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世界最強の神獣たちを育てた飼育員、百年後に目覚めたら全員俺の家に住み着いた ~竜王も神狼も俺の前では昔のままです~  作者: てへろっぱ


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第11話 初出勤くらい普通にさせてくれ



「ルビィ」


「…………」


「何してる」


「…………通りすがり?」


「帰れえええええ!!」


 朝の城下町に、俺の声が響いた。


 屋根の端から見えていた赤い髪が、びくっと揺れる。


「だ、だって!」


 ルビィが顔を出した。


「レオンの初仕事だよ!?」


「だから何だ!」


「心配じゃん!」


「俺は子供じゃない!」


「でも百年ぶりのお仕事だし!」


「百年寝てただけだから昨日まで働いてた感覚なんだよ!」


「私には百年ぶりなの!」


 またそれか。


 何でもかんでも百年分で押し通すのをやめてほしい。


「とにかく降りてこい」


「怒らない?」


「内容による」


「それ怒るやつ!」


「いいから」


 ルビィが屋根から飛び降りる。


 とん。


 昨日までなら地面が割れそうな着地だったが、今日は普通だ。


「お」


「なに?」


「静かに降りられたじゃん」


「えへへ」


「偉い偉い」


「!」


 頭を軽く撫でる。


 ルビィの顔がぱあっと明るくなった。


「もう一回!」


「何でだよ」


「今のもう一回!」


「帰ったらな」


「絶対ね!」


「はいはい」


 そこで。


「…………」


 視線を感じた。


 店主。


 俺を見る。


 ルビィを見る。


 俺を見る。


「……知り合い?」


「昔から」


「そうかい」


 店主がルビィを見る。


 ルビィはにこにこしている。


「お嬢さん、随分立派な服だけど」


「あ」


 ルビィが自分を見る。


 どう見ても高級品だ。


 胸元には炎竜皇の紋章まで入っている。


「似た服が好きで!」


 無理がある。


「そうかい」


 店主は頷いた。


 絶対信じてない。


 しかし何も聞かないでいてくれた。


 いい人だ。


「それより」


 俺は店の前を見る。


 三十匹以上の魔獣。


「何でこんなに集まってるんです?」


「それが分からなくてねえ」


 店主が困った顔をする。


「普段この辺りじゃ見ない種類までいるんだ」


「どれ」


 近づいてみる。


 すると。


 ぶわっ。


 また一斉に尻尾が振られた。


「…………」


 一歩下がる。


 止まる。


 一歩進む。


 ぶわっ。


 下がる。


 止まる。


 進む。


 ぶわっ。


「面白いな」


「遊んでないで原因を考えてくれないかい!?」


「すみません」


 しゃがむ。


 一番近くにいた角兎が寄ってきた。


「おいで」


 手を出す。


 すんすん。


 匂いを嗅ぐ。


 次の瞬間。


 ぺろ。


「懐っこいな」


「その子、野生の角兎だよ?」


「そうなの?」


「普通は人間に近づかない」


「へえ」


 今度は翼のある猫。


「お前も?」


「にゃあ」


 俺の膝に乗った。


「軽いな」


「それ、飛猫獣」


「うん」


「警戒心が強くて捕獲難度三級」


「そうなの?」


「昨日から君の『そうなの?』を何度聞いたか分からないよ」


 店主が頭を抱える。


 俺にも分からない。


「でも」


 角兎の耳を見る。


 立っている。


 飛猫獣の尻尾。


 ゆっくり揺れている。


 周囲の魔獣も。


 緊張している感じじゃない。


「怯えて集まってきたわけじゃないな」


「分かるのかい?」


「たぶん」


 俺は立ち上がった。


 少し離れたところにいる大型魔獣を見る。


 牛に似ている。


 ただし角が四本。


 身体の横に古い傷。


「お前」


 近づく。


「ちょっと脚見せて」


 牛型魔獣が座った。


「えっ」


