第9話:初めて誰かのために、私は「嫌です」と言いました
「私は……、もうあなたの『物』ではございます」
私の震える、けれど芯の通った声が謁見の間に響きました。
アルフレート様は、信じられないものを見たというように目を見開きました。
「……何を、言っているんだ?エルナ、お前は自分を何様だと思っている。無能のくせに、私に口答えをするのか!」
「無能と呼ばれても、構いません。私は、魔法は使えませんから……。けれど、ギルバート様は、こんな私を『必要だ』と仰ってくださいました」
私は隣に立つギルバート様をそっと見上げました。彼は、驚いたような、そしてひどく愛おしそうな眼差しで私を見守ってくれています。
「あの日、森で死にかけていた私を拾い、温かな食事と居場所をくださったのは、この方です。……あなたが私を荷馬車に押し込んだ時、私たちの縁は、完全に切れたのですわ」
「黙れ!公爵令嬢の分際で、勝手に縁を切るなど許されるはずが……」
アルフレート様が逆上し、私を掴もうと一歩踏み出した、その時でした。
「――そこまでにしろ。不快だ」
ギルバート様の冷徹な声と共に、凄まじい威圧感が広間を圧しました。
アルフレート様は、まるで見えない壁に突き当たったかのようにその場に膝をつきました。
「エルナははっきりと拒絶した。……これ以上、俺の婚約者を冒涜するならば、貴様の国そのものを灰にしても構わないんだぞ?」
「ひっ……!」
ギルバート様の瞳は、黄金の輝きを増し、背後には巨大な獅子の幻影が実体化せんばかりに揺らめいています。
本物の王の怒りを前に、アルフレート様は無様に震え、床に手をつくしかありませんでした。
「アステリア王国に伝えろ。エルナ・フォン・バウムは、我がガレリア帝国の次期皇后として、俺が永遠に守護すると。……不満があるなら、兵を率いて来い。返り討ちにして、地図から貴様らの国を消してやる」
「……ま、待て……!我が国がどうなってもいいのか!浄化の力を持つエルナがいなければ、この大陸全体の魔力バランスが……」
「そんなものは知ったことか」
ギルバート様は吐き捨てるように言い、私の肩を抱き寄せました。
「君たちが『不吉』だと虐げ、ゴミのように捨てた少女は、今、俺の世界のすべてだ。……その価値に気づけなかった愚かさを、一生、泥を啜りながら悔やむがいい」
「あ、ああ……」
床に這いつくばるアルフレート様を見向きもせず、ギルバート様は私を連れて広間を後にしました。
控えめな私が、初めて自分の意志で告げた「嫌」という言葉。
それは、私の心にかけられていてた呪いを、魔法無効化の力よりもずっと鮮やかに解いてくれた気がしました。
「……よく言ったな、エルナ。誇らしいよ」
廊下に出た瞬間、ギルバート様が私を抱きしめ、耳元で愛おしそうに囁きました。
大きな手のひらが、私の背中を優しく撫でてくれます。
愛を知らなかった私は、この時ようやく、自分が本当に救われたのだと実感したのです。
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