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世界最強の神獣たちを育てた飼育員、百年後に目覚めたら全員俺の家に住み着いた ~竜王も神狼も俺の前では昔のままです~  作者: てへろっぱ


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第10話 普通に仕事を探したいだけなんだが



「今日は仕事を探す」


 朝飯を食べ終えた俺は、三人の前で宣言した。


「仕事」


 シロが繰り返す。


「ああ」


「本当に?」


 ルビィがものすごく不満そうだ。


「昨日も言っただろ」


「でもレオン、働かなくても暮らせるよ?」


「誰の金で?」


「私!」


「それが嫌なの!」


 百年後に目覚めて。


 昔育てていた神獣たちが世界最強になっていた。


 しかも三人とも俺の家に居座り始めた。


 だからといって。


 俺まで働かなくていい理由にはならない。


「俺はまだ二十八だぞ」


「百二十八では?」


 フェニアが言う。


「寝てた百年は数えない」


「では二十八ですね」


「だろ?」


「ですが、歴史上では百二十八歳です」


「ややこしいな!」


 とにかく。


「自分の飯代くらい自分で稼ぐ」


 三人が顔を見合わせる。


「なら」


 ルビィが手を挙げた。


「私の城で働けばいい!」


「何するの?」


「えっと……」


 考え始めた。


「…………」


「ないんだろ」


「私の隣にいる!」


「仕事じゃない!」


 シロも手を挙げる。


「北方の相談役」


「相談って何の?」


「何でも」


「給料は?」


「好きなだけ」


「駄目!」


「なぜ」


「仕事の内容より給料が先に決まってるじゃん!」


 最後。


 フェニア。


「聖域の名誉管理官はいかがでしょう」


「具体的には?」


「月に一度、聖域をご覧いただきます」


「それだけ?」


「はい」


「給料は?」


「国家予算の――」


「却下!」


「まだ金額を申し上げておりません!」


「聞かなくても高い!」


 三人とも。


 俺を養おうとするな。


「普通の仕事を探す」


「普通……」


 また三人が難しい顔をする。


「そんな難しい言葉じゃないだろ」


 俺は立ち上がった。


「じゃあ行ってくる」


「私も!」


「私も」


「私も参ります」


「来なくていい」


「「「えっ」」」


「昨日の役所の件忘れたの?」


 三人が黙った。


「俺が普通に仕事探してる横に、世界で一番有名な神獣が三人いたらどうなる?」


「……目立つ」


 シロ。


「だろ?」


「変装する!」


 ルビィ。


「昨日もそれ言ったよな」


「今日はもっとちゃんとする!」


「どうやって?」


 ルビィがくるっと一回転した。


「ほら!」


「何が?」


「普通の女の子!」


「昨日と何も変わってないぞ」


「髪まとめた!」


「そこ!?」


 シロはフードを被った。


「これなら平気」


「尻尾出てる」


「……あ」


 フェニアは眼鏡をかけた。


「いかがでしょう」


「何で眼鏡?」


「知的な一般市民です」


「神力だだ漏れなんだけど」


「…………」


「三人とも留守番」


 がーん。


 本当にそんな顔をした。


「昼には帰るから」


「……本当?」


 ルビィ。


「本当」


「消えない?」


 シロ。


「消えない」


「寄り道は?」


 フェニア。


「子供の親かお前ら!」


 どうして俺の方が心配されているんだ。


「行ってきます!」


「……行ってらっしゃい」


「早く帰ってきてね」


「お気をつけて」


 ようやく。


 俺は一人で家を出た。


     ◇


「おお」


 城下町の中心部へ来るのは初めてだった。


 昨日歩いた住宅街とは全然違う。


 店。


 宿。


 工房。


 冒険者らしき連中。


 魔道具を売る露店。


 空中を走る小さな荷車まである。


「百年ってすげえな」


 見ているだけでも面白い。


 ただし今日は観光ではない。


「仕事仕事」


