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九戸政実、異世界で国を興す! ~今度の家臣はエルフとドワーフと、いたずら好きの妖精です~  作者: 凡夫 成


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第7話 獣人は話を聞かない!


食料問題に取り組むマサザネたちの前に、新たな種族の存在が明らかに!


今度のお相手は、身体能力抜群の獣人族。


しかし、そのリーダーはとんでもない力自慢だった!


戦国武将と脳筋獣人。


果たしてまともな交渉は成立するのでしょうか?


翌朝。


「マサー! 起きてー!」


「……もう少し寝かせよ」


「大変だよ!」


「また魔物か……」


「違う!」


「食料が尽きたか?」


「違う!」


「では、厠が――」


「なんで毎回トイレなの!」


政実は薄目を開けた。


目の前には、頬を膨らませたピピが浮いている。


「昨日の尻尾の人たち、見つけたよ!」


「……ほう」


一瞬で眠気が飛んだ。


「どこじゃ?」


「森の北側! でっかい鹿を焼いて食べてる!」


「では、挨拶に参ろう」


「えっ、今から?」


「善は急げじゃ」


「でも、マサ」


「なんじゃ?」


「まず服を着ようよ」


政実は自分の姿を見下ろした。


寝間着のままであった。


「……うむ」


「あと、髪の毛すごいよ」


「放っておけ!」


天下を争った武将にも、寝癖はつくらしい。


*


森の北側。


政実、リシア、ベルン、そしてピピの四人は、獣人たちの野営地を目指していた。


「獣人族には色々な種類がいるわ」


リシアが説明する。


「狼族、猫族、熊族、兎族……それぞれ得意なことも、暮らし方も違うの」


「ほう。獣の性質を持つ人々か」


「ええ。特に狼族は嗅覚と聴覚に優れているわ」


「それは便利じゃな」


「でも、気性が荒い者も多いから、気をつけて」


「大丈夫じゃ」


「何が?」


「わしも気性が荒いと言われたことがある」


「全然安心できない!」


ベルンが呆れたように言った。


「それに、相手は腕っぷしが強えんだぞ。下手に怒らせたら、俺たちなんか一瞬だ」


「ならば怒らせぬよう話せばよい」


「おめえにそれができるのか?」


「失敬な」


そのときだった。


ガサガサッ!


