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世界最強の神獣たちを育てた飼育員、百年後に目覚めたら全員俺の家に住み着いた ~竜王も神狼も俺の前では昔のままです~  作者: てへろっぱ


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第17話 雷帝獅子様、来る前から騒ぎが大きすぎる



 翌朝。


「レオン」


「ん?」


「パン」


「自分で取れ」


「遠い」


「三十センチだぞ」


「レオンの方が近い」


「そういう問題じゃない」


 俺はシロの皿へパンを一枚置いた。


「ありがとう」


 尻尾が揺れる。


 右ではルビィが卵を三個まとめて食べている。


「お前、一個ずつ食えないの?」


「時間短縮!」


「何をそんなに急いでるんだ」


「レオンと一緒にいる時間が増える!」


「卵二個分くらいしか増えないぞ」


「大事!」


 よく分からない。


 正面ではフェニアが上品にスープを飲んでいる。


 そして窓の外。


『レオーン』


「何?」


『パン』


「お前まで!?」


 巨大水槽の中で、リヴィが口を開けていた。


『あー』


「昨日から完全に味しめたな!」


『あー』


「自分で食え!」


『水の中だとパンふやける』


「だったら陸に上がれ!」


『面倒』


「じゃあ諦めろ!」


『…………』


 リヴィの頬が膨らむ。


「そんな顔しても駄目」


『…………』


「駄目」


『…………』


「……一枚だけな」


『やった』


「俺、甘いのかな……」


「うん」


 シロが即答した。


「お前に言われたくない」


 そんな。


 いつも通り騒がしい朝だった。


 俺が仕事へ行く準備をしていると。


 こんこん。


 玄関が叩かれた。


「はいはい」


 扉を開ける。


 そこに立っていたのは、見覚えのある老人だった。


「おはようございます、レオン殿」


「あれ」


 ルビィの城にいた宰相だ。


「どうしたんです?」


「少々、お耳に入れておきたいことがございまして」


「俺に?」


「はい」


 宰相は妙に疲れた顔をしていた。


 まだ朝なのに。


「入りなよ」


「では失礼を――」


 中を見る。


 止まる。


「…………」


 ルビィ。


「おはよ!」


 シロ。


「おはよう」


 フェニア。


「ごきげんよう」


 窓の向こう。


『おはよー』


「…………」


 宰相がゆっくり目を閉じた。


「どうしたの?」


「いえ」


 深く息を吸う。


「この光景にも、いつか慣れる日が来るのでしょうか」


「普通だぞ?」


「絶対に普通ではございません」


 最近よく言われる。


「それで話って?」


「はい」


 宰相が真顔になる。


「雷帝国より、緊急使者が到着いたしました」


「雷帝国?」


 聞いたことがない。


「どこ?」


 ルビィを見る。


「ライカのところ」


「ライカ?」


 俺は手を止めた。


「……ああ」


 残る六大神獣の一柱。


 雷を纏う獅子。


 ライカ。


「元気なの?」


「元気」


 シロが答える。


「偉い?」


「かなり」


 フェニアが補足する。


「現在は山岳国家群をまとめる《雷帝》として君臨しています」


「へえ」


「へえ、ではございません!」


 宰相が入ってきた。


「昨夜、雷帝ライカ様が宮廷会議の最中に突然立ち上がられたそうです!」


「うん」


「その際、手にしていた王冠を落とされ!」


「うん」


「そのまま『レオンが戻った』とだけ仰って会議を中断!」


「うん」


「現在、雷帝国全土が国家非常事態でございます!」


「何で!?」


 俺が戻っただけだぞ。


「さらに!」


 宰相は続ける。


「雷帝直属騎士団が全軍出動準備!」


「は?」


「国境警備軍も移動を開始!」


「ちょっと待て」


「宮廷魔導師団は長距離転移術式の構築を開始しております!」


「何しに来るの!?」


「それが分からないため各国が震えているのです!!」


 朝から声でかいな。


「ライカ一人で来ればいいじゃん」


「まったくその通りでございます!」


 宰相が泣きそうだった。


「止められないの?」


「雷帝国側も現在必死で説得しているとのことです」


「何を?」


「『レオン殿に会うだけなら軍隊は必要ありません』と」


「当然だよ!」


 すると。


「……ライカらしい」


 シロがぽつり。


「どこが?」


「心配性」


「ああ」


 思い出した。


 ライカは昔から。


 何かあるとやりすぎる。


 俺が少し咳をしただけで。


 毛布。


 水。


 薬草。


 他の仔たち。


 全部俺のところへ集めてきた。


「でも軍隊はいらないだろ」


「百年で規模が大きくなっただけ」


「悪化してるじゃん」


 ルビィが腕を組む。


「ライカ、昔から真面目だからね」


「真面目?」


「うん」


 フェニアも頷く。


「六柱の中では最も規律を重んじます」


「へえ」


「責任感も強く」


「うん」


「部下からの信頼も厚く」


「立派じゃん」


「ただし」


 三人が黙った。


「ただし?」


 ルビィ。


「レオン関係になると」


 シロ。


「だめ」


 フェニア。


「少々、冷静さを失います」


「そんなに?」


 三人が揃って頷いた。


「……何したんだ俺」


「何も」


 シロが答える。


「何もしてない?」


「普通に育てただけ」


「じゃあ何で?」


「それが原因」


「分からん」


 宰相が咳払いする。


「そこで、レオン殿」


「はい?」


「可能であれば」


「うん」


「雷帝ライカ様へ、直接お言葉をいただけませんでしょうか」


「俺が?」


「はい」


「どうやって?」


 宰相が懐から小さな水晶を取り出した。


