第21話 六大神獣が全員そろったら、家が狭すぎる
「増築はしないからな!」
「検討いたします」
「却下って意味分かる!?」
ミコは、にこにこしている。
その後ろでは。
ルビィ。
シロ。
フェニア。
ライカ。
そして窓の外のリヴィ。
全員が、微妙に俺から目を逸らしていた。
「お前ら」
「…………」
「何で誰も俺の味方しないの?」
「増築」
シロがぽつり。
「ちょっと欲しい」
「裏切った!」
「だって狭い」
「狭くしたの誰だよ!」
「みんな」
「自覚あるんじゃん!」
実際。
狭い。
元々、この家は一人暮らし用だった。
小さな寝室。
小さな居間。
小さな台所。
小さな風呂。
そこに今。
俺。
ルビィ。
シロ。
フェニア。
ライカ。
ミコ。
そして庭にはリヴィ。
六大神獣が全員集まっている。
「……よく入ってるな」
改めて見るとすごい。
ルビィとライカは背が高い。
フェニアもすらっとしている。
シロは小柄な方だが尻尾が場所を取る。
ミコは――。
「ミコ」
「はい?」
「尻尾」
「何でしょう」
「九本全部出す必要ある?」
「落ち着きますので」
「場所取ってる!」
ふわふわ。
九本。
居間の一角を完全に占拠している。
「一本にできない?」
「できます」
「じゃあ――」
「嫌です」
「できるのに!?」
「百年ぶりにレオンへ見ていただいておりますので」
「尻尾を?」
「はい」
「……まあ立派にはなったけど」
俺が一本を触る。
「ふわふわだな」
「っ」
ミコの肩が跳ねた。
「どうした?」
「……何でもございません」
「?」
「もう一度お願いします」
「お前も撫でられたい側か!」
シロの耳が立った。
「私も」
「増えるな!」
ルビィまで寄ってくる。
「私も!」
「お前は鱗だろ!」
「頭!」
「はいはい!」
気づけば。
俺の前に。
世界最強の神獣たちが並んでいる。
「何これ」
「順番」
シロ。
「そういう問題じゃない」
ルビィ。
「私は二番!」
「何で勝手に決めた」
フェニア。
「私は最後でも構いません」
「一番大人だな」
「その代わり長めに」
「前言撤回!」
ライカ。
「私は不要だ」
「本当?」
「当然だ」
俺は頭を撫でる。
「っ!?」
「嫌だった?」
「…………」
「ライカ?」
「もう一度」
「お前もか!」
『私はー?』
「リヴィは水槽から出てこい!」
『じゃあいいー』
「諦め早っ!」
ミコが小さく笑った。
「皆、変わりませんね」
「お前もな」
「私は百年前より随分成長いたしましたよ」
「勝手に近所の土地買う方向に?」
「それは成長の結果です」
「悪い成長だな!」
◇
「それで」
俺は食卓に全員を集めた。
正確には。
集めようとした。
「…………」
椅子。
四脚。
人数。
六人。
「足りないな」
「私は立つ」
ライカが即答。
「駄目」
「何故だ」
「休暇中」
「立つことと休暇は関係ない」
「座れ」
「……はい」
フェニアが椅子を譲ろうとする。
「私は――」
「お前も座る」
「ですが」
「全員同じ」
「はい」
結局。
木箱を二つ持ってきた。
「ミコと俺これでいい?」
「私はレオンの隣でしたら何でも」
「そういう言い方するな」
ルビィがすぐ反応する。
「待って!」
「何?」
「何でミコだけ隣なの!?」
「たまたまだよ!」
「私も隣がいい!」
「席一つしかない!」
シロ。
「反対側」
「もうライカ座ってる!」
「詰める」
「詰めない!」
ライカが真顔で言う。
「私は膝でも構わない」
「誰の!?」
「レオンの」
「お前が一番大胆になってない!?」
雷帝。
休暇二日目。
壊れるの早くない?