前方の茂みが揺れた。


「来る!」


リシアが弓を構える。


次の瞬間。


「うおおおおおっ!」


茂みから、大柄な男が飛び出した。


灰色の狼耳。


太い尻尾。


鋭い牙。


筋肉質の身体には革鎧をまとい、肩には大きな鹿を担いでいた。


「なんだ、お前ら!」


男は政実たちを睨みつけた。


政実は一歩前へ出る。


「九戸政実と申す。話を――」


「人間か!」


「うむ」


「俺たちの獲物を狙ってるのか!」


「いや、話を――」


「この鹿は渡さねえぞ!」


「だから話を聞け!」


「勝負なら受けて立つ!」


「誰が勝負を申し込んだ!」


政実の額に青筋が浮かんだ。


男は鹿を地面に置き、拳を鳴らした。


「俺はロウガ! 狼族の戦士だ!」


「わしは先ほど名乗った!」


「強そうには見えねえな!」


「十歳の身体ゆえな!」


「身体?」


「いや、こちらの話じゃ!」


リシアが小声で呟く。


「……嫌な予感が当たったわ」


ピピはすでに大笑いしていた。


「マサ! 狼のお兄ちゃん、全然話聞いてない!」


「おぬしも笑っておらずに助けぬか!」


*


「つまり、お前らは食い物が欲しいんだな?」


ようやく事情を聞いたロウガが、腕を組んだ。


「そうじゃ。正確には、食料を確保する知恵と協力が欲しい」


「だったら狩ればいい!」


「それが難しいから来たのじゃ!」


「なんでだ?」


「魔物がおる!」


「倒せばいい!」


「倒せぬから困っておる!」


「鍛えろ!」


「話が進まぬわ!」


政実は天を仰いだ。


前世でも血気盛んな武将は数多く見てきた。


だが、この男は別格である。


すべての問題を腕力で解決しようとしている。


「ロウガ殿。おぬしらは何人で暮らしておる?」


「今は十二人だ!」


「ほう。その十二人の中には、子供もおるのか?」


「いるぞ!」


「ならば、おぬし一人が強くても、皆を守りきれるとは限らぬじゃろう」


ロウガの耳がぴくりと動いた。


「……何が言いてえ」


「戦には役割というものがある。力の強い者、足の速い者、遠くを見渡せる者。それぞれが働けば、より多くの者を守れる」


「……ふん」


ロウガは鼻を鳴らした。


「難しいことは分からねえ!」


「難しくないわ!」


ベルンが思わず突っ込む。


政実は少し考えた。


「では、こうしよう。おぬしは鹿を仕留めるのが得意なのじゃな?」


「おう!」


「わしらは畑を耕し、道具を作れる」


「おう?」


「肉と野菜、道具を交換すれば、互いに得ではないか?」


ロウガはしばらく考え込んだ。


「……つまり」


「うむ」


「俺が鹿を狩る!」


「うむ」


「お前らが野菜を作る!」


「そうじゃ」


「そして一緒に食う!」


「その通り!」


ロウガは満面の笑みを浮かべた。


「それなら分かる!」


政実は深く息を吐いた。


「……最初からそう言えばよかったのう」


ピピが笑う。


「マサの説明、長いんだよ!」


「わしのせいか!」


*


「ところで、ロウガ殿」


「なんだ!」


「おぬしらは、なぜこの森で暮らしておる?」


ロウガの表情が少し変わった。


「……住んでた場所を追われた」


「誰にじゃ?」


「魔物だ」


ロウガは森の北を指さした。


「少し前から、山の奥にでかい魔物が増えた。俺たちの狩り場も、村も荒らされた」


「おぬしらでも勝てぬのか?」


「一匹ならやれるやつもいる。だが、群れで来やがるんだ」


政実は黙った。


獣人の力をもってしても、魔物の群れには勝てない。


この世界の脅威が、改めて胸に迫る。


「村はどうなった?」


「逃げた。仲間の半分は別の土地に向かった。俺たちは、まだここに残ってる」


「なぜじゃ?」


「年寄りと子供がいるからだ。遠くまで歩かせられねえ」


政実はロウガを見つめた。


乱暴で単純な男だが、仲間を思う気持ちは本物らしい。


「ならば、なおさら一緒に暮らさぬか」


「……何?」


「わしらは今、丘に砦を築いておる。おぬしらもそこへ来ればよい」


「人間と一緒にか?」


「そうじゃ」


「俺たちを家来にする気か?」


「違う。まずは隣人じゃ」


ロウガが目を丸くした。


「隣人?」


「互いに困ったとき、助け合う者じゃ」


そのとき、ピピが割り込んできた。


「あとね! マサの国には立派なトイレがあるよ!」


「トイレ?」


「すっごいの! ガルドが作ったんだよ!」


