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世界最強の神獣たちを育てた飼育員、百年後に目覚めたら全員俺の家に住み着いた ~竜王も神狼も俺の前では昔のままです~  作者: てへろっぱ


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第18話 雷帝様、三千人の前で子供に戻る



『私は一人だ!!』


「後ろの三千人は何なんだよ!!」


『勝手についてきた!!』


「帰らせろおおおお!!」


『私もそう言っている!!』


 晴れ渡った空に雷鳴が響く。


 俺は《もふもふ魔獣店ポッケ》の前で、遠い空を見上げていた。


 まだ姿は見えない。


 なのに声だけは届く。


「レオン君」


「はい」


「知り合い?」


 店主が聞いてくる。


「昔育ててた仔です」


「…………」


「何です?」


「最近、君の『昔育ててた』が怖くなってきたよ」


「普通ですよ?」


「三千人の騎士が追いかけてくる知り合いは普通じゃない」


「確かに」


 そこは否定できない。


 通りでは人々が騒ぎ始めている。


「雷帝様が来られるぞ!」


「何故この街に!?」


「三千の雷帝騎士団まで!?」


「戦争か!?」


「店長」


「何だい?」


「早退していいです?」


「行っておいで」


「即答ですね」


「ここに雷帝様が来る方が困る」


「ですよね!」


 エプロンを外す。


「すみません!」


「明日はちゃんと来てね」


「もちろんです!」


「その『もちろん』も最近信用できなくなってきたなあ」


 俺だって普通に働きたい。


 本当に。


     ◇


 城門へ向かうにつれ、人が増えていった。


 騎士。


 兵士。


 役人。


 野次馬。


 そして。


「レオン!」


「あ」


 ルビィ。


「迎えに来た!」


「何でお前らまでいるの?」


 シロ。


「ライカが来るから」


 フェニア。


「さすがに街中がこの騒ぎでは、家で待っている方が不自然かと」


「リヴィは?」


「水槽」


 シロが答える。


「行くの面倒って」


「一貫してるなあいつ」


 俺たちは城門前へ向かった。


 そこではすでに大勢の兵士たちが整列している。


 そして。


 ごろごろごろごろ。


 雷鳴。


 空の彼方。


 一つの人影が見えた。


「……飛んでる?」


「走ってる」


 シロが言う。


「空を?」


「うん」


「どういう仕組み?」


「雷を足場にしてる」


「百年後すごいな」


「ライカだけ」


「そっちか」


 その人影が。


 一気に近づいてくる。


 金色の髪。


 長身。


 黒を基調とした軍服。


 肩には豪華な外套。


 腰には剣。


 そして。


 頭には。


「…………」


 でかい王冠。


「普通の服で来いって言ったよな?」


 ルビィが小声で言う。


「努力した結果だと思う」


「これで!?」


 フェニアが苦笑する。


「恐らく雷帝国基準では簡素なのでしょう」


「基準がおかしい!」


 どんっ!


 女性が城門前へ着地する。


 地面へ雷が走る。


 周囲の兵士たちが一斉に跪いた。


「雷帝ライカ様!」


「雷帝陛下に敬礼!」


 すごい。


 さっきまでのルビィたちとはまた違う。


 立っているだけで空気が張り詰める。


 鋭い金色の瞳。


 微動だにしない表情。


 背筋もまっすぐ。


 いかにも軍人。


 いかにも王様。


「…………」


 ライカが俺を見る。


「久しぶり」


「…………」


「ライカ?」


「…………」


 動かない。


「おーい」


 次の瞬間。


 王冠が。


 ぽとっ。


 落ちた。


「え?」


 ライカの目から。


 ぼろっ。


 涙。


「レオン……」


「うん」


「本当に……」


「ああ」


「本当に、レオンなのだな……?」


「そうだって」


 ライカが一歩。


 また一歩。


 こっちへ来る。


 そして。


 走った。


「レオン!!」


「おっと!」


 抱きつかれた。


「生きていた……!」


「生きてる生きてる!」


「百年……!」


「うん」


「百年間、私は……!」


「分かったから!」


 俺の肩へ顔を埋める。


 さっきまでの威厳。


 どこ行った?