「とにかく!」
俺は手を叩く。
「家の話!」
全員が静かになる。
「今の家」
「うん」
「狭い」
ルビィ。
「認める」
「でも!」
俺は指を立てた。
「勝手な増築は禁止」
「…………」
「返事」
「はい」
「分かった」
「承知しました」
「……分かった」
「はい」
ミコだけ笑顔。
「ミコ」
「はい?」
「一番怪しい」
「心外です」
「周辺一帯買った奴が言うな」
「合法です」
「合法なら何してもいいわけじゃない!」
ミコが少し首を傾げる。
「では、レオンが許可した範囲だけ」
「それならいい」
言ってから。
五人の目が光った。
「…………待て」
嫌な予感。
「許可した範囲って、まだ何も許可してないぞ」
「もちろんです」
ミコが紙を取り出した。
「何それ」
「案です」
「早い!」
広げる。
図面。
かなり細かい。
「いつ作ったの?」
「本日午後に」
「俺仕事中!」
「はい」
嫌な予感しかしない。
「えーっと」
一階。
居間。
台所。
寝室。
風呂。
ここまではいい。
その横。
《炎竜用休憩室》
「いらない」
「いる!」
ルビィ。
《神狼用日向ぼっこ庭》
「いらない」
「いる」
シロ。
《天鳳用浴室》
「お」
俺はフェニアを見る。
「これはいるな」
「なぜ私だけ即採用なのです!?」
「風呂入れ」
「そこまで専用にしなくても!」
《雷帝用執務室》
「いらない」
「必要だ」
ライカ。
「休暇中」
「緊急時のみ」
「駄目」
「国が滅びそうな場合は?」
「その時は働け」
「では必要だ」
「…………小さい机一個」
「妥協しよう」
《九尾用書庫》
「ミコ」
「はい」
「これ何冊置くつもり?」
「最低十万冊」
「最低!?」
「百年間で集めた資料がございますので」
「図書館じゃん!」
そして。
《海皇用屋内水路》
「…………」
窓を見る。
リヴィ。
『ほしい』
「家の中まで泳ぐ気!?」
『便利』
「床びしょびしょになるだろ!」
『水路だから大丈夫』
「そういう問題じゃない!」
最後。
中央。
《レオン専用室》
「…………」
妙に広い。
「何で俺の部屋だけこんなに広いの?」
全員。
目を逸らす。
「何で!?」
ミコが説明する。
「皆が集まりやすいように」
「集まるな!」
「寝室兼談話室です」
「寝室を談話室にするな!」
ルビィ。
「ベッド大きくしよう!」
「しない!」
シロ。
「全員入れる」
「入れない!」
ライカ。
「雷雨の日にも安心だ」
「お前だけ理由が具体的!」
フェニア。
「寝具は最高級のものを」
「今ので十分!」
『水槽も横に置けるー?』
「絶対置かない!」
俺は図面を丸めた。
「却下!」
「全てですか?」
ミコ。
「全て!」
「では第二案を」
「もうあるの!?」
「第三案まで」
「仕事早すぎる!」
「百年準備しましたので」
「何を準備してたんだよ!」
その言葉に。
ミコだけではなく。
皆が少し静かになった。
「…………」
俺も気づく。
「百年……」
「はい」
ミコが微笑む。
「もしレオンが戻られたら」
「うん」
「どこに住んでいただこう」
「…………」
「何を食べていただこう」
「…………」
「どのような生活なら喜んでくださるだろう、と」
ルビィも。
「私も考えてた」
シロ。
「家」
フェニア。
「何度も」
ライカ。
「私は安全な城塞を想定していた」
『私は水辺ー』
「リヴィは自分基準だな」
『うん』
「堂々と言うな」
でも。
百年間。
こいつらは。
俺が戻るか分からないのに。
ずっと考えていたのか。
「…………」
弱いな。
こういうの。
「分かった」
全員が俺を見る。
「増築」
「!」
「必要最低限なら考える」
「やった!」
ルビィ。
「条件」
「はい!」
「俺が決める」
「…………」
「普通の家の範囲」
「…………」
「城にしない」
「…………」