ロウガは真剣な顔になった。


「……飯はあるのか?」


「ある!」


「寝る場所は?」


「ある!」


「風呂は?」


「……まだない!」


「じゃあ駄目だ!」


「そこなの!?」


リシアが思わず声を上げた。


ロウガは大真面目だった。


「狩りの後は身体を洗いてえだろ!」


「確かにそうじゃな」と政実。


「しかも俺たちは毛が多い!」


「それは大変じゃ」


「泥がつくと取れねえ!」


「なるほどのう」


ベルンが頭を抱えた。


「おめえら、何の交渉してんだ!」


*


結局、ロウガはすぐに移住を決めなかった。


「まずは、お前らの砦を見せろ」


「構わぬぞ」


「それと、俺が狩りを教えてやる!」


「ありがたい」


「ただし、ひとつ条件がある!」


ロウガが不敵に笑った。


「俺と勝負しろ!」


「……は?」


「俺に勝ったら、仲間を連れて行ってやる!」


政実は額を押さえた。


「やはり勝負になるのか……」


「当然だ! 俺たちは強いやつが好きなんだ!」


「おぬし、わしの話を聞いておったか?」


「聞いてたぞ! 助け合いだろ!」


「ならばなぜ勝負なのじゃ!」


「そのほうが面白え!」


ピピが飛び跳ねた。


「やろうやろう! 勝負!」


「おぬしまで!」


リシアが政実の肩に手を置いた。


「諦めなさい。狼族には、腕試しを重んじる者が多いの」


「わしの身体は十歳じゃぞ」


「だから別の勝負を提案すればいいじゃない」


政実は、はっとした。


そして口元を緩める。


「なるほど。では、ロウガ殿」


「なんだ!」


「腕力では、おぬしに敵わぬ」


「当たり前だ!」


「じゃが、戦は腕力だけでは決まらぬ。勝負の内容は、わしに決めさせてくれぬか」


「面白え! 何でも来い!」


政実は一本の枝を拾った。


「森の向こうに、古い見張り台があるそうじゃな」


「ああ」


「そこまでの競争じゃ」


ロウガは大笑いした。


「がはは! お前が俺に走りで勝つつもりか!」


「ただし、わしらは全員で向かう。おぬしは一人じゃ」


「何人でも構わねえ!」


「先に見張り台の上へ、この赤い布を結んだ者の勝ちじゃ」


「よし!」


ベルンが政実の耳元で囁いた。


「おい、本気か? あいつの足、馬より速えぞ」


「分かっておる」


「じゃあどうするんだ!」


政実はにやりと笑った。


「戦は始まる前から始まっておるのじゃ」


*


「位置について!」


ピピが審判を務める。


「よーい……どん!」


ロウガが地面を蹴った。


その瞬間、姿が消えた。


「速っ!」


ベルンが叫ぶ。


木々の間を灰色の影が駆け抜けていく。


政実は動かなかった。


「マサ! 走らないの!?」


「慌てるな。リシア、頼む」


「はいはい」


リシアが風魔法で、赤い布を巻きつけた小石をふわりと持ち上げた。


小石は木々の上へ舞い上がる。


「……あっ」


ベルンが気づいた。


政実は笑った。


「わしらは全員で向かうと言った。誰も走らねばならぬとは言うておらぬ」


風に乗った小石が、遠くの見張り台へ飛んでいく。


そして――。


ぱさり。


赤い布が、見張り台の先端に引っかかった。


「勝負ありじゃ」


政実は満足げに頷いた。


ところが。


「マサザネ」


リシアが冷たい声で言った。


「何じゃ?」


「条件、覚えている?」


「赤い布を結んだ者の勝ちじゃ」


「……結んでないわよね?」


沈黙。


全員が見張り台を見た。


赤い布は、ただ引っかかっているだけだった。


「…………」


政実は咳払いした。


「ピピ」


「なあに?」


「結んでまいれ」


「審判にやらせるなー!」


その間に。


「うおおおおおっ!」


ロウガが見張り台へ到着した。


赤い布を見つけると、不思議そうに首を傾げる。


「なんだ、もう着いてんのか?」


布を手に取った。


「……結んでねえじゃねえか」


そして。


きゅっ。


自分の腰に巻いていた紐で、見張り台の柱へ布を結びつけた。


「よし! 俺の勝ちだ!」


戻ってきたロウガは、満面の笑みだった。


「がははは! やっぱり俺のほうが速かったな!」


政実は天を仰いだ。


「……策に溺れたか」


ベルンが腹を抱えて笑った。


「最後の最後で詰めが甘え!」


ピピは地面を転がっている。


「マサの負けー! マサの負けー!」


「やかましい!」


