやってみろ」


「え?」


「普通に帰ってって言って」


「簡単だよ!」


 ルビィが胸を張る。


「私、こういうの得意!」


「本当?」


「任せて!」


 玄関。


 開く。


「炎竜皇様!!」


「ルビリア様!」


「お姿を拝見できるとは!」


 ルビィがにこっと笑った。


「みんなー!」


「おお……!」


「今日は帰ってー!」


「…………」


 静寂。


「お願いね!」


 一人の神官が震えながら。


「なんと慈悲深い……!」


「?」


「炎竜皇様自ら、我らの身体を案じて帰宅を促してくださった!」


「違うよ?」


「その御心、しかと受け取りました!」


「でもまだ帰ってないよ?」


「この御言葉、生涯忘れません!」


「だから帰ってってば!」


 歓声。


「うわああああ!」


「炎竜皇様万歳!」


「万歳!」


「何で!?」


 ルビィが慌てて戻ってきた。


「レオン!」


「どうだった?」


「怖い!」


「だろ?」


「話通じない!」


「俺もそう思った!」


     ◇


「次」


 シロ。


「私?」


「一番余計なこと言わなさそう」


「分かった」


 玄関。


「白銀神狼様!」


「おお……!」


 シロが外を見る。


「帰って」


 簡潔。


「…………」


 群衆が静まる。


 これ。


 いけるんじゃない?


