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『魔法無効化の「欠陥」令嬢は、追放先で孤独な獅子王に心ごと救われる ~愛を知らない私が、隣国の陛下に「運命の人」だと溺愛される理由~』  作者: 一ノ瀬 陽
第1章:私を「無能」と呼んだ皆様、さようなら

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第2話:雪降る森で出会った、孤独な化け物

凍てつくような寒さに、私はゆっくりと目を開けた。

視界に飛び込んできたのは、高くそびえ立つ木々と、空から静かに舞い落ちる白い雪だ。


私は、荷馬車から放り出された拍子に、意識を失っていたらしい。

「帰らずの森」……隣国との国境にあるこの場所は、魔力が乱れ、恐ろしい魔獣が棲むと言い伝えられている。魔法も使えない私が、この雪の中で一晩を越すのは、きっと不可能だろう。


(死ぬのは、少しだけ怖いです。けれど……やっと、静かになれるのですね)


震える体に鞭打ち、私を這うようにして近くの岩陰へ向かった。少しでも風を凌ごうとした、その時だ。


「――っ、来るな……!俺に、近づくな……!」


地を這うような低い声が、吹雪のおとに混じって聞こえた。

驚いて声のした方へ視線を向けると、そこには一人の男が倒れ込んでいた。


夜の闇よりも深い、漆黒の戦衣。その隙間から溢れ出しているのは、見るも悍ましい、赤黒く濁った魔力の奔流だった。魔力が暴走しているのだ。あまりの密度の高さに、周囲の木々はひび割れ、雪は熱で蒸発している。


「あ……」


男の瞳は、強すぎる魔力ゆえの苦痛に濁り、血走っていた。彼は獣のような唸り声を上げ、自身の頭を抱えてのた打ち回っている。

普通の人なら、この魔力に触れただけで体が弾け飛んでしまうだろう。


けれど、私はなぜか、恐怖よりも先に「熱そう」だと思ってしまった。

愛されず、必要とされず、孤独の中で消えようとしている彼の姿が、今の自分と重なって見えたからかもしれない。


「大丈夫、ですか……?」


私は、震える足で彼に歩み寄った。


「寄るなと言っている……!俺に触れれば、貴様など一瞬で灰に……」


男の言葉を遮るように、私は彼に触れた。

魔法を操れない私の、冷えた両手。それで、熱に浮かされる彼の頬を、包み込むように。


その瞬間だった。


バチリ、と空気が弾ける音がした。

彼から溢れ出していた禍々しい魔力が、私の指先に触れた瞬間、嘘のように霧散していく。濁った赤黒い光は透き通った粒子へと変わり、夜の森へと静かに溶けて消えた。


「え……?」


男の動きが、止まった。

激しい呼吸が次第に整い、苦痛に歪んでいた表情が、信じられないものを見たという驚愕に染まっていく。


「消えた……?俺の、魔力が……鎮まって……」


男の瞳に、理性の光が戻る。金色の美しいけれど悲しいほどに震える瞳。

彼は吸い寄せられるように、私の手に自らの手を重ねた。


「君は……。誰にも、俺の魔力は止められなかったのに。どうして、君の手は……こんなに、温かいんだ……?」


彼はまるで、迷子の子供のような顔をして、私の手を取ったまま、雪の上に膝をついた。

それから、私の腰に縋り付くかのようにして、力の限り私を抱きしめた。


「行かないでくれ。何でもする。何でも差し出す。だから、俺の側に……この地獄のような静寂の中に、君だけはいてくれ……」


それは、王者の威厳など微塵もない、切実な嘆願だった。

初めて、誰かに強く求められた。

私の「欠陥」だと思っていた手が、この人を救った。


私は、おずおずと彼の背中に手を回した。


「……はい。私でよければ、お側に」


この出会いが、私の運命を大きく変える始まりだった。

隣国の皇帝、ギルバート様。

孤独な獅子王と呼ばれた彼と、居場所を失った私の、奇妙な旅が始まった。

最後までお読みいただきありがとうございます!


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