しかし、リシアだけは少し感心した様子だった。


「でも、面白い考え方だったわ。私ひとりでは風で運ぶことなんて思いつかなかったもの」


政実は肩をすくめた。


「使えるものは何でも使う。それが戦じゃ」


ロウガが腕を組んだ。


「……お前、変なやつだな」


「よく言われる」


「でも気に入った!」


「ほう?」


「普通の人間は俺の力を怖がる。お前は最初から、俺の力をどう使うか考えてた」


ロウガは大きな手を差し出した。


「いいぜ。しばらく、お前らの砦に世話になってやる!」


政実はその手を握った。


「よろしく頼むぞ、ロウガ殿」


「殿はいらねえ! ロウガでいい!」


「では、ロウガ」


「おう!」


「まずは、仲間を迎えるための家を造らねばならぬな」


「それなら俺も手伝うぜ!」


「ありがたい」


「木を運ぶくらいなら任せろ!」


リシアが即座に割り込んだ。


「勝手に木を切らないでよ!」


「なんでだ!」


「森が傷むでしょう!」


「また話し合いか!」


「当然よ!」


政実は二人を見比べた。


そして、深くため息をついた。


「……国を造るというのは、まことに話し合いが多いのう」


*


夕暮れ。


ロウガは仲間たちを連れ、マサザネの砦を訪れた。


狼族の男たち、女性、子供、そして年老いた者たち。


合わせて十二人。


村人たちは最初こそ警戒したが、ロウガたちが持参した鹿肉を見るなり、表情を和らげた。


「おお! 肉だ!」


「今夜はごちそうだ!」


ハンナが大鍋を用意する。


「よし、今日は歓迎の肉入りスープだよ!」


ロウガが歓声を上げた。


「肉! 肉! 肉!」


ピピも飛び跳ねる。


「お肉ー!」


政実は二人を見た。


「……おぬしら、似ておるのう」


「「どこが!」」


声が揃った。


リシアが笑い、ベルンも肩を揺らした。


政実は焚き火の向こうに集まる人々を見渡した。


人間。


エルフ。


ドワーフ。


ピクシー。


そして獣人。


生まれも、姿も、力も違う。


だが、同じ火を囲み、同じ鍋から食事を分け合っている。


(……よい国になりそうじゃ)


そのときだった。


「マサザネ!」


ロウガが真剣な顔で近づいてきた。


「ひとつ、言っておくことがある」


「なんじゃ?」


「俺たちを追い出した魔物のことだ」


政実の表情が引き締まった。


「詳しく聞かせよ」


「山の奥から来たやつら……ただの魔物の群れじゃなかった」


「どういうことじゃ?」


「奴ら、逃げるやつを追いかけなかったんだ」


ロウガは低い声で続けた。


「まるで、俺たちを土地から追い払うのが目的みたいにな」


「……ふむ」


「それに、群れの後ろには……もっとでかいやつがいた」


「どれほどじゃ?」


ロウガは少し考えた。


「……あのオーガの、三倍くらいだ」


政実は黙り込んだ。


ピピが小声で囁く。


「マサ……今度の魔物、すごく大きいみたいだね」


「……うむ」


政実は夜空を見上げた。


星々は、奥州の空と変わらず美しかった。


しかし、その下に広がる世界は、かつての戦国よりもはるかに危険らしい。


「ロウガ」


「なんだ?」


「明日、山の様子を調べたい。力を貸してくれるか」


ロウガは牙を見せて笑った。


「おう! 今度こそ俺の力を見せてやる!」


「頼もしいのう」


政実も笑った。


ただし、次の言葉を聞くまでは。


「で、いつ突撃する?」


「偵察じゃと言うておろうが!」


夜の砦に、またしても怒鳴り声が響いた。


マサザネの家臣団に、今度は突撃しか知らぬ狼が加わったのであった。


――第7話・完――


##


第7話をお読みいただきありがとうございます!


ついに獣人族のリーダー、ロウガが登場しました!


身体能力は抜群、仲間思い、そして少々……いや、かなりの脳筋です。


これでマサザネの周囲には、エルフのリシア、ドワーフのガルド、獣人のロウガ、そしていたずら好きのピピが集まり始めました。


種族ごとの得意分野をどう生かしていくのか。いよいよ異世界建国らしくなってきましたね!


しかし、ロウガたちを故郷から追い出した巨大な魔物の存在も明らかに。


次回、第8話「殿、突撃はまだ早い!」


偵察のはずが、なぜか戦闘になりそうな予感……。


マサザネの苦労は、まだまだ続きます!


次回もよろしくお願いします!


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