第二話 SNS裁判
米軍兵士の婚約者に「合鍵」を渡してないのに「合鍵」で襲わせられる──そんな事件を経験するなんて、数か月前の私には想像もつかなかった。
「ジェイソンさんには合鍵と、解錠方法のマニュアルを渡されました」
そう証言した闇バイトの男は、取り調べの後にあっさりと供述を修正した。
「……合鍵は盗まれたものでした。チェーンはかかっていたけど、あの人が、スッと入るやり方を教えてくれて」
聞いた瞬間、刑事たちの顔が凍りついた。
ジェイソンは米軍の特殊部隊出身。
訓練で解錠技術や侵入作戦を学んでいたらしい。
つまり──彼はそのスキルを「婚約者の愛を試す」なんて理由で使ったのだ。
そして最悪なのは、奴が「地位協定」のせいで逮捕されず、のうのうと解放されたことだ。
「理子、ほんとに大丈夫?」
心配してくれたのは、事件を担当した刑事、橘巡査部長。
眼鏡をかけた真面目そうな三十代男性で、落ち着いた声が印象的だった。
「ええ、身体は無事です。でも……あの人は絶対に反省なんてしません」
私がそう答えると、橘さんは苦い顔をした。
「正直、僕たちも手を出せない部分がある。でもね、世論には勝てない人間だっているんですよ」
その言葉に背中を押された。
私は証拠をまとめ、SNSに告発を投稿した。
ハッシュタグは #真実の愛(笑)。
翌朝。
タイムラインは地獄絵図になっていた。
「婚約者を闇バイトに襲わせた米軍兵士」
「愛の試練(笑)で地位協定利用」
怒りと嘲笑が入り混じったコメントが世界中から押し寄せ、ジェイソンの名前は一躍「炎上ワード」と化した。
米軍も放置できなかったらしい。
数日後、彼は軍法会議にかけられることになり、日本でのキャリアは終わった。
──そう、彼は日本の警察には守られた。
けれど、世論と米軍上層部には守られなかった。
これこそが、彼にふさわしい「ざまぁ」だ。




