↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界最強の神獣たちを育てた飼育員、百年後に目覚めたら全員俺の家に住み着いた ~竜王も神狼も俺の前では昔のままです~  作者: てへろっぱ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/30

第23話 六大神獣と暮らしているだけなのに、ご近所会議が始まった



 翌朝。


 俺は珍しく、誰にも押し潰されずに目を覚ました。


「……軽い」


 右腕が動く。


 左腕も動く。


 足元にも誰もいない。


 窓の外に顔を押しつけたリヴィも――いや、こいつはいる。


『おはよー』


「おはよう」


 それでも寝室には入っていない。昨日貼った《この家の決まり》が、早くも効果を発揮したらしい。


「やればできるじゃん」


 ちょっと感動しながら寝室を出ると、居間ではルビィたちが朝食を待っていた。


 ルビィは椅子に座りながら腹を鳴らし、シロは机へ顎を乗せている。ライカはすでに身支度を整えていたが、昨日より顔色がいい。ミコはお茶を淹れ、フェニアは――。


「…………」


「おはようございます、レオン」


 妙に艶々していた。


「お前、今日は綺麗だな」


「!」


 フェニアの顔が一瞬で明るくなる。


「そ、そうでしょうか?」


「ああ。羽根もふわふわだし」


「…………」


「やっぱ毎日風呂入った方がいいだろ?」


「今の褒め言葉を返してください!」


「何で!?」


 フェニアが机へ突っ伏した。


 昨夜、全員がかりで温泉へ送り込まれた結果、ずいぶん長湯したらしい。風呂嫌いなのか好きなのか、いまだによく分からない。


「でも気持ちよかったでしょ?」


 ルビィが聞くと、フェニアは顔を伏せたまま小声で答えた。


「……温泉そのものには罪はありません」


「じゃあ今日も」


「それと毎日入浴することは別問題です」


「別じゃない」


 シロがばっさり切る。


「百年間もそれで通してきたのですから、今さら生活習慣を――」


「フェニア」


「はい?」


 俺は壁を指差した。


 四番。


 **毎日風呂に入る。**


「…………」


「読める?」


「読めます」


「今日もな」


「……はい」


 しょんぼりした。


 よし。


 家のルールは順調に機能している。


 少なくとも俺はそう思っていた。


「じゃあ朝飯作るか」


 台所へ向かおうとした、その時だった。


 こんこん。


 玄関が叩かれる。


「こんな朝早く誰だ?」


「ミコが買った土地の人?」


 ルビィが何でもないように言う。


「元住民って言え! あとその話まだ完全に許したわけじゃないからな!」


「皆様、喜んで移転されましたよ」


 ミコが穏やかにお茶を飲んでいる。


「市場価格の三倍で」


「金で全部解決するな!」


「五倍をご希望でしたか?」


「そうじゃない!」


 もういい。


 俺は玄関へ向かった。


「はい」


 扉を開ける。


 そこにいたのは、五人の男女だった。


 一番前には、恰幅のいいおばさん。隣に白髪のお爺さん。その後ろにも、この辺りで何度か顔を見た住民が並んでいる。


「おはようございます」


「お、おはようございます」


 おばさんが俺の家の中をちらりと覗いた。


「レオンさん、だったかしら?」


「はい」


「少しお話がありましてね」


「どうぞ?」


「その……」


 また家の中を見る。


 俺も振り返る。


 ルビィ。


 シロ。


 フェニア。


 ライカ。


 ミコ。


 全員、普通にこちらを見ている。


 窓の向こうにはリヴィ。


『誰ー?』


「近所の人」


『おはよー』


 水槽の中から手を振る。


 住民五人の顔が引きつった。


「それで、お話って?」


「……まず」


 おばさんが覚悟を決めたように言った。


「昨日、あなたのお宅から、とても大きな悲鳴が聞こえまして」


「悲鳴?」


 誰だ。


 少し考える。


「ああ」


 フェニアを見る。


「お風呂ですか?」


「やっぱり何かあったの!?」


「いや、風呂嫌いを入れただけです」


「その説明で安心できると思います!?」


 背後でフェニアが立ち上がった。


「レオン! 近隣の方へそのような説明をなさらないでください!」


「でも事実だろ」


「せめて言い方というものが!」