「神殿にしない」
「…………」
「要塞にも宮殿にもしない」
ライカが目を逸らす。
「今要塞考えた?」
「少し」
「却下」
「はい」
「とりあえず」
俺は家の中を見る。
「寝る場所だけは増やそう」
今夜も全員寝室に来たら。
本当に寝る場所がない。
「二部屋くらい」
「六部屋」
ミコ。
「二」
「五」
「二」
「四」
「二!」
「三」
「…………」
「ミコ」
「はい」
「商人みたいな値切り方するな」
「では三部屋で」
「話聞け!」
結局。
俺が押し切られ。
「三部屋」
になった。
「ただし普通の大きさ!」
「はい」
「変な設備なし!」
「はい」
「地下もなし!」
「…………はい」
「今の間何!?」
「残念です」
「何作る気だったんだよ!」
聞かない方がいい気がする。
◇
翌朝。
「行ってきます」
「いってらっしゃい!」
「早く帰ってきて」
「お気をつけて」
「六時までだぞ」
「いってらっしゃいませ」
『いってらっしゃーい』
俺は仕事へ向かった。
今日は。
家の増築について。
ミコが普通の大工を手配する。
そう約束した。
「普通の大工」
何度も言った。
「普通の材料」
それも言った。
「普通の三部屋」
ちゃんと確認した。
「よし」
大丈夫だ。
◇
夕方。
「ただいまー」
家へ帰る。
「…………」
俺は止まった。
家。
ある。
よかった。
平屋。
変わってない。
「本当に普通だ」
ちょっと感動。
家の横。
新しい部屋が三つ増えている。
木造。
同じ外壁。
同じ屋根。
「おお……」
ちゃんと普通だ。
「ミコ!」
「お帰りなさいませ」
玄関からミコ。
「すごいじゃん!」
「何がでしょう?」
「普通!」
「…………」
「普通に増築できてる!」
「褒められている気がいたしません」
「褒めてる!」
中へ。
三部屋。
「いいな!」
一部屋目。
普通。
二部屋目。
普通。
三部屋目。
普通。
「やればできるじゃん!」
ミコがにこっと笑う。
「ありがとうございます」
「いやあ、心配して損した」
「そうですか」
「うん」
「では」
ミコが壁の一部を押した。
「?」
がこん。
床が開いた。
「…………」
階段。
地下へ。
「…………」
「ミコ」
「はい」
「地下なしって言ったよね?」
「これは地下ではございません」
「どう見ても地下!」
「地下への入口です」
「同じだよ!!」
「内部は亜空間となっておりますので」
「もっと駄目!!」
奥から。
ルビィの声。
「レオン!」
「何!?」
「温泉できたよ!」
「やっぱり作ってんじゃねえか!」
シロ。
「庭も」
「何で!?」
フェニア。
「書庫もございます」
「共犯!」
ライカ。
「緊急指揮所も最低限にした」
「お前まで!!」
『レオーン』
「リヴィは何!?」
『水路つながったー』
「全部やってんじゃねえかあああああ!!」
俺の家。
見た目。
普通の平屋。
内部。
どうやら。
完全に普通ではなくなったらしい。
「ミコ!」
「はい」
「全部元に戻す!」
「一度ご覧になってからでも?」
「駄目!」
「温泉だけでも?」
「…………」
「レオン」
ルビィが顔を出す。
「すっごく気持ちいいよ」
「…………」
シロ。
「露天」
「…………」
フェニア。
「広すぎず、落ち着いた造りです」
「…………」
ライカ。
「疲労回復効果もある」
「…………」
リヴィ。
『泳げるー』
「お前は風呂を泳ぐな!」
俺は。
少しだけ考えた。
「……見るだけな」
全員の顔が輝いた。
「やった!」
「見るだけ!」
「うん!」
「採用とは言ってないから!」
「分かってる!」
絶対分かってない。
百年後。
俺が求めたのは。
ただの小さな家だった。
それなのに。
住人が六大神獣になった結果。
外見だけ普通の。
とんでもない家へと。
少しずつ。
確実に。
変わり始めていた。




