表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界最強の神獣たちを育てた飼育員、百年後に目覚めたら全員俺の家に住み着いた ~竜王も神狼も俺の前では昔のままです~  作者: てへろっぱ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/12

第12話 神獣三柱、ただの魔獣店に集合する



「次ー」


「わふっ!」


「はいはい。お前は耳な」


 俺は店の前に座り込んでいた。


 目の前には魔獣の列。


 角兎。


 飛猫獣。


 小型蜥蜴。


 岩角牛。


 知らない種類までいる。


 どういうわけか、朝から俺のところへ次々集まってきた。


「ちょっと赤いな」


 犬型魔獣の耳を見る。


「昨日雨に濡れた?」


「わふ」


「飼い主いる?」


「はい!」


 列の後ろから女性が手を挙げた。


「帰ったら耳の中をよく乾かして。薬はまだいらないと思う」


「ありがとうございます!」


「次」


「にゃー」


「お前は何?」


 飛猫獣が俺の膝へ乗る。


「……ただ撫でてほしいだけ?」


「にゃ」


「診察じゃないじゃん」


「にゃー」


「分かった分かった」


 頭を撫でる。


 ごろごろ。


「次の奴待ってるから退いて」


「にゃ」


 動かない。


「退いて」


「にゃ」


「…………」


 俺は店主を見る。


「これどうすれば?」


「君が聞くのかい?」


「だって退かない」


「僕は朝から君についていけてないよ」


 店主はすでに諦めた顔をしていた。


「初出勤の新人に、何で近所中の魔獣が列を作るんだろうねえ」


「俺が知りたいです」


「しかも暴走魔獣まで一声で止める」


「怖がってただけですよ」


「三級魔獣を素手で撫でながら言う台詞じゃないんだよ」


「そうなの?」


「君、本当にそれやめてくれない?」


 怒られた。


「レオン!」


 後ろから元気な声。


「ん?」


 ルビィが椅子に座っていた。


 いつの間に用意したんだ、その椅子。


「お水!」


「ありがとう」


 コップを受け取る。


「あとお菓子!」


「仕事中だから後で」


「じゃあ私が食べる!」


「お前が食いたかっただけじゃん」


「えへへ」


 何が「えへへ」だ。


 こいつは朝からずっといる。


 帰れと言っても、


「客だから!」


 の一点張り。


 ちなみに何も買っていない。


「店長」


「はい?」


「こいつ客扱いでいいです?」


「君が追い出せない人を僕が追い出せると思う?」


「確かに」


「どういう意味!?」


 ルビィが抗議している。


 その時だった。


「……レオン」


 聞き覚えのある声。


「?」


 振り返る。


 通りの向こう。


 深くフードを被った女性が一人。


 その隣。


 眼鏡をかけた金髪の女性。


「…………」


「…………」


「…………」


 俺は目を細めた。


「何してるの?」


 フードの女性が答える。


「買い物」


「シロ」


「違う」


「尻尾出てるぞ」


「……あ」


 フードの下から銀色の尻尾。


 ぶん。


 隠れた。


「遅い!」


 もう一人を見る。


「フェニア」


「どなたのことでしょう?」


「眼鏡意味ないから」


「…………」


「神力漏れてるぞ」


「……おかしいですね」


「何が?」


「人間社会では眼鏡を掛けると正体が分かりにくくなると書物に」


「どんな本読んだんだよ!」


 フェニアが眼鏡を外した。


「残念です」


「残念じゃない!」


 俺は立ち上がる。


「二人とも留守番って言ったよな?」


「言われた」


「申し付けられました」


「じゃあ何でいるの?」


 シロが答える。


「心配」


「何が?」


「レオン」


「俺は仕事してるだけ!」


 フェニアがにこやかに続ける。


「私どもは決して邪魔をいたしません」


「本当?」


「もちろんです」


「遠くから静かに見守るだけです」


「……なら」


 まだマシか。


「絶対騒ぐなよ」


「はい」


「分かった」


「神獣の力も使わない」


「はい」


「使わない」


「正体も明かさない」


「はい」


「うん」


「よし」


 俺が振り返る。


 すると。


「…………」


 ルビィとシロが目を合わせていた。


「シロ」


「なに」


「何で来たの?」


「レオンがいるから」


「私がいるのに」


「関係ない」


「ある」


「ない」


「ある」


「お前ら早速やめろ!」


「まだ騒いでない!」


「声に出てる時点で駄目!」


 二人が黙る。


 フェニアが小さくため息をついた。


「まったく。二人とも子供ですね」


「フェニア」


「はい?」


「お前も来てるからな?」


「私は監督役です」


「誰に頼まれた?」


「自主的に」


「一番駄目なやつ!」


 店主が俺の後ろから覗く。


「レオン君」


「はい」


「知り合いが多いねえ」


「昔の……」


 何て説明すればいい?


