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世界最強の神獣たちを育てた飼育員、百年後に目覚めたら全員俺の家に住み着いた ~竜王も神狼も俺の前では昔のままです~  作者: てへろっぱ


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第16話 世界最強の四柱、庭仕事では戦力にならない



「お前らあああああああ!!」


 朝。


 右腕にルビィ。


 左腕にシロ。


 足元にフェニア。


 窓の外にはリヴィ。


 昨日とほぼ同じ光景で目が覚めた。


「何でまた寝室にいる!」


「んぅ……」


 ルビィが俺の腕へ頬を押しつける。


「朝だから?」


「答えになってない!」


「……おはよう」


 シロは悪びれもしない。


「おはようじゃない。居間で寝る約束は?」


「寝始めた時は居間だった」


「途中で移動したら意味ないだろ!」


 足元。


 フェニアが毛布へ顔を埋めている。


「フェニア」


「私は止めました」


「じゃあ何でいる?」


「二人を連れ戻そうとして……」


「そのまま寝た?」


「…………はい」


「一番情けないぞ!」


 窓の外。


 こんこん。


『私は入ってない』


「入れないだけだろ!」


『えらい?』


「褒めない!」


『えー』


 朝から疲れる。


「全員起きろ!」


「あと五分」


 ルビィ。


「三分」


 シロ。


「私は十分ほど……」


 フェニア。


「増やすな!」


 俺は三人を布団から追い出した。


     ◇


 朝飯を作りながら。


「今日は俺、仕事だからな」


 三人へ改めて言う。


「知ってる」


 ルビィがパンを食べながら答える。


「夕方まで」


 シロ。


「帰宅後、水槽の移動ですね」


 フェニア。


「そう」


 今日は仕事が終わったら、リヴィの巨大水槽を裏庭へ移す。


「ちゃんと準備しといて」


「任せて!」


 ルビィが胸を張る。


「嫌な予感しかしない」


「何で!?」


「魔法使うなよ」


「…………」


「今使おうと思ってた?」


「ちょっとだけ」


「禁止」


 シロ。


「穴掘っておく」


「道具使ってな」


「爪の方が早い」


「人間の姿でやるって言っただろ」


「…………分かった」


 フェニア。


「必要な資材を手配しておきます」


「お、それは助かる」


「黄金神木と天界石を――」


「普通の木材と石!」


「耐久性が」


「普通でいい!」


 こいつらには何度言えば普通が伝わるんだ。


『レオン』


 窓の外からリヴィ。


「何?」


『水、いっぱい必要』


「今入ってる分を使う」


『新しい水がいい』


「贅沢言うな」


『海の水』


「ここ山の上!」


『持ってくる?』


「持ってくるな!」


 近所が海になる。


『じゃあ湖』


「今ので十分!」


『……けち』


「資源を大事にしてるの!」


 四柱そろうと、朝飯だけで会議が終わらない。


「とにかく!」


 俺は立ち上がった。


「俺は仕事へ行く」


 三人を見る。


「ついてくるな」


「…………」


「返事」


「はい」


「……はい」


「承知しました」


 窓。


「リヴィも!」


『水槽あるから無理ー』


「お前が一番安心だよ!」


     ◇


《もふもふ魔獣店ポッケ》。


「おはようございます」


「おはよう、レオン君」


 店主が店先を掃いていた。


「今日は一人かい?」


「はい!」


「随分嬉しそうだね」


「やっと普通に働けそうなので!」


「昨日も同じこと言ってなかったかい?」


「今日は本当です」


「そうだといいねえ」


 店主の信用がない。


 だが。


 今日は本当に平和だった。


「レオンさん!」


「はい」


「この子の爪お願いできますか?」


「いいですよ」


 小型魔獣の爪を切る。


「次」


「最近食欲がなくて……」


「ちょっと口見せて」


 歯を確認。


「奥歯が欠けてる。硬い餌やめた方がいいですね」


「ありがとうございます!」


 次。


 毛並み。


 耳。


 蹄。


 食事。


 普通の仕事。


「……いい」


「何がだい?」


 店主が聞く。