 店主が声を漏らす。


「どうした?」


「それ、岩角牛だ」


「うん」


「成獣を座らせるには専門の調教師が三人いる」


「そうなの?」


「またそれ!」


 俺は前脚を触る。


「……やっぱり」


「何かあるのかい?」


「蹄が伸びすぎ」


「蹄?」


「ほら」


 店主も見る。


「あ……」


「歩きにくかったんだろ」


 軽く蹄の周辺を押す。


 岩角牛が鼻を鳴らした。


「これ切ってやれば楽になる」


「できる?」


「道具があれば」


「ある!」


 店主が飛んでいった。


 何だ。


 普通に飼育員の仕事じゃないか。


 ちょっと安心した。


「レオン」


 後ろからルビィ。


「ん?」


「かっこいい」


「蹄見てるだけだぞ」


「かっこいい」


「そうか?」


「うん!」


 昔もこんなことを言っていた気がする。


 まだ幼かったルビィは、俺が他の仔を治療するたびに横でじっと見ていた。


「そういやお前、よく手伝いたがったな」


「覚えてる!?」


「薬箱ひっくり返したけど」


「そこは忘れて!」


 店主が道具を持って戻ってくる。


「これでいいかい?」


「十分です」


 俺は岩角牛の蹄を整え始めた。


 伸びた部分を少しずつ削る。


「暴れないのか……」


「痛いことしなきゃ大丈夫ですよ」


「いや、この種は気性が荒いんだよ」


「こいつ別に荒くないですよ」


 岩角牛の首を掻く。


「な?」


「ぶもぉ」


「ほら」


「ほらじゃないんだけどねえ……」


 十分ほど。


「よし」


 最後に脚を地面へ。


「歩いてみろ」


 岩角牛が立ち上がる。


 一歩。


 二歩。


「どう?」


「ぶもっ!」


 軽く走った。


 そのまま店の前を一周。


「おお」


 動きが明らかに軽い。


「よかったな」


「ぶもおお!」


 俺のところへ戻ってくる。


「おっと」


 巨大な頭を擦りつけられた。


「痛い痛い! 角!」


「ぶもっ」


「嬉しいのは分かったから!」


 店主が呆然としている。


「……君」


「はい?」


「今日、初出勤だよね?」


「そうですよ」


「僕の店、もう任せていい?」


「早いですよ!」


 まだ一時間も働いていない。


 その時だった。


「きゃああっ!」


 通りの向こうから悲鳴。


「何だ?」


 一頭の魔獣が走ってくる。


 大きな犬型。


 首輪が千切れている。


「暴走魔獣だ!」


「逃げろ!」


 人々が道を空ける。


 犬型魔獣は興奮していた。


 目が見開いている。


 口から唾液。


「レオン!」


 ルビィが一歩前へ出る。


「待て」


「でも!」


「俺が見る」


「危ないよ!」


「お前が出た方が危ない」


「え?」


「街ごと燃えるだろ」


「燃やさないよ!」


「本当に?」


「…………たぶん」


「後ろにいろ」


「はい」


 犬型魔獣が近づく。


 周囲は逃げている。


 俺はその場でしゃがんだ。


「おい」


「グルルルル……!」


「大丈夫」


「グルル!」


「怖かったな」


 低い声。


 耳が寝ている。


 尻尾も下。


 怒っているんじゃない。


「首輪が切れた時、何か大きい音したか?」


「グル……」


「びっくりして走っただけだろ」


 ゆっくり手を出す。


「来い」


「グルル……」


「大丈夫だから」


 一歩。


 魔獣が近づく。


「そうそう」


 もう一歩。


「偉い」


 そして。


 俺の手へ鼻先を近づけた。


 匂いを嗅ぐ。


 次の瞬間。


「くぅん」


「よし」


 頭を撫でる。


 終わり。


「…………」


 通りが静かだった。


「飼い主さんいる?」


「あ、はい!」


 若い女性が走ってきた。


「ご、ごめんなさい!」


「首輪壊れてる」


「突然鐘が鳴って、驚いて……!」


「ああ」


 なるほど。


「今度少し太めのにした方がいいですよ」


「はい!」