 神獣?


 駄目だ。


「家族みたいなものです」


 三人が固まった。


「…………」


「…………」


「…………」


「どうした?」


 ルビィの顔が赤い。


「か、家族……」


 シロの尻尾が高速で振られ始める。


「家族」


 フェニアは口元を押さえている。


「悪くありませんね……」


「何でそんな反応するの?」


 店主が俺の肩を叩いた。


「苦労してるね」


「分かります?」


「何となく」


 いい人だ。


     ◇


「よし。次」


 仕事を再開する。


 一匹の小さな魔獣が前へ出てきた。


 丸い。


 白い。


 毛玉に脚が四本生えたみたいな姿。


「かわいいな」


「きゅ」


「どこ悪い?」


 飼い主らしき少年が言う。


「ご飯食べなくなったんです」


「いつから?」


「昨日から」


「ちょっと見せて」


 口。


 目。


 腹。


「……腹張ってるな」


「病気ですか!?」


「たぶん食べすぎ」


「え?」


 俺は毛玉魔獣の口元を見る。


 少しだけ紫色。


「昨日、紫木の実食べた?」


 少年の顔が変わる。


「ぼ、僕のお姉ちゃんが持ってました」


「勝手に食べたな?」


「きゅ……」


 毛玉が目を逸らす。


「図星だ」


「きゅ」


「お前なあ」


 腹を軽く揉む。


「少し歩かせれば大丈夫だと思う」


「よかった……!」


「今日は餌少なめ」


「はい!」


「あと勝手に食べないように」


「きゅ」


「返事」


「きゅっ」


「よし」


 頭を撫でる。


 すると。


「…………」


 三人から視線。


「何?」


 ルビィが頬を膨らませる。


「撫でた」


「そりゃ撫でるだろ」


「私も」


「後で」


 シロ。


「私も」


「お前も後」


 フェニア。


「では私も」


「全員並ぶな!」


 三柱が本当に魔獣たちの列の最後へ並ぼうとした。


「お前ら患者じゃないだろ!」


 店主が腹を抱えて笑っている。


「はははは!」


「笑い事じゃないですよ!」


「いやあ、面白い友達だねえ!」


「友達……」


 ルビィが小さく呟く。


 何か不満そうだ。


「何?」


「何でもない!」


 またこれだ。


     ◇


 昼前。


 店内はすっかり賑やかになっていた。


 魔獣。


 飼い主。


 見物人。


「朝より増えてません?」


「増えたねえ」


「何で?」


「噂が広まったんだろう」


「何の?」


「『魔獣が自分から並ぶ新人店員』」


「嫌な呼ばれ方だな」


「悪くないと思うけど」


「普通の飼育員でいいです」


「もう無理じゃないかなあ」


「何で!?」


 その時。


 店の外から悲鳴が上がった。


「きゃあっ!」


「危ない!」


「逃げろ!」


「今度は何だ?」


 俺が外を見る。


 通りの向こうから。


 巨大な猪型魔獣が走ってくる。


 昨日の犬型よりずっと大きい。


 背中には岩のような甲殻。


 牙も太い。


「鎧猪だ!」


「四級魔獣だぞ!」


「騎士団を呼べ!」


 人々が逃げる。


 猪は興奮している。


「レオン」


 ルビィが立つ。


「座ってろ」


「でも」


「まず俺が見る」


 シロも立つ。


「危ない」


「大丈夫」


 フェニアも。


「せめて結界を」


「力使うなって言ったよな?」


 三人。


「…………」


「返事」


「はい」


「……分かった」


「承知しました」


「よし」


 俺は通りへ出る。


 猪が迫る。


「おーい!」


「ブオオオオオ!」


「止まれ!」


 止まらない。


「そりゃそうか!」


 でも。


 何か変だ。


 走り方。


 右側へ傾いている。


「……脚か?」


 よく見る。


 後ろ脚。


 何か刺さっている。


「なるほど」


 痛くて暴れてる。


「レオン!」


 ルビィの声。


「分かってる!」


 俺は道の真ん中に立つ。


「こっち!」


「ブオオオ!」


「そう!」


 猪が俺へ向かう。


 近い。


 かなり近い。


「店長」


「な、なんだい!?」


「縄!」


「ある!」


 投げてもらう。


 受け取る。


 猪が目前。


「今!」


 横へ避ける。


 首へ縄。


「よっ!」