「平和です」


「仕事中に言う台詞かなあ」


「俺には大事なんです」


 誰も空から降ってこない。


 誰も屋根から見ていない。


 黄金の光もない。


「普通って素晴らしい」


「君、まだ二日目だよね?」


「色々あったんです」


「知ってるよ」


 昼。


 俺は店の裏で弁当を食べた。


「…………」


 何となく空を見る。


 赤い髪。


 ない。


 銀色の尻尾。


 ない。


 金色の光。


 ない。


「本当に来てない」


 ちょっと意外だ。


「……まあいいか」


 ちゃんと約束を守れるようになった。


 成長したんだ。


 百年以上生きてるけど。


     ◇


 夕方。


「お疲れさまでした!」


「お疲れさん」


 店を出る。


「よし」


 今日は何事もなかった。


 初めてまともな一日だった。


「帰るか」


 家まで歩く。


 途中で夕飯の材料を買う。


 卵。


 野菜。


 肉。


「今日はシチューにするかな」


 四人とも昔好きだった。


 リヴィも食べるだろう。


「ただいまー」


 家が見えてくる。


「…………」


 俺は止まった。


「……家、あるよな?」


 ある。


 よかった。


 昨日の荷物事件みたいに見えなくなってはいない。


 だが。


 庭。


「…………」


 穴。


 でかい穴。


 裏庭どころか。


 家の横まで大きく抉られている。


「何これ!?」


「あ!」


 穴の中からルビィが顔を出した。


「レオンおかえり!」


「ただいまじゃない!」


「え?」


「庭どうした!?」


「掘った!」


「誰が!?」


 三人が穴から顔を出す。


「みんなで」


 シロ。


「協力いたしました」


 フェニア。


「頑張ったよ!」


 ルビィ。


「頑張りすぎだよ!」


 俺は穴を覗く。


 深い。


 広い。


 家がもう一軒入りそうだ。


「水槽置く穴だろ!?」


「うん」


「何でこんなにでかい!?」


 シロが首を傾げる。


「余裕」


「何の!?」


「リヴィが大きくなっても」


「水槽が成長する前提やめろ!」


 フェニアが説明する。


「今後、第二水槽や休憩用水場が必要になる可能性も考慮しました」


「考慮しなくていい!」


 ルビィ。


「あと温泉!」


「何で!?」


「気持ちいいかなって」


「誰が!?」


「みんな!」


「リヴィの水場じゃなかったの!?」


 三人が顔を見合わせる。


「…………」


「途中から楽しくなった?」


「少し」


 シロ。


「かなり」


 ルビィ。


「私は止めようとしたのですが」


「フェニアは何した?」


「設計を」


「主犯じゃん!」


 頭が痛い。


「魔法使ってないよ!」


 ルビィが言う。


「本当?」


「うん!」


「どうやって掘った?」


「スコップ」


「それなら――」


 見る。


 スコップ。


 柄が折れている。


 十本くらい。


「…………」


「力加減が」


「スコップ殺しすぎ!」


 シロの横にも。


 壊れた鍬。


 壊れたシャベル。


 壊れたつるはし。


「道具屋に謝れ!」


「全部買った」


「そういう問題じゃない!」


 フェニアだけ道具が綺麗だ。


「お前は壊してないな」


「はい」


「偉い」


「指示だけでしたので」


「働いてないだけ!」


 水槽を見る。


 リヴィは中からこっちを見ている。


『レオン』


「何?」


『みんな頑張った』


「頑張り方が間違ってる!」


『でも』


 リヴィが穴を見る。


『楽しみ』


「…………」


 嬉しそうだ。


「まあ……」


 穴はでかすぎる。


 でも。


 使えないことはない。


「埋め直すのも大変だしな」


「じゃあ!」


 ルビィの顔が明るくなる。


「使っていい?」


「水槽が入る範囲だけ!」


「温泉は?」


「なし!」


「えー!」


「遊園地じゃないぞ!」


 シロ。


「小さい池」


「水槽あるだろ!」


「泳ぎたい」


「お前狼じゃん!」


「泳げる」


「そういう問題じゃない!」


 フェニア。


「では露天風呂を」


「風呂嫌いなお前が言うな!」


「皆でなら……」


「一人でも入れ!」