 周囲を見る。


「…………」


「…………」


「…………」


 三千人近い騎士が。


 全員。


 固まっている。


 特に先頭にいた立派な鎧の男なんて、口が開いたままだ。


「雷帝……様……?」


 ライカは聞いていない。


「レオン」


「ん?」


「怪我はないか?」


「ない」


「本当に?」


「ああ」


「食事は?」


「食ってる」


「睡眠は?」


「取ってる」


「住居は?」


「ある」


「警備は?」


「ない」


「やはり騎士を――」


「いらない!」


 戻った。


「レオン!」


「普通の家に三千人来たら潰れる!」


「三千は多い。私もそう思う」


「だったら後ろ見ろ!」


 ライカが振り返る。


 三千の騎士。


「…………」


 騎士たちもライカを見る。


「お前たち」


「はっ!」


「帰れと言ったはずだ」


 先頭の騎士が即答する。


「お断りいたします!」


「何故だ!?」


「雷帝陛下が百年来探し続けた御方へ単身会いに向かわれるなど、護衛として看過できません!」


「私に護衛が必要だと思うか!?」


「必要ございません!」


「では帰れ!」


「しかし我々の心が耐えられません!」


「知らん!!」


 何だこの軍隊。


「ライカ」


「なんだ?」


「部下、お前に似たな」


「…………」


 ライカが少し目を逸らした。


「心外だ」


「そっくり」


 シロが言う。


「否定できませんね」


 フェニア。


「絶対ライカの教育だよ」


 ルビィ。


「三人とも黙れ!」


 ライカの顔が赤い。


「で」


 俺はライカを見る。


「元気だった?」


「……ああ」


「ちゃんと飯食ってる?」


「食べている」


「寝てる?」


「当然だ」


「本当?」


「…………」


「ライカ?」


「一日四時間ほど」


「少ない!」


「問題ない」


「昔から寝不足になると機嫌悪かっただろ」


「今は違う!」


「目の下」


「……」


「ちょっと隈あるぞ」


「…………」


 俺はライカの頬を軽く引っ張った。


「働きすぎ」


「レ、レオン!?」


「今日は寝ろ」


「だが政務が」


「部下いるんだろ」


「いるが」


「じゃあ任せろ」


「しかし――」


「返事」


 ライカの身体がぴしっと固まった。


「…………はい」


 周囲。


 再び静寂。


「…………」


「…………」


「…………」


 俺は騎士たちを見る。


「どうした?」


 先頭の騎士が震えていた。


「陛下が……」


「ん?」


「休めと言われて……」


「うん」


「素直に……」


「昔からそうだぞ?」


「あり得ない……」


「何で?」


 騎士は両手で顔を覆った。


「我々が十年間お願いしても休まれなかったのです……!」


「十年!?」


 俺はライカを見る。


「お前!」


「違う!」


「何が!」


「完全に休まなかったわけではない!」


「じゃあどれくらい?」


「年に……」


「うん」


「三日ほど……」


「少なすぎるわ!」


「政務が多いのだ!」


「部下使え!」


「任せるのが不安で――」


「昔から何でも自分でやろうとするなって言っただろ!」


「…………」


「覚えてる?」


「……覚えている」


「じゃあ休む」


「はい」


 三千人の騎士たち。


 何故か。


 一斉に俺へ頭を下げた。


「ありがとうございます!!」


「うわっ!」


 声でかい。


「な、何?」


 先頭の騎士が俺の手を握る。


「どうか!」


「はい?」


「どうか陛下を一週間ほどお預かりください!」


「は?」


「できれば一ヶ月!」


「待て」


「半年でも!」


「増やすな!」


 ライカが怒鳴る。


「私を何だと思っている!」


「働きすぎる陛下です!」


「貴様!」


「事実です!」


 部下強いな。


「でも」


 俺は考える。


 一週間。


「ちょうどいいか」


「レオン?」


「うち、今一週間だけ三人泊めてるし」


 三人。


 視線を逸らす。


「……一週間だけの予定だからな?」


「うん!」


「もちろん」


「その予定です」


「お前ら何で言い方怪しいの?」


 俺はライカを見る。


「お前も泊まる?」


「…………」


「嫌なら別に」


「泊まる」


「即答」


「泊まらせてほしい」


「いいよ」


「!」


 ライカの顔が。


 ほんの少しだけ。


 嬉しそうに緩んだ。


「じゃあ決まり」


 三千の騎士。


 一斉に。


「おおおおおおお!!」


「何でお前らが喜ぶ!?」


「陛下が休暇を取られたぞ!」


「建国以来の奇跡だ!」


「祝砲を!」


「撃つな!!」


 雷帝国。


 大丈夫なんだろうか。


     ◇


「ところで」


 俺はライカを見る。


「荷物は?」


「必要最低限を持ってきた」


「偉い」


「当然だ」


「どれくらい?」


 ライカが後方を見る。


「…………」


 俺も見る。


 三千人の騎士のさらに後ろ。


 荷車。


 一台。


 二台。


 三台。


 四台。


 …………。


「ライカ」


「なんだ?」


「何台?」


「二百」


「どこが最低限!?」


「半分まで減らした!」


「元四百!?」


「私物だけではない! 護衛設備と執務室、緊急用雷撃砲、移動式玉座――」


「全部いらない!!」


「だが!」


「服!」


「ある」


「寝巻き!」


「ある」


「歯ブラシ!」


「ある」


「それだけで来い!」


「…………」


 ライカが三千の騎士を見る。


「聞いたか」


「はっ!」


「全て持ち帰れ」


「承知しました!」


 騎士たちの返事が。


 妙に嬉しそうだった。


「レオン」


「何?」


「一つだけ持っていってもいいか?」


「何?」


「枕」


「それはいい」


「……よかった」


「お前も枕持参派?」


 シロが反応する。


「当然」


「何個?」


「一つだ」


 シロが。


 少し悔しそうな顔をした。


「……負けた」


「何の勝負だよ」


 こうして。


 世界中から《雷帝》と恐れられる第五の神獣ライカは。


 三千人の騎士と二百台の荷車を全部追い返し。


 枕一個だけ抱えて。


 俺の小さな家へやって来た。


 そして。


「レオン」


「ん?」


「確認したい」


「何?」


「寝室はどこだ?」


「何で最初にそこ聞くの?」


 ライカの視線が。


 ルビィ。


 シロ。


 フェニア。


 三人へ向く。


「まさか」


 低い声。


「お前たち」


「…………」


「…………」


「…………」


「すでにレオンと同じ部屋で寝ているのではないだろうな?」


 三人が。


 ゆっくり。


 目を逸らした。


「…………」


 ライカの髪が。


 ばちっ。


 雷を纏った。


「おい」


 嫌な予感。


「ライカ?」


「抜け駆けは禁止だと」


 ばちばちばち。


「百年前に決めただろうがあああああ!!」


「家の中で雷出すなあああああ!!」


 一人増えただけで。


 俺の家は。


 昨日よりさらに狭く。


 そして騒がしくなった。


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