第1話:卒業パーティーの断罪と、私の「欠陥」
シャンデリアの眩しい光が、私の影を床に濃く落としている。
王立学院の卒業パーティー。華やかな音楽と笑い声が響く中、私の周りだけは、ぽっかりと空いた空白のように静かだった。
「エルナ・フォン・バウム!貴様のような不吉な女を、これ以上我が国の王妃として置くわけにはいかない!」
会場の喧騒を切り裂いたのは、婚約者でもある第一王子・アルフレート様の鋭い声だった。
彼の隣には、桃色の髪をした愛らしい男爵令嬢、ミーナ様が寄り添っている。彼女は私の顔を見て、勝ち誇ったような、それでいて哀れむような笑みを浮かべた。
「……アルフレート様。それは、どういう意味でしょうか」
私は震えそうになる手を組み、静かに問い返した。
答えは分かっていた。けれど、公爵令嬢として、そして愛を知らぬまま「出来損ない」として育てられた女として、最後まで取り乱すことだけは自分に禁じていた。
「とぼけるのは大概にしろ!先日の魔力測定の結果は、既に私の耳に入っている。貴様の魔力値は『ゼロ』……。それどころか、測定器の魔石を曇らせ、機能を停止させたそうじゃないか」
会場に、クスクスという忍び笑いが広がる。
「魔力ゼロの公爵令嬢」「魔法を壊す呪われた子」――幼い頃から聞き飽きた蔑称が、さざ波のように押し寄せてくる。
「魔法こそがこの国の理であり、豊かさの象徴だ。それを持たぬどころか、聖なる魔力を打ち消すような不吉な女を妻にすれば、我が国の王統は汚れる。よって、今この時をもって貴様との婚約を破棄し、国外へ追放する!」
追放。その重たい言葉に、私の心は不思議なほど波立たなかった。
ただ、視界の隅で、実の父であるバウム公爵が、汚いものを見るような目で私を一瞥し、ふいと顔を背けるのが見えた。
(ああ、お父様。最後くらい、一度でいいから目を合わせてほしかった……)
期待しても無駄だと知っていたはずなのに、胸の奥がチクリと焼ける。
私は深く、深く膝を折って礼をした。
「……承知いたしました。今まで、お世話になりました」
悲鳴も、命乞いもしない私の態度が気に入らなかったのか、王子は忌々しげに鼻を鳴らした。
私は顔を上げ、一度だけ会場を見渡す。そこには私を助けようとする者は一人もいない。
私は静かに歩き出した。
背後で、再び音楽が鳴り響き、ミーナ様の可愛らしい笑い声が聞こえてくる。
私の席も、居場所も、最初からここにはなかったのだ。
王宮の外は、刺すような冷たい風が吹いていた。
迎えの馬車などない。兵士に腕を掴まれ、押し込められたのは、家畜運搬用の粗末な荷馬車だった。
向かう先は隣国との国境にある「帰らずの森」。
けれど、私はガタガタと揺れる窓の外を見つめながら、小さく息を吐いた。
もう、地下室で魔法の練習を強要されることもない。
「無能」と罵られながら、お父様の顔色を伺う必要もない。
寂しさと、それ以上の解放感。
この時の私はまだ知らなかった。
私のこの『魔法を消す手』が、世界でただ一人、孤独な獅子王の命を救う鍵になることを――。
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