 おばさんがフェニアを見る。


「……昨日、『嫌ですー!』と叫んでいたのは」


「私です」


「『離してください!』と」


「私です」


「『私はもう大人です!』とも」


「…………私です」


「何をされていたんです?」


「入浴です」


「入浴だけで!?」


 ごもっとも。


 お爺さんが恐る恐る口を挟んだ。


「それからですね。夜中に何度か雷鳴が聞こえましてな」


 今度は全員。


 ライカを見る。


「…………」


「お前?」


「昨夜は私ではない」


「本当?」


「天然の雷だ!」


「そっか」


 お爺さんはライカの髪の周囲に一瞬走った小さな放電を見た。


「今、雷が……」


「静電気だ」


「青白く光りましたが」


「強めの静電気だ」


「便利な言葉覚えたな」


「レオン!」


 さらに別の男性が手を挙げる。


「あの、家の裏から水音もするんですが」


「それはリヴィ」


『はーい』


「……リヴィさん?」


「はい」


『海皇リヴ――』


「ただのリヴィ!」


『むぐ』


「余計なこと言うな!」


 危ない。


 まだ近所ではこいつらの正体を隠しているのだ。


「大きい水槽で暮らしてまして」


「家より大きいですが」


「本人の希望で」


「そんな魚いるんですか?」


「魚じゃないです」


 水槽から声。


『魚じゃないよー』


「喋った!?」


 まずい。


「あー……珍しい魔獣で」


『神獣だよー』


「リヴィ!!」


『間違えた』


「間違えるところじゃない!」


 住民五人が顔を見合わせる。


 完全に怪しまれている。


「と、とにかく!」


 俺は無理やり笑った。


「ちょっと騒がしい同居人が増えただけなんで!」


「ちょっと……?」


 おばさんが再び家の中を見る。


 その時。


 ルビィの腹が。


 ぐううううううう。


 かなり大きな音を立てた。


「…………」


「…………」


「ごめん」


 ルビィが恥ずかしそうに腹を押さえる。


「朝ご飯まだだから」


 おばさんの顔が少し緩んだ。


「あらまあ」


「すみません」


「若い子はお腹空くものねえ」


「若い……」


 ルビィが嬉しそうだ。


「何歳?」


 俺が小声で聞く。


「言わない!」


「百――」


「レオン!」


 怒られた。


 すると、おばさんは手にしていた籠からパンを取り出した。


「よかったら、これ。今朝焼いたばかりだから」


「いいんですか?」


「もちろん」


 ルビィの目が輝く。


「ありがとうございます!」


「ちゃんとお礼言えるじゃん」


「当然だよ!」


 パンを受け取ったルビィが、俺ではなくおばさんへ頭を下げた。


 その姿を見て、おばさんも少し安心したらしい。


「まあ、昨夜の騒ぎが事件じゃなかったならいいんだけどね」


「すみません。なるべく静かにさせます」


「なるべくじゃなくて、静かにしてね」


「はい」


 そこは俺も気をつけよう。


 何しろこいつら、本人たちにその気がなくても規模がでかい。


「それから」


 お爺さんが家の横を指差した。


「昨日までなかった部屋が増えておりますな?」


「…………」


 俺はミコを見る。


 ミコは笑顔。


「増築しました」


「一日で?」


「はい」


「……随分早い」


「優秀な職人を手配しましたので」


「そこまでは普通なんだけどな」


 問題は地下だ。


 絶対言えない。


「さらに、その裏手にですね」


「まだあるんですか?」


「今朝、散歩をしておりましたら」


「はい」


「庭の端に見覚えのない扉がありまして」


「…………」


 俺は止まった。


「扉?」


「ええ。昨日まではなかったような」


 ゆっくり。


 ミコを見る。


「ミコ」


「はい?」


「何か作った?」


「…………」


「今、間があったよね?」


「増築はしておりません」


「質問変える。新しいもの作った?」


「…………」


「ミコ」


「小さなものを」


「何!?」


 ミコは少し困ったように微笑んだ。


「裏門です」


「どこへ繋がる?」


「この土地の裏手へ」


「普通じゃん」


「正確には、各神獣領へ接続可能な転移門です」


「全然普通じゃない!」


 住民五人。


「…………転移門?」


「違います!」


 俺は即答した。


「勝手口です!」