「静かに暮らしたい」


 さらに一言。


 前方の老人が。


 ぽろぽろ泣き始めた。


「我々は……」


「?」


「神狼様の安寧すら邪魔していたというのか……!」


「……うん」


「申し訳ございません!!」


 老人が地面に額をつける。


 周囲も一斉に。


「申し訳ございません!」


「どうかお許しを!」


「二度と騒ぎません!」


 お。


「帰ってくれる?」


 シロが聞く。


「はい!」


「よし」


「静かにこの場で祈らせていただきます!」


「帰らないの?」


「声は出しません!」


「…………」


 シロ。


 戻る。


「だめだった」


「惜しかった!」


 今度は静かな巡礼者が増えただけだった。


「次、フェニア」


「私ですか?」


「お願い」


「仕方ありませんね」


 フェニアは自信ありげに外へ。


「皆様」


「天鳳様!」


「どうか本日はお引き取りください」


「何故でございましょう!」


「我々には日常生活がございますので」


「日常……!」


 群衆がざわめく。


「神々にも日常が!」


「尊い……!」


「朝食を召し上がるのだろうか」


「天鳳様もお風呂に――」


「帰ってください!!」


 フェニアの声が一段大きくなった。


 群衆。


「おお!」


「今の御声!」


「神託だ!」


「違います!!」


 戻ってきた。


 顔が赤い。


「二度とやりません」


「何言われた?」


「聞かないでください」


「風呂?」


「聞かないでください!」


 当たりらしい。


     ◇


「ミコ」


「はい」


「何か方法ない?」


「ございます」


「買収以外で」


「…………」


「今捨てた案何?」


「皆様へ旅費をお渡しし、お帰りいただく案です」


「金で帰すな!」


「では」


 ミコが一枚の紙を見せる。


「整理券を配布し、一日五十名まで――」


「見学施設にするな!」


「難しいですね」


「お前ならもっと頭使えるだろ!」


「レオン」


 ミコが穏やかに笑う。


「簡単な方法はございます」


「何?」


「皆様が求めているものを一度だけ与えればよいのです」


「求めてるもの?」


「六人の姿です」


「……なるほど」


「遠くから来た者の中には、一目拝見できれば帰る者も多いでしょう」


「でも出たら余計盛り上がらない?」


「長時間対応するからです」


「じゃあ?」


「全員で出て」


「うん」


「レオンが『今日は終わり』と言う」


「俺?」


「はい」


 六人が揃って頷いた。


「何で俺なの?」


 ルビィ。


「一番言うこと聞くから」


「誰が?」


「私たち」


「…………」


 確かに。


「やるか」


     ◇


 十分後。


 玄関前。


 俺。


 その後ろ。


 ルビィ。


 シロ。


 フェニア。


 ライカ。


 ミコ。


 リヴィだけは小さな水球に入って、俺の横に浮いている。


『楽ちん』


「今日は特別な」


『はーい』


 扉を開ける。


「…………」


 一瞬。


 外が止まった。


 六大神獣。


 全員。


 揃っている。


「お……」


「おお……!」


「六柱……!」


 膝をつこうとする人々。


「座らなくていい!」


 止める。


「そのまま!」


 何人か中途半端な姿勢で止まった。


「楽にして!」


 今度は逆にどうしていいか分からなくなっている。


「普通に立って!」


 ようやく立った。


 俺は一歩前へ出る。


「えーっと」


 何百人いるんだこれ。


「みんな」


 静かになる。


「遠くから来てくれた人もいると思う」


 頷く人々。


「でも」


 俺は後ろを見る。


 六人。


「こいつら今、休んでるから」


 ライカが少し目を逸らした。


 特にお前な。


「毎日見世物みたいになるのは困る」


「…………」


「この家は神殿でも観光地でもない」


 世界樹を見る。


「世界樹はあるけど」


 小さく笑いが起きる。


「六大神獣もいるけど」


 さらに笑い。


「それでも」


 一度。


 言葉を切る。


「ここは俺たちの家だから」


 静かになった。


「だから今日は」


 手を振る。


「これ見たら帰って」


 ルビィが俺の真似をして手を振る。


「またね!」


 シロも小さく。


「ばいばい」


 フェニアは上品に頭を下げる。


「お気をつけて」


 ライカ。


「道中の安全を祈る」


 ミコ。


「また町でお会いしましたら、その時は普通にお声がけください」


『魚持ってきてー』


「リヴィ!」


『だめ?』


「餌付けされるな!」


 笑い。


 さっきまで異様な緊張感だった群衆から。


 普通の笑い声が上がった。


「…………」


 前にいた老人が立ち上がる。


「レオン殿」


「はい」


「一つだけよろしいでしょうか」


「何?」


「六大神獣様方は」


 老人は少しだけ微笑んだ。


「ここでは幸せなのですかな?」


「俺に聞く?」


 振り返る。


「お前らどう?」


「幸せ!」


 ルビィ。


「うん」


 シロ。


「もちろんです」


 フェニア。


「これ以上ないほど」


 ライカ。


「はい」


 ミコ。


『楽しいー』


 リヴィ。


「だそうです」


 老人が。


 深く。


 でも今度は礼拝ではなく。


 普通の挨拶みたいに頭を下げた。


「それならば、邪魔をしてはいけませんな」


「……ありがとうございます」


「皆!」


 老人が振り返る。


「帰ろう!」


 今度こそ。


 人々が動き始めた。


「おお……」


「帰ってる」


 ルビィが驚く。


「本当に」


 シロ。


「ミコすごいな」


「いいえ」


 ミコが首を振る。


「レオンだからでしょう」


「何で?」


「さあ」


 笑って誤魔化された。


     ◇


 一時間後。


 家の前。


「静か……」


 ほとんど誰もいない。


 近所の人が普通に歩いているだけ。


「やった」


 俺は感動した。


「これで仕事行ける!」


「今から?」


 ルビィ。


「もちろん」


「もう昼近い」


「遅刻だけど行く!」


 俺は急いで鞄を持つ。


「店長に謝らないと」


「レオン」


 ミコ。


「はい」


「一つだけ問題が」


「何?」


「先ほどの様子が」


「うん」


「記録水晶で撮影されておりました」


「…………」


「撮影?」


「はい」


 嫌な予感。


「どこに出る?」


「恐らく王都中の映像板へ」


「…………」


 ライカが言う。


「各国にも伝わるだろう」


「何で!?」


 フェニア。


「六大神獣全員が一堂に会することは、歴史上ほぼございませんので」


「家の玄関だぞ!?」


「それでもです」


 シロ。


「レオンも映ってた」


「俺まで!?」


 ルビィが笑顔になる。


「有名になるね!」


「なりたくない!」


 俺は頭を抱える。


 外の巡礼者は帰った。


 家の前も静かになった。


 なのに。


 その日の夕方。


《百年ぶりに帰還した謎の飼育員と六大神獣》


 という見出しが。


 王都中に。


 そして各国へ。


 一斉に流れた。


「…………」


 仕事から帰った俺は。


 家の前で。


 新しく届いた手紙の山を見つめていた。


「これ何?」


 ミコが一枚取る。


「王宮」


 もう一枚。


「神殿」


 ライカ。


「雷帝国政府」


 フェニア。


「天鳳聖教会」


 ルビィ。


「私の国からも来てる!」


 シロ。


「北も」


『海からも来てるー』


「海から手紙どうやって来たの!?」


 そして。


 一番上。


 豪華な封筒。


《レオン・ハルト殿へ》


 その下。


《王国国王より、正式な謁見を願う》


「…………」


 俺は封筒を見た。


 六人を見る。


 もう一度封筒を見る。


「行かなきゃ駄目?」


 六人が。


 揃って。


 頷いた。


「……普通の飼育員が国王に呼ばれるかよ」


 どうやら。


 家の前を静かにすることには成功した代わりに。


 今度は。


 国そのものが。


 俺へ会いに来いと言い始めたらしい。


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