 まず向かったのは、《職業紹介所》。


 看板くらいなら百年前と大して変わらない。


 中へ入る。


「いらっしゃいませ」


 受付にいた女性が笑顔を向けた。


「仕事探してるんだけど」


「はい。ご希望の職種はございますか?」


「飼育関係」


「飼育……ですか」


「ああ」


「魔獣のお世話など?」


「それが一番慣れてる」


「では職歴を」


「王立神獣育成所」


「…………」


 受付嬢の手が止まった。


「もう一度お願いできますか?」


「王立神獣育成所」


「…………あの」


「うん」


「六大神獣生誕の聖地として知られる?」


「今はそう呼ばれてるらしいな」


「百年前に閉鎖された?」


「そう」


「…………」


 受付嬢が俺を見る。


「おいくつですか?」


「二十八」


「…………」


「分かる。怪しいよな」


「大変申し上げにくいのですが」


「大丈夫。慣れた」


「経歴詐称は犯罪となります」


「だよね!」


 そうなるよなあ。


「証明できるものある?」


「当時の職員証などは?」


「百年前の地下に置いてきた」


「資格証は?」


「百年前の資格でも使える?」


「おそらく失効しております」


「だよなあ」


 困った。


「未経験扱いなら?」


「もちろんお仕事はございます」


「それでいい」


 受付嬢が何枚か求人票を出してくれた。


「こちらなどはいかがでしょう」


「どれどれ」


《牧場作業員募集》


 いいじゃん。


「大型草食魔獣への給餌、清掃、健康管理」


「これいいな」


「ただし」


「ん?」


「大型魔獣ですので、最低でも三級飼育資格が必要です」


「ない」


「こちらは?」


《愛玩魔獣店・補助員》


「これなら?」


「資格不要です」


「よし」


「ただし時給は低めですね」


「最初だし十分」


 場所を教えてもらう。


「ありがとう」


「いえ」


 受付嬢が少し心配そうに俺を見る。


「あの」


「ん?」


「先ほどのお話、本当なのですか?」


「どれ?」


「王立神獣育成所で働いていたという……」


「本当」


「では、六大神獣様とお会いしたことも?」


「毎日」


「…………」


「飯食わせてた」


「…………」


「寝床の掃除もしてた」


「…………」


「たまに噛まれた」


「えっ」


「甘噛みだけど」


「…………」


 やめよう。


 また変な目で見られ始めた。


「じゃ!」


「あ、はい……」


     ◇


 紹介された店はすぐ見つかった。


《もふもふ魔獣店 ポッケ》


「……もふもふ」


 百年前にはなかった名前の付け方だ。


「失礼します」


「はーい!」


 中から丸い体型のおじさんが出てきた。


「お仕事の応募かな?」


「はい」


「おお! 助かるよ!」


 店の中には小型の魔獣が何匹もいる。


 角の生えた兎。


 翼のある猫。


 手のひらサイズの蜥蜴。


「かわいいな」


「魔獣は好きかい?」


「好きですよ」


「触った経験は?」


「かなり」


「じゃあ簡単な試験をしよう」


「はい」


 店主が一匹の魔獣を連れてきた。


 黒い毛の小型犬みたいな生き物。


「この子なんだけどね」


「うん」


「最近すごく機嫌が悪くて」


「へえ」


「噛みつくから気をつけ――」


「耳」


「え?」


「右耳見せて」


 俺はしゃがむ。


 魔獣が低く唸った。


「大丈夫」


 ゆっくり手を出す。


「怒ってるんじゃないな」


「分かるのかい?」


「痛いんだろ」


 耳の付け根を軽く触れる。


 魔獣が小さく鳴いた。


「ほら」


「まさか……」


「炎症起こしてる」


 毛をかき分ける。


 赤い。


「薬ある?」


「あ、ある!」


「塗っていい?」


「もちろん!」


 薬を薄く塗る。


「よし」


 ついでに首を掻いてやる。


 さっきまで唸っていた魔獣が。


「くぅん」


 俺の手へ頭を擦りつけてきた。


「よしよし」


 店主が固まっている。


「……君」


「はい?」


「本当に未経験?」