「しかし今、転移――」


「最近の勝手口は便利なんです!」


「そうなの?」


「たぶん!」


 百年寝ていた俺が言うことではない。


「ミコ!」


「はい」


「後で話!」


「承知しました」


「あと今すぐ使用禁止!」


「はい」


 するとルビィが残念そうに言う。


「じゃあ私の城から直接来られないの?」


「普通に歩いて来い!」


「遠いよ!」


「お前飛べるだろ!」


「目立つってレオンが言った!」


「じゃあ転移魔法!」


「それも目立つ!」


 シロ。


「走る」


「シロはそれでいい」


「三国境越えるけど」


「店で牛乳買う感覚で国境越えるな!」


 フェニア。


「私の聖域からですと、一日ほどかかります」


「休みの日に来い!」


 ライカ。


「私の場合は軍事的な問題が――」


「お前は今休暇中!」


『私は水路ー』


「リヴィはどこまで伸ばす気だ!」


『海まで』


「絶対駄目!」


 気づけば。


 近所の五人は。


 口を開けて俺たちを見ていた。


「…………」


「…………」


「…………」


「すみません」


 俺は頭を下げた。


「ちょっと騒がしい家なんです」


 おばさんが。


 しばらく黙ったあと。


「ちょっと?」


「……かなり」


「でしょうねえ」


 でも。


 何故か笑っていた。


「まあ、悪い人たちじゃなさそうだし」


「本当ですか?」


「ただし」


 指を一本立てる。


「夜は静かに」


「はい!」


「庭で爆発させない」


「はい!」


「大きな魚を飛ばさない」


「…………」


「見られてた?」


「街中から見えてたわよ」


「リヴィ」


『ごめんなさーい』


「それから、突然土地を買い占めない」


 ミコ。


「…………」


「返事」


「はい」


「近所の人にまで言われてるじゃん!」


 おばさんたちは笑いながら帰っていった。


 玄関を閉める。


「…………」


 俺は振り返った。


 六人。


「家族会議」


「また?」


 ルビィ。


「またです」


 俺は壁の《この家の決まり》へ向かう。


 八つ目。


 筆を取る。


 **近所に迷惑をかけない。**


「これ」


 全員を見る。


「一番大事だからな」


「はい」


「分かった」


「承知しました」


「了解した」


「はい」


『はーい』


「よし」


 その時。


 また。


 こんこん。


「今度は誰だ?」


 玄関を開ける。


 先ほどのおばさんだった。


「あら、ごめんなさい。言い忘れてたわ」


「何です?」


「今度、この辺りの住民で歓迎会をするのよ」


「歓迎会?」


「ええ。新しく越してきた人も多いから」


「へえ」


「あなたたちも来ない?」


「いいんですか?」


「もちろん」


 おばさんが家の中を覗く。


「同居人の皆さんも」


 六人。


 ぴくっ。


「みんな?」


「ええ」


「普通の地域の歓迎会ですよね?」


「普通の、って何?」


「何でもないです!」


 俺は振り返る。


「行く?」


「行く!」


 ルビィが即答。


「レオンも?」


 シロ。


「行くよ」


「では私も」


 フェニア。


「地域住民との交流は重要だ」


 ライカ。


「楽しそうですね」


 ミコ。


『私もー』


「リヴィはどうやって来るんだ?」


『水槽ごと』


「来るな!」


 おばさんが水槽を見て笑った。


「庭でやるから、水槽の近くでもいいわよ」


『やったー!』


「いいんだ!?」


「賑やかな方が楽しいでしょう?」


「…………」


 普通の人。


 強い。


 こうして。


 百年後に始まった俺たちの生活は。


 神獣だとか。


 国家だとか。


 世界だとか。


 そういう大きな話とはまるで関係なく。


 次は。


 **町内の歓迎会**


 へ参加することになった。


 俺としては。


 今までで一番普通の予定だった。


 ただ。


「レオン」


「何?」


 ミコが笑顔で聞いてきた。


「歓迎会への手土産は、金貨千枚ほどでよろしいでしょうか」


「普通の菓子折りにしろ!!」


 やっぱり。


 普通に参加するだけでも。


 かなり大変そうだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。