 引く。


「ブオオ!?」


 当然。


 俺の力だけじゃ止まらない。


 身体ごと持っていかれる。


「うわっ!」


「レオン!」


 三人が同時に動こうとする。


「動くな!」


「!」


「大丈夫!」


 地面を滑りながら。


 縄を街路樹へ回す。


 一周。


 二周。


 速度が落ちる。


「ブオオ!」


「もうちょい!」


 三周。


 止まった。


「っしゃ!」


 俺はすぐ猪へ近づく。


「暴れるな」


「ブオッ!」


「脚だろ」


「ブ……」


「見せて」


 ゆっくり後ろへ。


 やっぱり。


 太い金属片が刺さっている。


「痛かったな」


 猪の鼻息が少し弱くなる。


「取るぞ」


 金属片を掴む。


「ちょっと痛いからな」


「ブ……」


「せーの」


 抜く。


「ブオッ!」


「よし!」


 血。


 でも深くない。


「店長、薬!」


「はい!」


 すぐに傷へ塗る。


 布を巻く。


「終わり」


「…………」


 猪が俺を見る。


「もう走るなよ」


「ブ……」


 巨大な鼻先が近づく。


「お?」


 すり。


 胸へ押しつけてきた。


「重い重い!」


「ブオ」


「分かったから!」


 周囲。


 しーん。


「…………」


「…………」


「…………」


「何?」


 騎士まで到着していた。


 剣を抜いたまま固まっている。


「鎧猪を……」


「素手で……?」


「素手じゃない。縄使ったぞ」


「そこではなく!」


 何なんだ。


 店主が走ってくる。


「君!」


「はい?」


「怪我は!?」


「ちょっと擦ったくらい」


「見せなさい!」


「大丈夫ですよ」


「駄目!」


 別方向。


「レオン!」


 ルビィ。


「怪我した!?」


「擦っただけ」


「見せて!」


 シロ。


「血」


「俺のじゃない!」


 フェニア。


「治癒します!」


「待て!」


 黄金の光。


「フェニア!」


「あ」


「力使うなって言ったよな!?」


「ですがレオンが!」


「擦り傷!」


「傷は傷です!」


「普通に薬塗れば治る!」


 三人が俺を取り囲む。


「どこ!?」


「見せて」


「こちらですか!?」


「落ち着け!」


 鎧猪よりこいつらの方が大変だ。


 その瞬間。


「…………」


 騎士の一人がフェニアを見る。


 黄金の光。


 金髪。


 あり得ないほど濃い神力。


「あ……」


 まずい。


 騎士の顔が青くなる。


「まさか……」


「違います」


 フェニアが即答した。


「しかし、その御力……」


「普通の治癒魔法です」


 全然普通じゃないらしい。


 周囲の人々までざわつき始める。


「さっきの赤髪の女性も……」


「銀髪の方もどこかで……」


「待て」


「まさか……」


 まずい。


 非常にまずい。


「三人とも」


「?」


「?」


「?」


「逃げるぞ」


「え?」


「今すぐ!」


 俺は三人の手を掴んだ。


「店長!」


「な、なんだい!?」


「昼休憩!」


「え?」


「ちょっと逃げてきます!」


「仕事中に言う言葉じゃないよ!?」


 俺たちは走った。


「レオン!」


 ルビィが嬉しそうだ。


「何!」


「手!」


「今そこ気にする!?」


「繋いでる!」


 シロが反対側を見る。


「私は?」


「今三人連れてるだろ!」


 フェニアまで笑う。


「これはこれで悪くありませんね」


「逃亡中だぞ!」


 背後から。


「お待ちください!」


「そちらの方々はもしや!」


「炎竜皇様では!?」


「言うなあああああ!!」


 こうして。


 百年後の俺の初出勤は。


 午前中だけで。


 魔獣を三十匹以上診て。


 四級魔獣を止め。


 三大神獣の正体がバレかけ。


 最後は職場から逃走するという。


 まったく普通ではないものになった。


 そして俺は。


 走りながら強く思った。


「明日は絶対一人で来るからな!」


 三人。


「「「えー」」」


「えーじゃない!!」


 どうやら。


 俺が普通の飼育員として働ける日は。


 まだまだ遠そうだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