「こちらが遠距離通信用魔道具でございます」


「便利だな」


「雷帝国側と接続済みです」


「じゃあ話せばいい?」


「お願いいたします」


 水晶が光る。


 ぶん。


 低い音。


 そして。


『――聞こえるか』


 女性の声。


 低い。


 落ち着いている。


 威厳がある。


「あ」


『…………』


「ライカ?」


 沈黙。


「おーい」


『…………』


「聞こえてる?」


『…………』


「ライカ?」


『レオン』


「うん」


 それまで威厳たっぷりだった声が。


 一瞬で。


『レオン!!』


「うわっ!」


 水晶から大声。


「耳痛い!」


『本物か!? 本当にレオンなのか!?』


「本物本物!」


『怪我は!?』


「ない」


『病気は!?』


「ない」


『食事は!?』


「食ってる」


『住居は!?』


「ある」


『護衛は!?』


「いらない」


『必要だ!』


「いらない!」


『百年前、私はレオンを守れなかった! 今度こそ――』


「待て待て」


 やっぱり。


 真面目。


 そして重い。


「俺、普通に生活してるから」


『普通……?』


「そう」


『どの程度の警備体制だ』


「なし」


『…………』


「ライカ?」


『あり得ない』


「何で」


『せめて雷帝騎士団を一個師団――』


「いらない」


『千名』


「いらない」


『五百』


「値切るな」


『百』


「一人もいらない!」


『しかし!』


「俺んち小さいんだよ!」


『では城を建てる』


「建てない!」


 ルビィが笑いを堪えている。


 シロも口元が少し緩んでいる。


 フェニアまで肩が震えていた。


「お前ら笑ってる場合じゃないぞ!」


『誰かいるのか!?』


「あ」


『ルビィか!? シロか!? フェニアもいるな!?』


 三人が止まった。


『何故お前たちはもうレオンのところにいる!!』


 声が一段大きくなる。


「やば」


 ルビィが小声。


「ばれた」


 シロ。


「時間の問題でしたね」


 フェニア。


『抜け駆けは禁止だと言っただろう!!』


「そんな約束したの!?」


「百年前に」


 ルビィ。


「いつ!?」


「レオンが寝てる時」


「俺知らないじゃん!」


『待っていろ! 私もすぐ行く!』


「ライカ!」


『今から出る!』


「軍隊連れてくるなよ!」


『…………』


「今黙ったよな?」


『最低限にする』


「最低限何人?」


『三百』


「ゼロ!」


『五十』


「ゼロ!」


『十!』


「ゼロ!!」


『護衛一人だけ!』


「お前自身が世界最強なんだろ!?」


『…………』


「護衛いらないよな?」


『……理屈では』


「じゃあ一人で来い」


『…………分かった』


「本当に?」


『約束する』


「よし」


 これで安心だ。


『では』


「うん」


『礼装だけ整えて向かう』


「礼装?」


『正式な再会だからな』


「普通の服で来い」


『…………』


「ライカ?」


『努力する』


「服着るだけで努力が必要なの?」


 通信が切れた。


「…………」


 俺は水晶を見る。


「疲れた」


 宰相が深々と頭を下げた。


「ありがとうございます」


「これで軍隊来ない?」


「おそらく」


「よかった」


 宰相の顔には。


 まだ不安が残っている。


「何?」


「いえ」


「言って」


「雷帝ライカ様は……」


「うん」


「約束を破る御方ではございません」


「なら大丈夫じゃん」


「ただ」


「またただ?」


「解釈が独特でございます」


「…………」


 嫌な言葉を聞いた。


     ◇


 その日の昼。


 俺は普通に仕事へ行った。


 魔獣の餌。


 掃除。


 健康確認。


 今日も平和。


「いいなあ……」


「何が?」


 店主。


「普通って最高ですね」


「また言ってるねえ」


 そこへ。


 ごおおおおおおお……。


「…………」


 遠くで。


 雷。


「雨?」


「晴れてるけどねえ」


 空は青い。


 雲一つない。


 なのに。


 ごろごろごろごろ。


 雷鳴だけが近づいてくる。


「…………」


 俺は嫌な予感がした。


 店の前へ出る。


 通りの人々も空を見ている。


「何だ……?」


「雷?」


「晴天なのに?」


 さらに。


 どおん!


 城門の方角から何か大きな音。


「レオン君」


「はい」


「今日も普通じゃなさそうだね」


「言わないでください」


 その時。


 一人の騎士が通りを全力で走ってきた。


「道を空けろおおおお!!」


「どうした!?」


「雷帝国から使者だ!」


「使者?」


「雷帝ライカ様が国境を越えられた!」


「もう!?」


 速いな。


「しかも――!」


 騎士が息を整える。


「雷帝様お一人との報告だったが!」


「うん」


「その後方を!」


「うん」


「雷帝騎士団三千名が勝手に追いかけてきている!!」


「…………」


「…………」


「…………」


 俺は空を見た。


「ライカああああああ!!」


 遠く。


 雷鳴。


 そして。


 まだ姿すら見えないのに。


『私は一人だ!!』


 という大声だけが。


 街まで響いてきた。


「後ろの三千人は何なんだよ!!」


『勝手についてきた!!』


「帰らせろおおおお!!」


『私もそう言っている!!』


 なるほど。


 約束は守った。


 本人は。


 確かに一人で来た。


「……解釈が独特って、本人じゃなく部下の方かよ」


 どうやら。


 五柱目との再会は。


 姿を見る前から。


 すでに面倒なことになっていた。


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