 収拾がつかない。


「とにかく」


 俺は買ってきた荷物を置く。


「今日は水槽移すぞ」


「うん!」


「分かった」


「準備は整っております」


『やった』


「ただし」


 四人を見る。


「俺の指示に従う」


「「「はい」」」


『はーい』


「勝手なことしない」


「「「はい」」」


『はーい』


「魔法も神力も使わない」


「「「はい」」」


『…………』


「リヴィ?」


『水ないと動けない』


「あ」


 そうだった。


「お前だけ必要最低限」


『いっぱい使う』


「最低限!」


『……はーい』


     ◇


 そして。


 一時間後。


「右!」


「右!」


「シロ、そっち引っ張りすぎ!」


「分かった」


「ルビィ押すな!」


「押してない!」


「水槽傾いてる!」


「フェニア!」


「はい!」


「下の木材!」


「今です!」


 ぎしぎしぎし。


 巨大水槽を。


 人型の神獣三人と俺で移動させる。


 もちろん俺の力などほとんど役に立っていない。


 だが。


「せーの!」


「はい!」


「ん」


「行きます!」


 ずずずず。


「おお!」


 少しずつ動く。


『レオン』


「何!」


『揺れる』


「我慢しろ!」


『酔う』


「海皇が水槽で酔うな!」


『気持ち悪い』


「目閉じとけ!」


『はーい』


 何とか。


 本当に何とか。


「もう少し!」


 水槽が穴の中へ。


「ゆっくり!」


「うん!」


「慎重に」


「この位置ですね」


「よし!」


 どん。


 水槽が収まった。


「…………」


 一同。


 沈黙。


「できた……」


 俺は地面へ座り込んだ。


「できた!」


 ルビィが跳ねる。


「完成」


 シロも少し嬉しそう。


 フェニアは汗を拭く。


「魔法を使わない作業というのも、悪くありませんね」


『レオン』


「ん?」


 水槽。


 リヴィが。


 にこにこしている。


『ありがとう』


「どう?」


 リヴィが周囲を見る。


 家。


 庭。


 水槽。


 そして俺。


『すごくいい』


「そっか」


『ここ好き』


「ならよかった」


 何だろう。


 ただ水槽を移しただけなのに。


 ちょっと嬉しい。


「よし!」


 俺は立ち上がった。


「夕飯にするぞ!」


「やった!」


「お腹すいた」


「私もです」


『私もー』


「今日はシチュー」


 四人が止まった。


「…………」


「何?」


 ルビィ。


「昔の?」


「ああ」


 シロの尻尾が揺れる。


「好き」


 フェニアも微笑む。


「懐かしいですね」


 リヴィ。


『いっぱい』


「鍋一つ分!」


『二つ』


「一つ!」


『……一つ半』


「交渉するな!」


 その夜。


 小さな平屋。


 その横には巨大水槽。


 食卓には四柱の神獣。


「いただきます!」


「いただきます」


「いただきます」


『いただきまーす』


 俺はふと思った。


「…………」


「レオン?」


「どうしたの?」


「いや」


 昨日まで。


 この家は俺一人で住む予定だった。


 それが今では。


 赤。


 銀。


 金。


 青。


 四人分の声。


「狭くなったなって」


 ルビィが笑う。


「もっと狭くなるよ!」


「何で?」


「まだいるから!」


「…………」


 シロも頷く。


「あと二人」


「忘れてた!」


 フェニアが楽しそうに言った。


「そろそろ気づいている頃では?」


「何に?」


「レオンが戻ったことです」


「…………」


 俺はスプーンを止めた。


 そうだ。


 まだ。


 ライカ。


 ミコ。


 二人がいる。


「まあ」


 俺はシチューを口へ運ぶ。


「そのうち来るだろ」


 三人が顔を見合わせた。


『うん』


 リヴィだけ。


 妙にのんびり答えた。


 俺は知らなかった。


 その頃。


 遥か遠く。


 雷鳴轟く山岳国家で。


 一人の女性が。


 俺の名を聞いた瞬間。


 **持っていた王冠を落としていたことを。**


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