「あとこいつ音怖いみたいだから、鐘が鳴る場所では近くにいてあげて」


「分かりました!」


 犬型魔獣が飼い主の横へ戻る。


「良かったな」


「わふっ」


 女性が何度も頭を下げて帰っていった。


「よし」


 俺も店へ戻ろう。


 そう思ったら。


「…………」


 またみんな俺を見ている。


「何?」


 店主がぽつり。


「……三級魔獣だよ」


「へえ」


「だから!」


「?」


「普通、素手で止めない!」


「攻撃してないじゃん」


「暴走してたんだよ!」


「怖がってただけですよ」


「それが分かるのが普通じゃないんだよ!」


 そうなのか。


 百年前は普通にやってたぞ。


「レオン」


 ルビィが後ろで胸を張っている。


「何でお前が得意そうなの?」


「だってレオンだから!」


「説明になってない」


 すると。


 店の前に集まっていた魔獣たちが、一斉に近づいてきた。


「お?」


 角兎。


 飛猫獣。


 岩角牛。


 他の魔獣たちまで。


 俺の周囲に座る。


「…………」


 何だこれ。


 店主が呟いた。


「まるで……」


「?」


「君を待ってたみたいだ」


「俺を?」


 そんなわけ――。


「レオン」


 ルビィが俺の服を摘まんだ。


「ん?」


「たぶん」


「何?」


「匂い」


「俺臭い!?」


「違う!」


 即座に否定された。


「昔からレオンって、私たちが安心する匂いするの」


「初耳なんだけど」


「だからみんな分かるんじゃない?」


「何を?」


 ルビィが笑った。


「この人なら大丈夫って」


「…………」


 俺は周囲の魔獣を見る。


 みんな俺を見ている。


「そうなのか?」


「わふ」


「ぶも」


「にゃ」


「……まあ」


 悪い気はしない。


「よろしくな」


 そう言って手を出した瞬間。


 どどどどどどっ!


「うわあああ!」


 一斉に寄ってきた。


「待て待て待て! 一匹ずつ!」


 潰される!


「順番!」


 俺が叫ぶ。


 ぴたっ。


 全員止まった。


「…………」


「よし」


 一匹ずつ並び始める。


 店主の口が開いた。


 ルビィは嬉しそうに笑っている。


「ほら」


「何?」


「レオン、やっぱり飼育員だね」


「当たり前だろ」


 百年経っても。


 世界が変わっても。


 俺ができることは、どうやら変わっていないらしい。


     ◇


 その頃。


 俺の家。


「…………」


 シロが玄関に座っていた。


 じーっ。


 扉を見る。


「まだ?」


 フェニアが本を読みながら答える。


「出勤して一時間ほどですよ」


「長い」


「夕方までです」


「…………」


 シロの耳がぺたんと下がる。


「長い」


「我慢なさい」


「フェニアは平気?」


「もちろんです」


「…………」


「…………」


 フェニアが本を閉じた。


「少しだけ様子を見に行きましょうか」


 シロの耳が立った。


「行く」


「ですがレオンに見つかってはいけません」


「分かった」


「遠くからです」


「うん」


「絶対にお仕事の邪魔はしません」


「うん」


 二人は頷き合った。


 そして玄関を開ける。


「……ところで」


「なに?」


「ルビィはどこでしょう」


「…………」


 二人が止まった。


 シロが空気の匂いを嗅ぐ。


「…………レオンのところ」


 フェニアの笑顔が固まった。


「まあ」


「抜け駆け」


「まあまあまあ」


 にこにこ。


 だが。


 その背後から黄金の炎が漏れている。


「行く」


「ええ」


 こうして。


 俺が、


「初出勤くらい普通にさせてくれ」


 と願ったその日。


 世界最強の神獣三柱が。


 俺の職場へ集合することが決定した。


 もちろん。


 俺の許可は――。


 一切なかった。


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