「資格はないです」


「いやそうじゃなくて!」


「昔飼育員でした」


「どこで?」


「王立神獣育成所」


「またその話か」


「え?」


「最近流行ってるのかい?」


「何が?」


「自称・神獣飼育員」


「他にもいるの!?」


 なんだそれ。


「六大神獣様が有名だからねえ。昔から自分の先祖が世話したとか、転生した元飼育員だとか、そういう人は結構いるんだよ」


「迷惑だな」


「君が言うのかい?」


「本物なのに!」


 でも。


 店主は笑った。


「まあ経歴はともかく」


「信じてないな?」


「腕は確かだ」


「本当?」


「ぜひ働いてほしい」


「おお!」


 仕事。


 決まった。


 思ったより早かった。


「明日から来られるかい?」


「もちろん!」


「朝九時からでいい」


「分かりました」


「給料は――」


 条件を聞く。


 普通。


 実に普通。


 いい。


 こういうのでいいんだよ。


「よろしくお願いします!」


 俺は店主と握手した。


 百年後。


 ようやく。


 自分の仕事を見つけた。


     ◇


「ただいまー」


 昼過ぎ。


 俺は上機嫌で家へ戻った。


「レオン!」


 扉を開けた瞬間、ルビィが飛んできた。


「早かったね!」


「仕事決まったぞ」


「えっ」


 何故か笑顔が消えた。


 シロも近づく。


「どこ?」


「魔獣店」


「魔獣……?」


「小さい魔獣の世話」


 三人が黙った。


「何?」


 フェニアが尋ねる。


「その……雇い主は?」


「店主のおじさん」


 三人が少し安心した顔をした。


「何で?」


「別に」


「何でもない」


「お気になさらず」


「またそれ?」


「明日から働く」


「……何時まで?」


「夕方くらい」


 ルビィが考え込む。


「長い」


「普通だよ」


 シロ。


「私も行く」


「駄目」


「客として」


「絶対毎日来る気だろ」


「……」


「目逸らすな」


 フェニアが手を挙げた。


「では私も魔獣を購入するという名目で」


「欲しくないのに買うな!」


「では欲しくなります」


「努力して欲しくなるものじゃない!」


 まったく。


「お前らは留守番」


 三人が露骨に嫌そうな顔をする。


「明日の朝また言うからな」


「…………」


「返事」


「はーい」


「……はい」


「承知しました」


「よし」


 何とか仕事も決まった。


 身分証もできた。


 家もある。


 少々というか、かなり騒がしい同居人もいるが。


 百年後の生活は。


 思ったより順調に始まりそうだ。


 ――そう思っていた。


 翌朝。


「おはようございます、レオンさん!」


「……はい?」


 仕事先の《もふもふ魔獣店ポッケ》。


 開店前。


 俺の目の前には。


 店主。


 そして。


 昨日はいなかった大量の魔獣たちが並んでいた。


「何これ?」


「いやあ、それがね」


 店主が困ったように笑う。


「昨夜から急に、店の前に魔獣が集まり始めてさ」


「え?」


 犬型。


 猫型。


 鳥型。


 角のある奴。


 翼のある奴。


 大きいものまでいる。


 ざっと。


 三十匹以上。


 しかも全員。


「…………」


 俺を見ている。


 じーっ。


「何だ?」


 一歩近づく。


 全員が。


 ぶわっ!


 尻尾を振った。


「…………」


 店主が俺を見る。


「君」


「はい」


「何かした?」


「何もしてないです」


 その時。


 屋根の上から。


「くしゅん」


 小さなくしゃみ。


「…………」


 聞き覚えがある。


 俺はゆっくり顔を上げた。


 赤い髪が。


 屋根の端から少しだけ見えていた。


「ルビィ」


「…………」


「何してる」


「…………通りすがり?」


「帰れえええええ!!」


 どうやら。


 俺の初出勤も。


 普通には終わりそうになかった。


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